fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 27-53 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
27-53 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
749 / 928
27-53 アキヒコ
蛇
(
へび
)
というより、まさしく東洋の
水墨画
(
すいぼくが
)
にあるような
龍
(
りゅう
)
や。
角
(
つの
)
と
鬣
(
たてがみ
)
がある。
稲妻
(
いなずま
)
を身に
纏
(
まと
)
っている。 そして赤い血のような
珠
(
たま
)
を、
後生
(
ごしょう
)
大事
(
だいじ
)
に
握
(
にぎ
)
りしめた、
鋭
(
するど
)
いかぎ
爪
(
づめ
)
のある手と、足が
一対
(
いっつい
)
あって、俺を見つめる目は、
煙
(
けむ
)
る月夜のような、
煌々
(
こうこう
)
として黒い
潤
(
うる
)
んだ
瞳
(
ひとみ
)
や。
胴
(
どう
)
の太さは馬
程度
(
ていど
)
。そやけど長い。うねうね
蜷局
(
とぐろ
)
を
巻
(
ま
)
いて、どれくらいあったんやろ。 美しい
龍
(
りゅう
)
や! なんともいえん
艶
(
なま
)
めかしさがある。 でもそんなこと言うてる場合やあらへん。アキちゃん
超
(
ちょう
)
ピンチや! 俺もうすぐ死ぬんや。どないしようって、ずっと
優雅
(
ゆうが
)
に言うとったけど、今までのは
寝言
(
ねごと
)
みたいなもんやったな。 いよいよ本番。しかももう待ったなしや! 俺はその黒い
龍
(
りゅう
)
に
鷲
(
わし
)
づかみにされたが、いやいや待ってくれって思ったよ。 ちょっと待ってまだ心の
準備
(
じゅんび
)
が! アキちゃんまだ心の
準備
(
じゅんび
)
ができていないような気がするし、もうちょっとだけ待つとかなんとかできないですか! しかし待ったなしや。
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
は、必要と思える
面子
(
めんつ
)
をわしわし
掴
(
つか
)
むと、一気に
神戸
(
こうべ
)
の空へと
舞
(
ま
)
い
上
(
あ
)
がった。 なぜ飛べるんや。
翼
(
つばさ
)
もないのに。
龍
(
りゅう
)
やから飛べるんや。
雀
(
すずめ
)
ちゃんやし、
朧月夜
(
おぼろづきよ
)
の
龍
(
りゅう
)
なんやしさ、こいつは空の
眷属
(
けんぞく
)
なんや。 元々からして天を
舞
(
ま
)
う
龍
(
りゅう
)
やねん。
電波
(
でんぱ
)
や
噂
(
うわさ
)
は
飛
(
と
)
び
交
(
か
)
うもんやろ?
霊振会
(
れいしんかい
)
の
皆
(
みな
)
さんがみるみる小さい地上の
芥子粒
(
けしつぶ
)
になっていき、その
一粒
(
ひとつぶ
)
一粒
(
ひとつぶ
)
が、
皆
(
みな
)
、ものすご
驚
(
おどろ
)
いた顔をしていた。
間近
(
まぢか
)
に
龍
(
りゅう
)
を見る
機会
(
きかい
)
というのは、さすがの
霊能者
(
れいのうしゃ
)
の
皆
(
みな
)
さんにも、
滅多
(
めった
)
にあることやなかったっぽい。 いつも
朧
(
おぼろ
)
を知ってるつもりやった
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
大先生も、
控
(
ひか
)
え
目
(
め
)
に言うて、
腰抜
(
こしぬ
)
けそうにびっくりしていた。
白狐
(
びゃっこ
)
に化けた
秋尾
(
あきお
)
さんも、そらもう
魂消
(
たまげ
)
たという様子やったけど、でもちょっと
嬉
(
うれ
)
しそうやった。 おかんもびっくりしていた。
蔦子
(
つたこ
)
さんも。 その
二人
(
ふたり
)
に
縋
(
すが
)
り
付
(
つ
)
かれたお
役得
(
やくとく
)
の俺のおとんは、なんでか
面白
(
おもしろ
)
そうに空を見上げて、こちらを見ていた。 俺やのうて、たぶん
朧
(
おぼろ
)
を。 ちょっと待て。俺、死ぬねんぞ、おとん。何
笑
(
わろ
)
うとんねん。 お前の
息子
(
むすこ
)
が死のうっていう時に、一体どういうことや! 俺がそう思うくらいに、おとんは
面白
(
おもしろ
)
そうやった。 もしかすると、おとんには、ずっと昔から、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
のこの
姿
(
すがた
)
が見えていたんかもしれへん。 そやからずっと、お前は神やって、言うてやってたんやないか。 それは別にお
世辞
(
せじ
)
でも、
口説
(
くど
)
きでものうて、おとんはただ見たまんまのことを、
朧
(
おぼろ
)
に教えてやってたんやないか。 本人すら知らん自分の
正体
(
しょうたい
)
を、あいつに教えてやってた。 お前は今、ただの
性悪
(
しょうわる
)
雀
(
すずめ
)
やろうけど、
頑張
(
がんば
)
れば
龍
(
りゅう
)
になれるでって。 それはひとつの
可能性
(
かのうせい
)
や。 あいつは
鬼
(
おに
)
。 あいつは神。 どっちになるかは、自分しか決められへん。 あいつは選んだ。神になるほうを。 おとんはそれを見て、満足やったんやろう。 良かったと、ほっとしたような面(つら)やったわ。 良かったなあ、ほんまに。良かった良かった……、って、何が良かったんや。 良うない! 俺死ぬんやで、おとん! 俺のことを心配しろ!
