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三都幻妖夜話(3)神戸編 28-29 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
28-29 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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28-29 トオル
呆然
(
ぼうぜん
)
と
立
(
た
)
ち
尽
(
つ
)
くす
水煙
(
すいえん
)
だけが
無傷
(
むきず
)
で、でも多分、一番
傷
(
きず
)
ついてたんは、
水煙
(
すいえん
)
やったやろうな。 アキちゃんが
玉
(
ぎょく
)
の中から
壁
(
かべ
)
を
叩
(
たた
)
いてる、すごい音がしてた。水の中でもガンガン
響
(
ひび
)
いてくる。 そんなことしたら、
玉
(
ぎょく
)
が
割
(
わ
)
れてまうやろう。 せっかく
生贄
(
いけにえ
)
なってまで、海神に
捧
(
ささ
)
げた
玉
(
ぎょく
)
やったのに、
割
(
わ
)
れてもうたらどないすんねん。 でも、アキちゃん。そこから出てきて、俺のおらん世で、生きていって。 やっぱりさ、
一緒
(
いっしょ
)
に死ぬコースはあかんわ。いま目の前に、そういう人ら
居
(
お
)
るけどさ、
朧
(
おぼろ
)
とおとん、
可哀想
(
かわいそう
)
やわ。
怜司
(
れいじ
)
兄さんも、
仲良
(
なかよ
)
く二人で
一緒
(
いっしょ
)
に死ねて、幸せやって顔はしてへん。 ひたすら
無念
(
むねん
)
や。
一緒
(
いっしょ
)
に生きて、
一緒
(
いっしょ
)
にカレー食うんでなけりゃ、幸せになんかなられへんのやなあ。 俺、実はちょっとサバ読んでて、ほんま言うたらもう一万年ぐらい生きてんのやけど、そんな当たり前のことを、今、初めて……知ったわ。 アキちゃん。俺はお前とずっと、一緒に生きたかった。一緒に生きたい。 俺はそう、祈ってたかもしれへん。 誰に? 誰でもない、誰かにな。 そうやけど、その時にはな、俺のその祈りに
応
(
こた
)
える者がいたんや。 ものすごい
霊波
(
れいは
)
を
爆散
(
ばくさん
)
させて、
東海
(
トムヘ
)
の王が
握
(
にぎ
)
ってた
玉
(
ぎょく
)
が
割
(
わ
)
れた。
吹
(
ふ
)
っ
飛
(
と
)
んだと言ってもいい。
東海
(
トムヘ
)
の王ももはや、アキちゃんを
捕
(
つか
)
まえようとはしてへんかった。
龍王
(
りゅうおう
)
も、このアキちゃん
爆誕
(
ばくたん
)
みたいなのを、見えてへん目で見ようとするような、ここで
展開
(
てんかい
)
されてる
秋津家
(
あきつけ
)
劇場
(
げきじょう
)
の
観客
(
かんきゃく
)
の
一人
(
ひとり
)
になっていた。 人魚たちや海の化け物どもも、どないなんねんコレって、
固唾
(
かたず
)
を飲んで見守っている。 アキちゃん。そして、それから、どないなんのや? 「
亨
(
とおる
)
! 何やっとんのやおとん! ああもう、やめてくれ!!」
絶叫
(
ぜっきょう
)
や。
絶叫
(
ぜっきょう
)
マシーン
並
(
な
)
みや。 アキちゃん、お前それでも死んでんのか? 死んでへんの? 俺もう死にそうやで。
水煙
(
すいえん
)
も。おとんも、
怜司
(
れいじ
)
兄さんもマジ
逝
(
い
)
きそう。どないしよう。
崩
(
くず
)
折れる俺を
抱
(
だ
)
きとめて、アキちゃんは
東海
(
トムヘ
)
の王をビシッと指差した。 「ええ
加減
(
かげん
)
にせえ」 アキちゃん、完全にキレてた。 目がもう、
正気
(
しょうき
)
やない。
激怒
(
げきど
)
してる。 死にかけてる俺の
傷
(
きず
)
を、アキちゃんが治してるのが分かった。 何かすごく熱いもんが
喉
(
のど
)
の
傷口
(
きずぐち
)
に
押
(
お
)
し
当
(
あ
)
てられたと思ったら、それがアキちゃんの手で、
灼
(
や
)
けた
鉄
(
てつ
)
みたいなんやけど、何でかそれが
心地
(
ここち
)
いい。 たぶん、その熱の
源
(
みなもと
)
が、アキちゃんの俺への愛やったからやろう。 何やろう、これ。アキちゃん強い。めっちゃ、パワーアップしてる。
爆誕
(
ばくたん
)
してからこっち、ほぼ
無敵
(
むてき
)
みたいになってもうてる。 俺はすごく安心してきて、ぐったりとアキちゃんに身を
預
(
あず
)
けた。 けっこうピンチやったんや。良かった、アキちゃんが俺を
抱
(
だ
)
