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三都幻妖夜話(3)神戸編 28-21 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
28-21 トオル
作者:
椎堂かおる
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28-21 トオル
竜宮
(
りゅうぐう
)
って、こういうところやったんかな、って、俺は思った。
鯛
(
たい
)
や
平目
(
ひらめ
)
の
舞
(
ま
)
い
踊
(
おど
)
り。 食べるほうの、
普通
(
ふつう
)
の魚とは
違
(
ちが
)
うけど、でかい魚や、
海老
(
えび
)
や、
亀
(
かめ
)
みたいなやつが、光る目を
閃
(
ひらめ
)
かせながら、東海(トムへ)の王の周りに
群
(
む
)
れ
集
(
つど
)
い、そこはさながら動く
宮廷
(
きゅうてい
)
やった。 東海(トムへ)の王は年老いた
龍
(
りゅう
)
で、老いたとは言え、
衰
(
おとろ
)
えたわけやない。
年々歳々
(
ねんねんさいさい
)
ためこんだ
霊力
(
れいりょく
)
を
漲
(
みなぎ
)
らせ、
巨大
(
きょだい
)
な青い
鱗
(
うろこ
)
のある
蛇体
(
じゃたい
)
は、それそのものが
城
(
しろ
)
のような、見上げるような
龍
(
りゅう
)
やった。王と
呼
(
よ
)
ぶにふさわしいデカさや。 それは
東洋
(
とうよう
)
の
龍
(
りゅう
)
やった。 長い
蛇
(
へび
)
のような
身体
(
からだ
)
に、
枝角
(
えだづの
)
のある
頭部
(
とうぶ
)
、長く
漂
(
ただよ
)
う
龍髭
(
りゅうぜん
)
を、何本も
顎
(
あご
)
に生やして、
爪
(
つめ
)
のある
節
(
ふし
)
くれだった前足に、
玉
(
ぎょく
)
を
握
(
にぎ
)
っている。
伏
(
ふ
)
せられたままの王の目には、何かで
乱暴
(
らんぼう
)
に引っかかれ、
抉
(
えぐ
)
られたような
傷
(
きず
)
があり、
両眼
(
りょうがん
)
ともが
盲
(
めしい
)
ていた。
盲目
(
もうもく
)
の
龍
(
りゅう
)
や。 その
脇
(
わき
)
には、
無数
(
むすう
)
の人魚がとりついていて、さながら
鯨
(
くじら
)
に集まる
小判鮫
(
こばんざめ
)
みたいやった。 「王よ」 俺らを連れて
戻
(
もど
)
った人魚たちは、
盲目
(
もうもく
)
の
龍
(
りゅう
)
に
平伏
(
ひれふ
)
してから、キイキイ
響
(
ひび
)
く
早口
(
はやくち
)
の言葉で、
龍
(
りゅう
)
の耳元に
報告
(
ほうこく
)
らしきことを話しに行った。
龍
(
りゅう
)
のどこの耳があるのか、俺にはよう分からんのやけど、
小山
(
こやま
)
のような
頭部
(
とうぶ
)
の、
枝角
(
えだづの
)
の生えるあたりに、人魚たちは話しかけていた。 その話を聞いて、
龍
(
りゅう
)
は小さく身じろぎし、俺らを
探
(
さが
)
すような
仕草
(
しぐさ
)
をした。 そうやけど、見えるわけやあらへん。
龍
(
りゅう
)
はそれに、
怒
(
おこ
)
っているようやった。 ビリっと
震
(
ふる
)
えるような
怒
(
いか
)
りが、海水に
滲
(
にじ
)
み
出
(
で
)
て、こっちまで
辛
(
つら
)
かった。
龍
(
りゅう
)
と話した人魚が、大きく
手招
(
てまね
)
きして、俺らを
呼
(
よ
)
んだ。
駐車場
(
ちゅうしゃじょう
)
で
入庫
(
にゅうこ
)
待ちの車を
交通整理
(
こうつうせいり
)
してるオッサンみたいな
仕草
(
しぐさ
)
や。 あいつらは、見た目こそグロな海底生物やけど、
仕草
(
しぐさ
)
を見てると、どうも
人間臭
(
にんげんくさ
)
い。 人魚って、もしかして地上の男が好きなんかな。 そうなんやろうなあ。そういう昔話もあるくらいやし、
時折
(
ときおり
)
、人を
水底
(
みなぞこ
)
に
攫
(
さら
)
う
妖怪
(
ようかい
)
や。
人語
(
じんご
)
も話す。 この、化けモンだらけの海底では、俺らと話の通じる
限
(
かぎ
)
られた相手やわ。 人魚か。せめてこいつら、男やったらなあ。
水煙
(
すいえん
)
に引きずられて、東海(トムへ)の王の前に引き出されながら、俺は思った。 せめて、男やったら、俺にも人魚を
籠絡
(
ろうらく
)
