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三都幻妖夜話(3)神戸編 28-10 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
28-10 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
762 / 928
28-10 トオル
広島
(
ひろしま
)
で、
原爆
(
げんばく
)
の
直撃
(
ちょくげき
)
を食らった
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、とっさに別の
位相
(
いそう
)
へ
逃
(
に
)
げることで、自分を
救
(
すく
)
おうとした。 テレポートやな。 わが身ひとつ
救
(
すく
)
えばええだけやったら、
一瞬
(
いっしゅん
)
で遠い
彼方
(
かなた
)
まで
跳
(
と
)
べばいい。 ワープやな。 そやけど
爆心
(
ばくしん
)
地には多くの人間もいた。 暑い夏の
昼日中
(
ひるひなか
)
やった。 大人も
子供
(
こども
)
も、
赤ん坊
(
あかんぼう
)
もいた。 それを
救
(
すく
)
わなあかんて、
怜司
(
れいじ
)
兄さんはとっさに思ってもうたんやな。
生身
(
なまみ
)
の人間を
一気
(
いっき
)
にワープさせるのは無理や。 それ
自体
(
じたい
)
で死んでまうかもしれへん。
元
(
もと
)
も
子
(
こ
)
もない。 そやからな、兄さんは
段階的
(
だんかいてき
)
に
位相
(
いそう
)
をずらした。バウムクーヘンみたいに重なった
位相
(
いそう
)
のお
隣
(
となり
)
へ、お
隣
(
となり
)
へと、
順々
(
じゅんじゅん
)
に人間どもを
移
(
うつ
)
してやり、その中心にあったのが、あのコンクリート
詰
(
づ
)
めの
大広間
(
おおひろま
)
や。 そこまで
逃
(
に
)
げ
果
(
おお
)
せれば安心、安全やった。 少なくとも
即死
(
そくし
)
はせえへん。
皆
(
みな
)
、
神隠
(
かみかく
)
しにあったわけや。 そして様子を見てから、
無難
(
ぶなん
)
そうな
現世
(
げんせ
)
にぽいっと
戻
(
もど
)
しといてやればいい。 まあ、それで、助けられた
奴
(
やつ
)
らもおったんやろうけど、ウラヌスの放つ光と熱は、
間一髪
(
かんいっぱつ
)
のとこまで追いついていた。 この
穴
(
あな
)
の向こう。
怜司
(
れいじ
)
兄さんを
骨
(
ほね
)
になるまで
灼
(
や
)
き
尽
(
つ
)
くした
冥界
(
めいかい
)
の火が、そこに、そこにあるんやで、
寛太
(
かんた
)
! ここしか出口はなかったんかなあ、ほんまに。 アキちゃんのためなら、たとえ火の中、水の中っていうアレの、火の方やな。 俺、もうちょっと
可愛
(
かわい
)
い火をイメージしてたわ。 ここまでの火じゃないとあかん?
火力
(
かりょく
)
ありすぎですよ。 それでも
寛太
(
かんた
)
は
怯
(
ひる
)
むことなく、
位相
(
いそう
)
の
境目
(
さかいめ
)
を
超高速
(
ちょうおんそく
)
で
突破
(
とっぱ
)
した。 ガラスが
割
(
わ
)
れるようなガチャーンていう手ごたえがあり、通路の向こう側の
位相
(
いそう
)
と、こっち側が
繋
(
つな
)
がってもうた。 えらいこっちゃああああ! 水出せ、水水!
熱
(
あつ
)
いいいいい‼︎
皆
(
みんな
)
、死んでまう!
藤堂
(
とうどう
)
さん!
竜太郎
(
りゅうたろう
)
!
