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三都幻妖夜話(3)神戸編 28-20 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
28-20 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
772 / 928
28-20 トオル
焦
(
あせ
)
ってるんか
水煙
(
すいえん
)
の
口調
(
くちょう
)
は
荒
(
あら
)
く、
尊大
(
そんだい
)
やった。 兄さん、それが
初対面
(
しょたいめん
)
の
人魚
(
にんぎょ
)
にものを
頼
(
たの
)
む時の
態度
(
たいど
)
か。 それでは知ってることかて教えてはくれへんで。 それどころか、人魚たちは青い
唇
(
くちびる
)
を
歪
(
ゆが
)
めて笑い、
鋭
(
するど
)
い
牙
(
きば
)
を見せていた。 食べられちゃうわよ、どうするのよ、
水煙
(
すいえん
)
兄さん。 「こんな男やで」 するすると
人形
(
ひとがた
)
に
戻
(
もど
)
った
怜司
(
れいじ
)
兄さんが、ケツのポケットから
携帯
(
けいたい
)
を出して、アキちゃんの写真を見せた。 なにその写真。いつ
撮
(
と
)
ったんや、っていう
普段
(
ふだん
)
の写真が、なんでか
一杯
(
いっぱい
)
入ってた。 お前それ、
盗撮
(
とうさつ
)
やん? 何で
撮
(
と
)
ってたん。 写真、
欲
(
ほ
)
しかったの? ジュニアの? まあ、おとんとは別人やけど、見た目ほぼ
一緒
(
いっしょ
)
やし、何かの代わりにはなるわな。 何かって何のや。何に
使
(
つこ
)
うてたんや兄さん。
怖
(
こわ
)
い。 人魚たちは、ちょっと見せてよって電話に集まってきて、海底でも明るく光っている画面を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
んでは、
鋭
(
するど
)
い歯を見せたまま、くすくすと笑った。 「ええ男やろ?」
怜司
(
れいじ
)
兄さんが聞くと、笑う人魚たちは身をくねらせて、もじもじとした。 何モテとんねん、アキちゃん。 「見たわ。その子なら、
東海
(
トムへ
)
の王に
捧
(
ささ
)
げたわ」 なんと、人魚どもはアキちゃんを見たという。 こいつら、人を
攫
(
さら
)
って連れていく、海バージョンの
使
(
つか
)
い
魔
(
ま
)
やったんや。
骨
(
ほね
)
が
鯰
(
なまず
)
に
餌
(
えさ
)
を運んでいたんと同じや。 ただ、こいつらが
骨
(
ほね
)
と
違
(
ちが
)
うのんは、いくらかやったら話が通じる相手やということや。 「連れて行ってくれ。こいつの男やねん」
水煙
(
すいえん
)
様に
締
(
し
)
め
上
(
あ
)
げられて、べろんべろんに死んでる
俺
(
おれ
)
を
指差
(
ゆびさ
)
して、海中の
怜司
(
れいじ
)
兄さんは言うた。 海ん中で見ても、波になびく長い
髪
(
かみ
)
が、美しいようなお
姿
(
すがた
)
やった。 なんで
怜司
(
れいじ
)
兄さん海ん中平気なん? 鳥やのに?
