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28-06 トオル
そうやけど、お前はここで、ずうっと廃人 なってるつもりか?
信太 おらへん悲しいわあ、って、ぼうっとしとくんか。
それを永遠 に続けるか、それともそのまま消えてまうつもり?
それやと、まるで、怜司 兄さんそのまんまやな。
全く、どういう因縁 なんやろ。そんなとこまで真似 せんでええやん。
自分で自分の未来を切 り拓 いてみようって、お前は思わへんのか。
ああ、でも、確 かに難 しい。どないしたらええんか、俺にも分からへん。
竜太郎 にはああ言うたけど、具体的 にはノープランであることは変わりない。
アキちゃんを、信太 を助ける言うたかて、生 け贄 は要 るんや。
今のままでは、霊振会 の連中は、鯰 と龍 に生 け贄 を捧 げて、それで何とかしようって算段 や。
生 け贄 を助けてもうたら神戸 が滅 ぶ。
それではまずいということで、信太 も、俺のツレも、死ぬ覚悟 で出て行ったんや。
そこを解決 する方法を、なんぞ思いつかへんのやったら、ジタバタしても意味がないか?
そんなわけあるか!
ジタバタしながら考えるんや!
ジタバタするだけの意味はある。今までも、ずっとそうやったやないか。
ジタバタもがいて、お見苦 しく必死になってるうちに、たまたま偶然 、助かってきたんや。
竜太郎 を見ろ。
こいつが諦 め悪く、ずうっとジタバタしてくれたおかげで、俺は大きな希望をもらった。
ありがたいことや。ありがとう! 竜太郎 !
こっからは、俺がジタバタする番 や。
「一緒 に来い、寛太 !」
ノープランの俺は、脳 みそではない別の場所で考えた言葉で、とっさに話しかけていた。
「どこに……?」
めっちゃ掠 れた声で言い、寛太 が俺を見た。
お前、唇 ものすごカサカサなってるで。
何やねんそれ、ちょっとの間にやつれ過 ぎやろ。
それも何か、嫌 な予感がした。
こいつまさか、腹 減 ってきてんのとちゃうか。
最後に餌食 うたん、いつや。
昨夜 は精進潔斎 で、俺はアキちゃんとやってへん。
こいつも虎 とやってへんはずや。キスもしてへん。
そやから、霊力 が尽 きそうになってきてるんやないか?
やばいで、それは。
お前とやってくれそうな連中 はみんな出ていってもうたんやで。
その代わりをやれって俺に言わんといてくれよな。
俺にかて、広げられる世界に限界 はあんのや。
ごめんやから寛太 。頼 む。しっかりせえよ!
「信太 んとこ行こう」
俺の口が、俺でも思いつかんような事を突然 言うた。
えっ、なんでや。でもまあそうやんな。
こいつに餌 やるのは信太 の仕事やった。
二十四時間、いつでもどこでも、腹 が減 ったら餌 やりまくりや。
そやから、こいつには信太 が必要や。
信太 がおらんと死ぬんや。
腹 が減 っても、減 らへんでも、こいつは信太 と一緒 に居 りたいんや。
俺には分かるで、寛太 。お前のその切なく辛 い胸 のうち。
腹 減 ってつらい。寂 しい。愛 しい俺のツレと、抱 きおうてたいという、身を引き裂 かれるような悲しみが。
寛太 はやっと、悲しいという顔をした。
淡 く眉 を寄 せて、俺を見る寛太 の顔は、悲壮 やった。
「兄貴 に会いたい」
「そうやろ? 俺もアキちゃんに会いたなったんや。一緒 に行こう」
ほら、立てよって、俺は寛太 をさし招 いた。
そやのに鳥は腰 でも抜 けてんのか、立ち上がる気配 がない。
「けど……兄貴 がここで待っとけて言うてたんや」
また、うつむいてもうて、寛太 はボソボソ言うた。
「はあ? そんなん知るかやで。行こう」
「でも……怜司 が言うてた。生 け贄 は、怜司 が代わってやるから、ここで待ってたら兄貴 は帰ってくるって」
「そんなん嘘 やで」
ラジオの言う事を鵜呑 みにするな。
それは怜司 兄さんの思惑 やろうけど、その通り行くかは分からへん。
実際 、違 うたやろ? 皆 は知ってんのやろ?
信太 は、朧 が代わってやるわて言うたからって、そうかありがとう、ほな逝 っといてって言うような奴 やろか。
俺はそんな気がせえへん。
アキちゃんが、水煙 を自分の代わりに龍 に差し出す気が一切 ないのと同じで、信太 もせえへん。
何でかな。
言いたかないし、寛太 には言わへんかったけど、人でも神でも、自分が愛してるもんを犠牲 にして、我 が身 を救ったところで、嬉 しないのが本音 やからや。
俺かてそうやで。代わりにアキちゃんが死んでくれるってなっても、断 るわ。
そんなもん、解決策 やない。クソみたいな話や。
「でもまあ、そうやったらええよな。代わってもろて、虎 が助かりゃハッピーエンドや。お前にとってはな。そう思うてる割 に、何でお前はそんな顔しとんのや。死んでるみたいな面(つら)やで」
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