いてくれて。 これで死んでも、俺はお前の
腕
(
うで
)
の中やわっていう
安堵
(
あんど
)
で、すごくホッとした。 「
水煙
(
すいえん
)
、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
や。落ち着け」 今にも死ぬって顔してる
無傷
(
むきず
)
の
水煙
(
すいえん
)
に、アキちゃんは
優
(
やさ
)
しく声をかけていた。 ほんまに死にそうな方をまず先に何とかすべきや。そうなんやけど、アキちゃんの中での
優先
(
ゆうせん
)
順位
(
じゅんいが
)
が、まず俺、ほんで
水煙
(
すいえん
)
、それから、うにゃうにゃうにゃ、その
他
(
ほか
)
の人々、てなってんのやし、しょうがない。 というか、
実際
(
じっさい
)
、その順で死にかかってたのかもしれへん。
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
を
己
(
おのれ
)
の
刃
(
は
)
にかけた
水煙
(
すいえん
)
の顔は、もう、死んだようやった。 そのまま
崩
(
くず
)
れて、消えてまいそうな顔やったんやわ。 そやけど
実際
(
じっさい
)
に
深手
(
ふかで
)
を負った人々に、急ぎ
救
(
すく
)
いの手を
差
(
さ
)
し
伸
(
の
)
べよう。 アキちゃんは俺が無事に
回復
(
かいふく
)
したのを
確
(
たし
)
かめてから、ちょっと待っとけというふうに自力で立たせて、海底に横たわる
骨
(
ほね
)
とそう変わらん
容体
(
ようだい
)
のおとんと
朧
(
おぼろ
)
のほうに行った。 それでもおとんは、まだ人間の
姿
(
すがた
)
はしてた。
見栄
(
みえ
)
かな。
我
(
わ
)
が
子
(
こ
)
に
骨
(
ほね
)
は
晒
(
さら
)
したくなかったんやろか。 それでも
薄
(
うす
)
っすらと、冷たい
骸
(
むくろ
)
やった
正体
(
しょうたい
)
が、おとんの横顔に
透
(
す
)
けて見え、それに
抱
(
だ
)
かれてぐったりしてる
怜司
(
れいじ
)
兄さんも、もう半分くらい
骨
(
ほね
)
やった。 もう、何も見てない顔や。やばい。
極
(
きわ
)
めてやばい。 「アキちゃん……」 「何も言うな、おとん。心配いらへん」 ぐっさりいってもうた
朧
(
おぼろ
)
の
腹
(
はら
)
を手で
探
(
さぐ
)
って、アキちゃんは
鏡
(
かがみ
)
に写ってるみたいなおとんの顔と向き合っていた。 「
堪忍
(
かんにん
)
やで。ドジったわ。よもや
水煙
(
すいえん
)
に
斬
(
き
)
られるとは、思いもよらんで。これも
因果応報
(
いんがおうほう
)
やな」
苦笑
(
くしょう
)
するおとんが言うてんのは、おとんが
水煙
(
すいえん
)
に、アキちゃんのお
爺
(
じい
)
をぶっ殺させたことやったやろう。
秋津
(
あきつ
)
の
先先代
(
せんせんだい
)
は、
病魔
(
びょうま
)
に
冒
(
おか
)
され、死を待つのみの
己
(
おのれ
)
を
憂
(
うれ
)
えて、
自害
(
じがい
)
した。その
介錯
(
かいしゃく
)
を
水煙
(
すいえん
)
にやらせたんや。 それも考えようによっては、
愛
(
いと
)
しい
水煙
(
すいえん
)
の
刃
(
やいば
)
にかかって死にたいという、
男心
(
おとこごころ
)
やったかもしれへんな。 そうやったとしても、その時、
水煙
(
すいえん
)
を
振
(
ふ
)
るったのは、
誰
(
だれ
)
あろう、実の子やった
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
や。 これもそんな
親殺
(
おやごろ
)
しの
報
(
むく
)
いやと、おとんは思ったんやろうな。 「
因果
(
いんが
)
なんかあらへん。
朧
(
おぼろ
)
もおとんも死なへん。ちょっとした
手違
(
てちが
)
いや。
水煙
(
すいえん
)
がおとんを
斬
(
き
)
るはずあらへん」 言い聞かせる強い言葉で、アキちゃんはおとんを
励
(
はげ
)
ましていた。 そうせんと死にそうやったからやろう。 「
朧
(
おぼろ
)
を、助けてやってくれ」 おとんは案外、しっかりした声で、アキちゃんにそう
頼
(
たの
)
んだ。 気力や。
最期
(
さいご
)
の時、あと一歩、人を
此岸
(
しがん
)
に
押
(
お
)
しとどめる力は、気持ちや。
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椎堂かおる
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