雀
(
すずめ
)
って、海ん中でも息できるのん? 初めて知ったわ
俺
(
おれ
)
。 いや、そうやなく、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは
電波
(
でんぱ
)
の人やしな、海の中でも
電波
(
でんぱ
)
は
届
(
とど
)
くんや。 空中とはまたちょっと
違
(
ちが
)
うらしいけど、
音響
(
おんきょう
)
ソナーとかで、人間どもは
情報
(
じょうほう
)
のやり取りをしてる。 海底を進んでいく
潜水艦
(
せんすいかん
)
にかて、通信機器は
搭載
(
とうさい
)
されてる。 人間たちが
情報
(
じょうほう
)
のやり取りをする
限
(
かぎ
)
り、そこが海底でも
宇宙
(
うちゅう
)
でも、ラジオはそこで息できるんや。 まあ
厳密
(
げんみつ
)
には、この人は息はしてへんてことやな。 「この子、知ってるわ。
須磨
(
すま
)
で見た子よ」
俺
(
おれ
)
のことを見て、人魚たちは
怜司
(
れいじ
)
兄さんに親しげなシナを作ってた。 兄さん、
女子
(
じょし
)
にもモテんのん。
怖
(
こわ
)
いな、
最強
(
さいきょう
)
や。 「あれの、運命の相手やねん。そう
簡単
(
かんたん
)
に
手放
(
てばな
)
されへん。
東海
(
トムへ
)
の王と話をさせてくれ」 「まあ。でも、もう
手遅
(
ておく
)
れじゃないかしら……」 キイキイと
響
(
ひび
)
く
超音波
(
ちょうおんぱ
)
みたいな声で、人魚は
喋
(
しゃべ
)
ってる。 海の底で生きている、青白い顔がいくつも、
俺
(
おれ
)
の方をじいっと見てきた。 「キスしてくれたら、教えてあげるわ」 うふふと
笑
(
わろ
)
うて言う人魚を
捕
(
つか
)
まえて、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは
一瞬
(
いっしゅん
)
もためらわずにキスをした。
牙
(
きば
)
のある女の口に、全然気にせずマウス・ツー・マウスや。 それを
水煙
(
すいえん
)
は、何かエグいものでも見るように、
汚
(
けが
)
らわしそうに顔をそむけて、
斜
(
はす
)
に見る目で見ていた。 人魚は
我勝
(
われが
)
ちに、次は
私
(
わたし
)
よと
群
(
むら
)
がってきて、次から次へと
怜司
(
れいじ
)
兄さんにキスしてもろうてた。 よかったなあ。キス
上手
(
うま
)
い
奴
(
やつ
)
がおって。
俺
(
おれ
)
も死んでてよかった。人魚にキスされるなんてゲーやで。
俺
(
おれ
)
はアキちゃんとしかキスせえへんねん。 いや、すいません。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
ともした、
藤堂
(
とうどう
)
さんともするけどや、人魚は
嫌
(
いや
)
やねん。 だって魚やで。それに女や。
俺
(
おれ
)
にも
嗜好
(
しこう
)
の
限界
(
げんかい
)
というのはあるんや。 それやったらまだ
水煙
(
すいえん
)
とキスするほうがなんぼかマシやで。
水煙
(
すいえん
)
も、そうやんな。そういう
奴
(
やつ
)
らや、
俺
(
おれ
)
らは。 そんな
奴
(
やつ
)
ばっかりで
来
(
こ
)
んで、よかったわ。
怜司
(
れいじ
)
兄さんが人魚の
群
(
む
)
れとチューしてくれたお
陰
(
かげ
)
で、なんと道が開けたんやないか。 「来て」
怜司
(
れいじ
)
兄さんの手を引いて、人魚どもは連れていこうとした。 それに
素直
(
すなお
)
に連れていかれながら、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは死んでいる
俺
(
おれ
)
にウインクして、
親指
(
おやゆび
)
を立てた。 そんなアピールいらんねん。
俺
(
おれ
)
が死んでることについて、何か言うてくれへんか。
亨
(
とおる
)
ちゃん
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
か、死んでるでとか言うてくれへん?
親指
(
おやゆび
)
グッてされてもさ、
俺
(
おれ
)
は何もリアクションできへんやん。
水煙
(
すいえん
)
はもっと、ムカついてきてた。
朧
(
おぼろ
)
を連れてきてよかったなって思う自分に、めちゃくちゃ
腹
(
はら
)
たって来てるようやった。 そうや、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは役に立つ人や。 そやのにお前が役立たずやって決めつけて、アキちゃんのおとんから
引
(
ひ
)
き
離
(
はな
)
してもうた。それがそもそもの
間違
(
まちが
)
いやったんやないか。 ついさっき、お前がどんなんしても
抜
(
ぬ
)
けられへんかったアキちゃんの
結界
(
けっかい
)
も、
怜司
(
れいじ
)
兄さんと
一緒
(
いっしょ
)
やったら、
難
(
なん
)
なく行けた。 人魚の
煌
(
きら
)
めく魚のケツを
拝
(
おが
)
みながら、深い海底に
潜
(
もぐ
)
り、明かりも
絶
(
た
)
え
果
(
は
)
てた
水底
(
みなぞこ
)
を行くと、
迷宮
(
めいきゅう
)
のような
珊瑚
(
さんご
)
や
水晶
(
すいしょう
)
の柱のある場所に、
東海
(
トムへ
)
の王の
玉座
(
ぎょくざ
)
はあった。
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椎堂かおる
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