頼
(
たの
)
むし心配してくれ! 俺これからどないなるんや。ほんまに死ぬんか! 助けてー! アキちゃんのそんな悲鳴も
虚
(
むな
)
しく、俺、
水煙
(
すいえん
)
、
亨
(
とおる
)
、
瑞希
(
みずき
)
の四名は、黒い
龍
(
りゅう
)
・
朧
(
おぼろ
)
様に
神戸港
(
こうべこう
)
まで連れ去られた。
眼下
(
がんか
)
に見下ろす
神戸
(
こうべ
)
の街は、それはそれは、俺が地上で
想像
(
そうぞう
)
していた以上にひどい
有様
(
ありさま
)
やった。 何もかもが
瓦礫
(
がれき
)
と
化
(
か
)
し、あちらこちらで火が
燃
(
も
)
えていた。 あの火が
焼
(
や
)
き
尽
(
つ
)
くす
瓦礫
(
がれき
)
の下にも、人が
埋
(
う
)
まっているのかと思うと、
怖気立
(
おぞけだ
)
つような
怖
(
おそ
)
ろしい火やった。 地上にいる人らが、何を言うてんのかは分からん。
大崎
(
おおさき
)
先生は俺を追うのは
諦
(
あきら
)
めたようやった。
他
(
ほか
)
の
皆
(
みな
)
もそうや。 おとんもおかんも俺を追ってはこなかった。追いつかれへんかったからやろう。 それとも追っても意味がなかったからか。
霊振会
(
れいしんかい
)
の
皆
(
みな
)
さんが、
神戸
(
こうべ
)
の街にあふれる
踊る骸骨
(
ダンス・マカブル
)
の
残兵
(
ざんぺい
)
と、
未
(
いま
)
だに戦っているのが見えた。 見下ろすと、それはミニチュアの
古戦場
(
こせんじょう
)
みたいやった。 戦って、
一人
(
ひとり
)
でも多く救おうとしたんやろう。
霊振会
(
れいしんかい
)
の人らが
逃
(
に
)
げる気配はなかった。 ここに残っていて、もし俺が
龍
(
りゅう
)
を止めるのに失敗したら、
皆
(
みな
)
死んでまうのに、なんで
逃
(
に
)
げへんのやろう。 俺がちゃんとやるって、信用してんのやろか。 いいや、そうではなく。 もし失敗したとしても、
逃
(
に
)
げはしいひん。どうせ
逃
(
に
)
げられへん。
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せる
海神
(
わだつみ
)
は
一瞬
(
いっしゅん
)
で
神戸
(
こうべ
)
を
呑
(
の
)
む。 それを
皆
(
みな
)
、知っていたはずや。 この戦いに参加すると決めた時点で、それは死を
含
(
ふく
)
む
契約
(
けいやく
)
やった。 死を
賭
(
と
)
して
挑
(
いど
)
む仕事やったんや。 「
朧
(
おぼろ
)
、
津波
(
つなみ
)
が来るんか!」 びゅんびゅん飛ばれながら、俺は黒い
龍
(
りゅう
)
に
訊
(
たず
)
ねた。 そうや、来ると、
朧
(
おぼろ
)
は答えたような気がする。
前へ
749 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