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28-15 トオル

 ロックガーデンで瀕死(ひんし)信太(しんた)を見た時、(おれ)の心に()かんだのは、あの時の水盆(すいぼん)にゆらゆら()いてた籤占(くじうら)(ふだ)やった。  信太(しんた)(まこと)の名が書かれた短冊(たんざく)が、(おれ)(あやつ)る水のせいで、()(にえ)として選ばれた。  信太(しんた)を殺したのは(おれ)や。  そういう気がして、(おれ)は死にゆく信太(しんた)正視(せいし)でけへんかった。  寛太(かんた)の事もや。  (おれ)寛太(かんた)をホテルから連れ出す時、信太(しんた)を助けに行こうって(さそ)った。  助ける道があるんやと、寛太(かんた)は思うたんやろう。  (おれ)も思てた。ノープランやったけど。  助かるんちゃうの? って思うてた。  だって。何で信太(しんた)が死ななあかんのや。何も悪いことしてへん。  いや、したのかもしれへん。あいつ自身が言うてたように、あいつには、守るべき(たみ)()ったのに、それを()たせず、罪深(つみぶか)(とら)で、その(つぐな)いとして神戸(こうべ)(すく)()(にえ)になるのが運命やったんかもしれへん。  そうやったとしても、(おれ)信太(しんた)可哀想(かわいそう)や。  あんな死に方をせなあかんような(つみ)が、()たして信太(しんた)にはあったんか?  (おれ)にハメられ、当たらんでいい(くじ)に当たってもうたせいで、あんなめに()うたんやないか?  そう思うと、(おれ)(こわ)くて、必死やった。  必死に考えた。(おれ)はこの(つみ)を、どないして(つぐな)う?  鳥さん泣いてた。めちゃめちゃ泣いて、怒ってた。怒りすぎてアキちゃんを()(ころ)そうとした。  それも当然やったんかもしれへん。(いと)しい男が殺されたんや。信太(しんた)寛太(かんた)にとって、世界の(すべ)てやったのに、それを(みな)が自分らの都合(つごう)(うば)ってもうたんや。  寛太(かんた)全身全霊(ぜんしんぜんれい)で怒ってた。水煙(すいえん)はあいつが(おに)になってると言うた。もう()らなしょうがないて。  あいつはすぐ、そういうこと言うんや。ほんまは(おに)()りたいんやで。うずうずしてんのや。()るのが大好きなんや。  それでも、アキちゃんが何とか(こら)えてくれた。寛太(かんた)を殺さんといてくれた。  寛太(かんた)にかて何の(つみ)もない。  あのまま()っておいたら、(たし)かに寛太(かんた)(いか)(くる)うにまかせて、神戸(こうべ)(あだ)をなす(おに)になってたんかもしれへん。  (いか)りの火で、(なまず)(おそ)われた神戸(こうべ)猛火(もうか)をもたらし、悲惨(ひさん)()()ちをかけてもうてたかもしれへんな。  そうやけど、それはまだやってへん(つみ)や。  (おれ)寛太(かんた)救護所(きゅうごしょ)で、(きず)ついた神戸(こうべ)(たみ)を見て、(なみだ)を流すのを見た。  寛太(かんた)は、ええ(やつ)や。(おに)やない。()らんといてくれアキちゃん。  寛太(かんた)を助けてやってくれって、(おれ)(いの)った。全力で。  (いの)るだけやと足りへん。(おれ)は必死で口から出まかせ、思いつく(かぎ)りのことを言うて、これがハッピーエンドのコースになれるよう、頑張(がんば)ったよ。  その話は(みな)、アキちゃんから聞いたやろう? (おれ)は何言うてた?  実は(おぼ)えてへんねん、それも。  必死すぎてテンパってもうてて、ほんまに口から出まかせ、(のう)みそを(かい)さずに適当(てきとう)言うててん。  笑けるな……。  そやけど、ごめん。それが(おれ)や。結果オーライの(とおる)ちゃんや。  (へこ)むわあ。ええんかな、(おれ)はそれで。  寛太(かんた)(おに)にならんで()んで、良かったわあ。ほんまにほんまに良かった!  (おれ)説得(せっとく)素直(すなお)に心を()()えてくれた不死鳥(ふしちょう)は、キラキラ光る(なみだ)宝石(ほうせき)のように()()らしながら、冥界(めいかい)の手に落ちた信太(しんた)(たましい)(さが)して、神戸(こうべ)上空(じょうくう)を飛び回った。  (なみだ)はあちこちに()(そそ)いだ。寛太(かんた)(なみだ)を流し続けてたからや。  信太(しんた)(うしな)い、寛太(かんた)(いと)しいものが死にゆく(つら)さを味わった。  そうして上空(じょうくう)から見下ろした神戸(こうべ)には、今まさに(うしな)われようとしている、(だれ)かにとっての(いと)おしい者たちが、(きず)つき苦しみ、死の痙攣(けいれん)(ふる)えてる末期(まつご)有様(ありさま)で横たわっていた。  寛太(かんた)にはそれが、(なみだ)なしには見られへん光景(こうけい)やったんやろう。  不死鳥(ふしちょう)(なみだ)や。  それは雨のようにしとしと()り注いだ。  ほんまの水とは(ちが)う。寛太(かんた)は火の鳥やしな、熱い雨やったやろう。  (ほこり)(すす)(よご)れた人々の(ほほ)に、熱い(なみだ)のような霊雨(れいう)()(そそ)ぎ、瀕死(ひんし)の者、大怪我(おおけが)をした者、(ほね)(たましい)()かれた者も、みるみる生命力を()(もど)し、(むね)には希望が()いた。  神戸(こうべ)の上空には巨大(きょだい)な、不死鳥(ふしちょう)を思わせる()()な雲が()いていた。  それは寛太(かんた)やったやろう。  不死鳥(ふしちょう)姿(すがた)を見る眼力(がんりき)のない一般人(いっぱんじん)にとっては、それは鳥の形の雲に見えたらしいわ。  不死鳥(ふしちょう)やと、(だれ)からともなく(うわさ)は広まった。  (だれ)()ったか知らん動画も、すぐさまネットやテレビで流れた。  神戸(こうべ)不死鳥(ふしちょう)(あらわ)れたんやと。  それはただの雲やったやろけど、でもただの雲が、何時間も不死鳥(ふしちょう)の形をしたまま、神戸(こうべ)の空を飛び回った。  その雲からは雨が()っており、浴びた者は(きず)(いや)された。  それが奇跡(きせき)でなくて、なんなんや?  それこそ神戸(こうべ)の待ち望んでいたフェニックスやと、人間どもは(うわさ)した。  ずっと待ってた不死鳥(ふしちょう)が、とうとう来たんや。もう何も、心配いらへんで、って。  そういう(あわ)信仰(しんこう)は、人から人へ、何の根拠(こんきょ)もなく広まった。  一体、(だれ)仕業(しわざ)やろうか。

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