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28-13 トオル
あいにくと、俺はそういうの慣 れてんねん。
気の毒やで? そら、痛 ましいわ。
そうやけど、俺はこういうのを、古代の昔から数知れず見てきてる。
戦争や、災害 で、人は死に街は壊 れ、皆 が苦しむ。
それは度々 起きてきたことや。いちいち泣いてたら身がもたへん。
そういう俺はスレてんのやろな。
寛太 は俺と違 うて、スレてへん。ピッカピカや。
こんな状況 は生まれて初めて見たんや。
これが、信太 の兄貴 が言うてた、俺が救 うべき神戸 の民 やて、心が揺 さぶられた。
寛太 は野戦病院 の惨状 を見て、ポロリと泣いた。
苦しい胸 の内 が、涙 になって流れ出たんやろうか。
それをすかさず神楽 瑤 はさっきとは別のガラスの小瓶 で採集 してた。
お前は何本、瓶 持って歩いとんのや。
ここちょっと感動的なシーンやろ。
寛太 の目に瓶 グイグイやっとる場合やないやん。
「この涙 のサンプルで治療 できないか試 してみます。先を急いでるんでしょう?」
事情 は知ってるという口調 で、神楽 はこちらは見ず、いくらでも居 るような患者 の群 れに目を向けていた。
「ほんまやったら残って欲 しいところでした。人手 が……というか、治癒 系 の手が足らへんのです。血が、要 るんです。回復 の奇跡 を起こすための」
そう言って振 り返 った神楽 の目は、疲 れてんのか、軽く血走 ってて、めっちゃ物欲 しそうやった。
血がな、欲 しいんやって。神父さんな。
「霊振会 の人らは、僕 からはもう採 れないと言うてます。採血 していい容量 超 えたって」
えっ、ちょい待ち。瑤 ちゃん、献血 してもうたの?
えっでもでも、でもな、お前、藤堂 さんとやりまくりやろう?
アレ飲んだり血吸 うたり吸 われたり、してません?
した? した、よね、たぶんね……?
ちょ、それ、ヤバない?
それを献血 すんのはヤバいよ。
俺かてこの数千年、そう簡単 に人間に血はやらんようにしてきたよ。
だって化けもんなってもうたらどうするのよう!
そやけど瑤 ちゃんの血液 は奇跡 の回復 薬やったらしいねん。ヴァチカンでもずっとそうやった。
ほんの数滴 、血をやれば、病気や怪我 が回復 するんやって。
一時的やけどな。
でもそれで、死なんで済 めば、あとは自力で回復 できるかもしれへんやろ?
まあ、そういうこともあってな、こいつはヴァチカンの秘蔵 っ子 やったんや。
だって再現性 百パーセントの奇跡 やで?
ウマいよ、そりゃあ、坊主 どもにとってはな。大事にもするよ。
オートクチュールの僧服 かて着せてまうよ。
しかもこいつ、それに慣 れきってて、当たり前の待遇 やと思うてるしな。
アキちゃんとはまた別の意味で、お坊 っちゃまなんやで。
「まあでも、説得 してみます。見殺しにはできないんでね。僕 もずいぶん、化けもんじみてきたし、人間の限界 くらい、少々やったら超 えられるでしょう」
しゃあないな、みたいに言うて、瑤 ちゃんテメエの血を絞 るつもりのようやった。
怖 ! 死ぬでお前。
やめとけやめとけ……。いくら不死 系 の仲間になってるかも言うたかて、血を流しすぎたら死ぬかもしれへんで。
俺かて京都駅で犬にドーンされた時は、めっちゃ血出て消えかけた。
助かったから良かったようなものの、危 なかったで。
そやのにお前は自分で自分の血を絞 ろうっていうんか?
ロックな奴 やなあ。
俺は何も言わんかったけど、全部顔に出てたんやろうか。
ぎょええ的な顔で見ている俺に、神楽 は苦笑 してた。
「何ちゅう顔するんや。僕 が死んでも貴方 は困 らないでしょう」
「俺が困 らんでも、オッサン困 るやろ」
そういう意識 はお前らにはないんか。
殉職 やからオッサン分かってくれるんか。
よう頑張 ったなあて言うてくれるんか?
「困 るんですかねえ……どうやろうな」
シニカルに笑うて、神楽 はもう行くみたいやった。
「骨 に気をつけてくださいね。ここからロックガーデンめっちゃ遠いですよ。本間 さん達 は魔法 でショートカットしたらしいけど、その道はもう閉 じてもうてるらしいので。飛べるんやったら、飛んで行ったほうがいいと思います」
飛べるんやんな、という不思議 そうな目で、神楽 は寛太 を見つめた。
こいつにも不死鳥 の姿 が見えてるんやろか。
「不死鳥 の涙 、ありがとう。役立てます。神のご加護 がありますように」
神父らしい別れの言葉を口にして、神楽 は、あっ、つい言うてもうたという顔をした。まだまだ神父癖 が抜 けへんなあ。
それっきり、チャオと手を振 り、バイバイや。
死ぬなよ、破戒 神父。
しぶとく生き残って、あのオッサンをもっと困 らせてやれ。
そんなことできるんは、今となってはお前くらいのもんや。
小説家のジョージに盗 られんように、気ぃつけや。
アディオス。さようならと別れ、それが永遠 の別れやて、そういうこともあるんかな。
俺にはまだ実感が無 うて、神楽 瑤 との別れも、これが永遠 なのか、また出会う日もあるんか、見当 もつかへんかった。
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