fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 28-07 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
28-07 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
759 / 928
28-07 トオル
寛太
(
かんた
)
はな、別にアホやない。
不死鳥
(
ふしちょう
)
は、人間に
知識
(
ちしき
)
を
授
(
さず
)
ける
霊獣
(
れいじゅう
)
やねんで。 俺よかずうっと
賢
(
かしこ
)
いんやで。
寛太
(
かんた
)
はほんまは、これから何が起きようとしてるのか、分かってたはずや。 ただ、それを受け入れるのが
怖
(
こわ
)
かっただけやねん。 アホのふりして、
逃
(
に
)
げときたかった。ぼうっと待ってたら、ハッピーエンドにならへんかなあって、そう思いたかったんやろう。 俺かてそう思いたいわ。 今すぐハッピーエンドに。 アキちゃんが、お待たせ
亨
(
とおる
)
、仕事終わったで、
出町
(
でまち
)
帰ろか、て言うて、そこらへんからひょっこり
戻
(
もど
)
る。そういうオチがええわ。
楽
(
らく
)
やもん。 でもそんなもんはな、お前の弱さや。 そんなんやから、お前は
誰
(
だれ
)
も助けられへんのや。 自分の身さえ、守られへん。 「
情
(
なさ
)
けなないんか、
寛太
(
かんた
)
。ここで待ってて、
皆
(
みな
)
が帰ってきたとき、ごめんなあ
信太
(
しんた
)
死んだわって言われて、それが
永遠
(
えいえん
)
の別れや。そんなんでお前は、
納得
(
なっとく
)
できるんか? 自分が
悔
(
くや
)
しくないんか。お前にできることは、もう何もないんか?」 「助けたい。
兄貴
(
あにき
)
を」 ぽつりと
寛太
(
かんた
)
が言うた。 俺はその泣きそうなってる目と
睨
(
にら
)
み
合
(
お
)
うてた。 「ほな行こうや」 「でも……どうやって行くん?」
寛太
(
かんた
)
が、
天井
(
てんじょう
)
を見上げて言うた。 俺はそれを、しばらくじいっと見ていた。 何でお前は、上を見るんや。
皆
(
みな
)
が出て行った通路の方やのうて、何で上や。 俺も
一緒
(
いっしょ
)
に
天井
(
てんじょう
)
を見上げてみたが、そこには何もなかった。 ただの
天井
(
てんじょう
)
や。 暗い
灰色
(
はいいろ
)
のコンクリートで
一面
(
いちめん
)
固められてる、
頑丈
(
がんじょう
)
さだけが売りみたいな、
殺風景
(
さっぷうけい
)
な
天井
(
てんじょう
)
やった。 そうやのに、
寛太
(
かんた
)
は何や、もっとずうっと上を見ているような目つきやった。 まるで月でも見ているみたいに。 「ちょっと待て、
寛太
(
かんた
)
。何が
視
(
み
)
えてんのや」 「え……。何って……空が……」 びっくりしたように、
寛太
(
かんた
)
は不安そうに答えた。 言うたらあかん事を言うてもうたんかな、しくじったみたいな顔やった。 開いた口のまま、俺は考えてた。真っ白な頭で。 それで何か思いついたんかどうか、自分でも分からへん。 「俺には
天井
(
てんじょう
)
が見えてる」
寛太
(
かんた
)
にそう教えると、鳥は、えっという顔をして、チラッと上を
盗
(
ぬす
)
み
見
(
み
)
た。
天井
(
てんじょう
)
を
探
(
さが
)
してるようやったけど、鳥にはそれが見えてへんようやった。 「ごめん。分からへん……」 「ごめんなことないで、
寛太
(
かんた
)
。それはここから出るヒントかもしれへん。お前は、空が飛べるんか?」 俺は飛べるよ。
蝶
(
ちょう
)
の
群
(
む
)
れに
化
(
ば
)