できたかもしれへんのに。 そう
悔
(
く
)
やまれたけど、その心配はご
無用
(
むよう
)
やった。 俺の代わりに、俺のツレが、ガンガン人魚にモテていた。 近くまで行くと、
東海
(
トムへ
)
の王が
握
(
にぎ
)
りしめている
玉
(
ぎょく
)
の中に、人がいるのが見えた。 アキちゃんやった。
透明
(
とうめい
)
なガラス玉の中に
閉
(
と
)
じ
込
(
こ
)
められているみたいに、
球
(
きゅう
)
の中にアキちゃんが
座
(
すわ
)
っていた。 まるで、スノードームの中にいるお人形さんみたいに。 それをうっとり、何人もの人魚が見上げていた。 いつかは、
須磨
(
すま
)
の
水族館
(
すいぞくかん
)
で、ガラスの
水槽
(
すいそう
)
にいる人魚や魚を、俺らが
見物
(
けんぶつ
)
する側から見てたのに、今はアキちゃんが
囚
(
とら
)
われの見せモンみたいや。
東海
(
トムヘ
)
の王が
捕
(
と
)
らえた新しい
獲物
(
えもの
)
を、人魚たちは
羨
(
うらや
)
ましそうに、球の
外壁
(
がいへき
)
を
舐
(
な
)
めそうな
勢
(
いきお
)
いで
張
(
は
)
り
付
(
つ
)
いて見てる。
餌
(
えさ
)
に
群
(
むら
)
がる
熱帯魚
(
ねったいぎょ
)
みたいや。
確
(
たし
)
かに、そいつらは、
餌
(
えさ
)
に
群
(
むら
)
がってんのやろう。 アキちゃんのいる
球
(
きゅう
)
からは、
霊力
(
れいりょく
)
の流れがダラダラ
漏
(
も
)
れてた。 水中やから、見た目には分かりにくいけど、それは
液体
(
えきたい
)
のようやった。 いつぞや、アキちゃんの
蛇口
(
じゃぐち
)
が
壊
(
こわ
)
れてもうて、
霊力
(
れいりょく
)
ダダ
漏
(
も
)
れなった時に、鳥さんが
舐
(
な
)
めてたアレや。 アキちゃんはもう、それを止められへん
訳
(
わけ
)
やなかったはずやのに、
霊力
(
れいりょく
)
全開なってて、
龍
(
りゅう
)
の
握
(
にぎ
)
る
玉
(
ぎょく
)
の中で、自分から
発
(
はっ
)
する
天地
(
あめつち
)
の
霊水
(
れいすい
)
の中に
浸
(
つ
)
かっていた。 「王よ、その子を返してもらいに来たんや」
水煙
(
すいえん
)
は、軽く
平伏
(
へいふく
)
はしたものの、ほとんどタメ口で
龍
(
りゅう
)
と
喋
(
しゃべ
)
ってた。 それに俺と
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、ぎょっとした。 そんな
口利
(
くちき
)
いていい相手とは思われへんかったもんやから、
礼儀
(
れいぎ
)
にうるさい
水煙
(
すいえん
)
がそこまで言うとは、びっくりやったんや。 「その子が何を申し上げたのかは知らん。だが、
生贄
(
いけにえ
)
の
件
(
けん
)
は
手違
(
てちが
)
いや。
改
(
あらた
)
めて
交渉
(
こうしょう
)
に
応
(
おう
)
じてもらいたい」
龍王
(
りゅうおう
)
と
膝
(
ひざ
)
を
突
(
つ
)
き合わせて、
水煙
(
すいえん
)
は海底に
腰
(
こし
)
を
据
(
す
)
えた。 そうやって
座
(
すわ
)
ってると、
水煙
(
すいえん
)
はずいぶん小さいけど、
東海
(
トムへ
)
の王と
対等
(
たいとう
)
に口が
利
(
き
)
ける立場のようやった。
東海
(
トムヘ
)
の王も、お前はどの
面
(
つら
)
さげて俺にそんな
生意気
(
なまいき
)
な口をきいとんのやという
態度
(
たいど
)
には出えへんかった。 見えてない目でも、
水煙
(
すいえん
)
を見ようとするように、
巨大
(
きょだい
)
な
鼻先
(
はなさき
)
を
寄
(
よ
)
せてきた。 「お前は
何者
(
なにもの
)
かとお
尋
(
たず
)
ねよ」
龍王
(
りゅうおう
)
の耳に取り付いていた人魚が、代わりに
尋
(
たず
)
ねた。 こいつが
通訳
(
つうやく
)
ちゅうことか、それとも
水煙
(
すいえん
)
と
直
(
じか
)
に
口利
(
くちき
)
く気はないということなんか。 「俺は
水煙
(
すいえん
)
や。
月読
(
つくよみ
)
の子や」
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椎堂かおる
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