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三都幻妖夜話(3)神戸編 28-26 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
28-26 トオル
作者:
椎堂かおる
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28-26 トオル
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、悲しいみたいな顔をした。 こっちまで、悲しなってくるような、
力
(
ちから
)
ない顔つきやった。 「
骨
(
ほね
)
や……」 泣けたら泣いてる。そういう声で、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは言うた。 それに答えず、目をそらして、
龍王
(
りゅうおう
)
と向き合うため顔を上げたおとんの横顔がな……
骸骨
(
がいこつ
)
やったんや。 俺は声もなく
驚
(
おどろ
)
いて、あんぐりとした。 死、死んでる……。 いや、そうか、そうやったな。ずっと知ってたわ。アキちゃんのおとん、死人やん。 最初からそう言うてた。死んでんのやもん。海底で、ずっと死んでたて。 そら、
骨
(
ほね
)
にもなるわな。海水に
浸
(
つ
)
かって、その正体を表したんか、もはや人ではない、
祈
(
いの
)
りに
応
(
こた
)
えて
護国
(
ごこく
)
の
鬼
(
おに
)
となった
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
は、
死霊
(
しりょう
)
やった。 日本画に出てくる昔の神さんのような、白い
斎服
(
さいふく
)
は着てるままやけど、そこから
透
(
す
)
ける
胸板
(
むないた
)
は、がらんどうの
肋骨
(
あばらぼね
)
や。 それを
透
(
す
)
かし見る
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、ぶるぶる
震
(
ふる
)
えてた。 なんで
怖
(
こわ
)
いんや兄さん、あんたも
骨
(
ほね
)
やん。
骨
(
ほね
)
と
骨
(
ほね
)
とで、ちょうどええやん。お
似合
(
にあ
)
いのカップルやで。 そやけどな、兄さんはショックやったみたいや。 だって、何とか
暁彦
(
あきひこ
)
様を死なせとうないって、
駆
(
か
)
け
落
(
お
)
ちまで
図
(
はか
)
った人やねんからな。
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
の死が、今ここで、
胸
(
むね
)
に
突
(
つ
)
き
刺
(
さ
)
さるってもんや。 「そんな話を今せんといてくれ」
骨
(
ほね
)
がおとんの声で
朧
(
おぼろ
)
を
諌
(
いさ
)
めた。 海の中やし、分からへんけど、俺には
怜司
(
れいじ
)
兄さんが、めちゃくちゃ泣いてるように見えた。 「
堪忍
(
かんにん
)
してくれ」 そやけど泣ける、という顔で、
怜司
(
れいじ
)
兄さんは自分も
龍
(
りゅう
)
を見上げた。 「
息子
(
むすこ
)
を助けたいんや、お前も力を
貸
(
か
)
してくれ」
淡
(
あわ
)
く
頷
(
うなず
)
く
朧
(
おぼろ
)
に、
骨
(
ほね
)
の男は目を向けたようやったけど、もうその
眼窩
(
がんか
)
には、見つめ合うべき目がないんや。 それでも、
愛
(
いと
)
しい男の
骨
(
ほね
)
には、
違
(
ちが
)
いない。
二人
(
ふたり
)
から目を
背
(
そむ
)
けている
水煙
(
すいえん
)
の顔には、
驚
(
おどろ
)
く
様子
(
ようす
)
は全然なかった。 お前はずっと、知ってたんやな。 おとんのこの
姿
(
すがた
)
を見て、海の底でずっと
過
(
す
)
ごした。ふたりで。いや、
一人
(
ひとり
)
なのか。死んでもうて、
徐々
(
じょじょ
)
に
骨
(
ほね
)
になっていく
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