小夜子
(
さよこ
)
さんと、それから
誰
(
だれ
)
や、
霊振会
(
れいしんかい
)
の家族会の
皆
(
みな
)
さん! ホテル
従業員
(
じゅうぎょういん
)
とそのご家族! 朝飯屋のマスターのジョージ! それからそれから……! そういう
諸々
(
もろもろ
)
が一気に俺の
脳裏
(
のうり
)
を
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り、俺はウラヌスの
霊威
(
れいい
)
が
眼下
(
がんか
)
の
防空壕
(
ぼうくうごう
)
を
襲
(
おそ
)
うのを、何とか止めようとした。 気づくと白い大蛇(おろち)に
変転
(
へんてん
)
してて、大量の
真水
(
まみず
)
を
呼び出
(
よびだ
)
し、その
壁
(
かべ
)
で、ウラヌスの光を
押し返
(
おしかえ
)
そうとしてた。 でもな。無理。はっきり言うて無理。ウラヌスの方が強い。 本人もう
居
(
お
)
らんのやで。昔、
一瞬
(
いっしゅん
)
だけ
召喚
(
しょうかん
)
されただけで、その
残り香
(
のこりが
)
か、何か、
気配
(
けはい
)
の
端
(
はじ
)
っこみたいなのんが、ずうっと
缶詰
(
かんづめ
)
なって冷めてきてたようなヤツやねん。 もともとちょびっと
漏
(
も
)
れただけの力の、さらに耳かき一
杯
(
ぱい
)
ぶんの、それを冷ましたやつやねん。 それでもな、
亨
(
とおる
)
ちゃん、
骨
(
ほね
)
だけになるまでローストされるから。 ノーガードじゃなかったけど、水に
包
(
つつ
)
まれてみたけどな、あっという間に
蒸発
(
じょうはつ
)
するから。 むしろ
水蒸気
(
すいじょうき
)
爆発
(
ばくはつ
)
してるから。バーンやから。 しかも
忘
(
わす
)
れてたけど、大蛇(おろち)やと空飛ばれへんやん? 落ちるやん?
水蒸気
(
すいじょうき
)
ドーンなって、ヒューって落ちるし、焼けてるし、真っ黒
焦
(
こ
)
げやしさ、死ぬわ。 死んだと思うわ。 俺、死体やったわ。 「
亨
(
とおる
)
ちゃん⁉︎︎」 なに死んどうのやって、びっくりしたらしい
寛太
(
かんた
)
が
舞い戻
(
まいもど
)
ってきて、でかい
鉤爪
(
かぎづめ
)
で親切にも俺をひっ
掴
(
つか
)
み、なにやっとうのや
早
(
はよ
)
う行くでって、
穴
(
あな
)
ん中に連れてってくれた。 ありがとうやで
寛太
(
かんた
)
。
冥界
(
めいかい
)
の
地獄
(
じごく
)
にご
案内
(
あんない
)
してくれて。 俺らが開けた
大穴
(
おおあな
)
のところに、うわああって大量の黒ダスキンが
湧
(
わ
)
いてた。 まっくろくろすけみたいや。 そいつらが、あっちこっちから集まってきて、
燃え尽
(
もえつ
)
きながら
位相
(
いそう
)
を
閉
(
と
)
じていくねん。 そのおかげで、
退路
(
たいろ
)
はもうない。 そのおかげで、
防空壕
(
ぼうくうごう
)
は守られたんやろう。 俺のポチも、あそこで死んだんやろか。 次々と燃えカスになって落ちて行く
奴
(
やつ
)
らを見ながら、俺は
寛太
(
かんた
)
に
引っ掴
(
ひっつか
)
まれて、
灼熱
(
しゃくねつ
)
の中を飛んだ。 どんどん飛んだ。
途中
(
とちゅう
)
、ほとんど
意識
(
いしき
)
のなくなる
瞬間
(
しゅんかん
)
もあった。 アキちゃん、て、愛しいツレのことを心で
呼
(
よ
)
んで、俺は自分が消えないように持ちこたえた。 アキちゃんに、もう
一遍
(
いっぺん
)
会うんや。俺はあいつを助けに行くんや。 こんなとこで、消えてたまるか。ただただ俺は、あいつに会いたいんや。 そうやってな、
根性
(
こんじょう
)
出して
踏ん張
(
ふんば
)
ってたら、
寛太
(
かんた
)
は急に、だだっ広いところへと飛び出した。 何も
遮
(
さえぎ
)
るものがない、どこまでも広がった世界。
現世
(
げんせ
)
やった。
異界
(
いかい
)
の通路を
抜け出
(
ぬけだ
)
して、俺らはアキちゃんのいる、
信太
(
しんた
)
もいてる、
皆
(
みな
)
が
居
(
お
)
るのと同じ
位相
(
いそう
)
へと、
戻
(
もど
)
ってこられたんや。 やったー! 出られた‼︎
寛太
(
かんた
)
はもちろん、
無傷
(
むきず
)
やった。 ええなあ火の鳥って。お前は
地獄
(
じごく
)
の
眷属
(
けんぞく
)
か。 ぜんっぜん何ともないんやな。 俺なんか見てみろ。消し
炭
(
ずみ
)
や。
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椎堂かおる
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