けてやけど。 鳥さんも鳥なんやし、飛べるやろう。 飛べへん鳥やなんて言わんといてくれよ? 「分からへん。あんまり飛んだことない。
変転
(
へんてん
)
できるようになったのも、つい最近やないか。俺には……まだ、分からへん」 「
今日
(
きょう
)
飛べ。今から。
一緒
(
いっしょ
)
に行こう。
信太
(
しんた
)
は今にも死にそうになってるかもしれへんで。お前が行って止めてやれ。
怜司
(
れいじ
)
兄さんに代わってもらうていうんやったら、
信太
(
しんた
)
には無理や。そうしてくれって、お前が自分で頭下げて
頼
(
たの
)
め」 「でも……」 「
怜司
(
れいじ
)
兄さんがタダで死んでくれると思うてんのか? あの人、
信太
(
しんた
)
が好きなんやで。お前にとっては
恋敵
(
こいがたき
)
やろ。そんな
奴
(
やつ
)
に
信太
(
しんた
)
を助けてもらうんか? それであいつは、
怜司
(
れいじ
)
兄さんのことを、あっさり
忘
(
わす
)
れて、お前と生きてってくれるんやろか」 そんな
訳
(
わけ
)
ない。 そうして死に別れた
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
のことは、
信太
(
しんた
)
にとっては
永久
(
えいきゅう
)
不滅
(
ふめつ
)
の
傷
(
きず
)
になる。
永遠
(
えいえん
)
に心のどこかで、あいつは
想
(
おも
)
い続けるやろう。 自分のために死んでくれた、
哀
(
あわ
)
れで
愛
(
いと
)
おしかった別の鳥さんのことをな。
寛太
(
かんた
)
はそれでも平気なんか? 平気やったら別にええねん。 俺なら
妬
(
や
)
けてもうて
辛
(
つら
)
いけど、お前が平気ならまあ、どうでもええか。 俺はあえて何も言わんと、じっと
寛太
(
かんた
)
を見下ろしていた。
寛太
(
かんた
)
は目を
閉
(
と
)
じて、何か
考
(
かんが
)
え
込
(
こ
)
むふうやった。 こいつが
苦悩
(
くのう
)
してる顔なんか、初めて見たわ。
信太
(
しんた
)
と
居
(
お
)
ると、お前はいつもポカーンとしてて、アホみたいやったから。 そうやけど、今にして思えば、
信太
(
しんた
)
抜
(
ぬ
)
きでサシで話してる時のお前は、どことなく、ミステリアスな
憂
(
うれ
)
い顔やったよな。 まるでアホとは思えんような、いろいろ知ってる顔つきやった気がするわ。 うつむく
寛太
(
かんた
)
の白い
額
(
ひたい
)
には、その時も、うっすらと
憂
(
うれ
)
いを
帯
(
お
)
びた表
情
(
じょう
)
があった。
乱
(
みだ
)
れた
髪
(
かみ
)
のまま、力なく
座
(
すわ
)
り
込
(
こ
)
んでるけど、
寛太
(
かんた
)
の苦しい
自問自答
(
じもんじとう
)
が、俺には見えるようやった。 やがて顔を上げ、
寛太
(
かんた
)
は俺を見た。 助けて
欲
(
ほ
)
しそうな目やった。 今までずっと、
誰
(
だれ
)
かに守られ、
甘
(
あま
)
やかしてもろうてきた
奴
(
やつ
)
の目や。 お前は今まで一回も、
一人
(
ひとり
)
で立ったことがない。
可愛
(
かわい
)
い面(つら)して、
信太
(
しんた
)
の
兄貴
(
あにき
)
に守ってもろてたんやもんな。 そやけど、
信太
(
しんた
)
はもういない。今度はお前が、あいつを守ってやる
番
(
ばん
)
や。 俺を見ながら、
寛太
(
かんた
)
はゆらりと立った。
吹
(
ふ
)
けば飛ぶような、
頼
(
たよ
)
りない
姿
(
すがた
)
やった。 「
一緒
(
いっしょ
)
に行く」
小声
(
こごえ
)
でそう言う
寛太
(
かんた
)
に、俺は
頷
(
うなず
)
いた。
一緒
(
いっしょ
)
に行こう。
前へ
759 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