を、お前は見たことがあるんやな。 「
水地
(
みずち
)
亨
(
とおる
)
」
骨
(
ほね
)
の指で俺を
指差
(
ゆびさ
)
して、おとんは言うた。 「お前は名のある神や。そうやろう。何で俺の
息子
(
むすこ
)
を助けてくれへんかったんや」 その
責
(
せ
)
める言葉は、俺に言うてるはずやのに、俺の
隣
(
となり
)
で
崩折
(
くずお
)
れている
水煙
(
すいえん
)
の
胸
(
むね
)
を、
刺
(
さ
)
していたようやった。
水煙
(
すいえん
)
も、名のある神で、心のなかではアキちゃんを救う
責務
(
せきむ
)
を負っていたんやろうな。 俺らは
二人
(
ふたり
)
して、アキちゃんのおとんに
責
(
せ
)
められていた。 「
暁彦
(
あきひこ
)
は、お前を
生贄
(
いけにえ
)
にするのを
厭
(
いと
)
うて、
己
(
おのれ
)
が
生贄
(
いけにえ
)
になったのやろう。お前も神なら、その愛に
応
(
こた
)
えるべきやった。なんでそんなアホ面(づら)
晒
(
さら
)
して、平気で見ておれるんや」 俺を
指弾
(
しだん
)
する
骨
(
ほね
)
の声は、子を
奪
(
うば
)
われた親の声やった。 おとんは、悲しいんや。アキちゃんが死んで、つらい。 俺が死んで、アキちゃんが助かるほうが、万倍よかった。本音ではそう、ずっとそう思ってたんや。 俺は何か答えるべきやったやろうけど、頭真っ白なってもうてて、声が出えへん。何と言うていいかも、わからへんかった。 おとんの言うとおりやと、ただ、思うた。 俺はアキちゃんを救うべきやった。 たとえ自分は海の
藻屑
(
もくず
)
になったとしても。アキちゃんを生かしてやるべきやった。 「アキちゃん……
亨
(
とおる
)
は、
拒
(
こば
)
まれたんや。
暁彦
(
あきひこ
)
が、お前の
息子
(
むすこ
)
が、こいつを
術法
(
じゅつほう
)
で
弾
(
はじ
)
き
飛
(
と
)
ばして、共には行かせへんかった。しょうがないことなんや」 なんでか
水煙
(
すいえん
)
が俺の代わりに
言
(
い
)
い
訳
(
わけ
)
をしてくれた。 ありがとう……でも……それは本当に、
言
(
い
)
い
訳
(
わけ
)
になるんか。 「しょうがないやと? アホ
抜
(
ぬ
)
かせ。お前らのうち、
誰
(
だれ
)
か
一人
(
ひとり
)
でも、死ぬなと言うてやればよかったんや。そうすれば、何か
他
(
ほか
)
の道が、開けたかもしれへんのに」 おとんの
口調
(
くちょう
)
は静かやったけど、内に
秘
(
ひ
)
めてる
怒
(
いか
)
りの
鋭
(
するど
)
さに、俺の
胸
(
むね
)
にはグサグサ来てた。
骨
(
ほね
)
に言われると、
説得力
(
せっとくりょく
)
があった。 おとんは
後悔
(
こうかい
)
してるんやろうか。自分が
生贄
(
いけにえ
)
なって死んだことを? アキちゃんには自分と同じ目に
遭
(
あ
)
って
欲
(
ほ
)
しくはなかったんやろうか。 それなら、お前が自分で言うたれよ。死ぬな、
暁彦
(
あきひこ
)
、
生贄
(
いけにえ
)
なんかアホのすること、やめとけやめとけて、お前が言うてやってたら、アキちゃんかて考えたやろう。 お前かて、言うてたやないか。
信太
(
しんた
)
をぶっ殺した
鯰
(
なまず
)
の
祭壇
(
さいだん
)
で、ここで
逃
(
に
)
げたら男が
廃
(
すた
)
るって、アキちゃんに言うてたやん。 死ねて言うたんや、お前が言うたんやで! 俺はそういう不満の顔をしたやろか。
骨
(
ほね
)
が、笑うてた。 その笑う
骸骨
(
がいこつ
)
は俺に、地上で見た
沢山
(
たくさん
)
の
骨
(
ほね
)
を思い出させた。
踊る骸骨
(
ダンス・マカブル
)
。
狂骨
(
きょうこつ
)
や。 元は人間やったけど、
恨
(
うら
)
みを残して死ぬと、人は時々、
怪物
(
かいぶつ
)
になんのやで。
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椎堂かおる
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