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28-40 トオル
そうやけど、もう逝 くって面 ではなかった。
お前のたった一言で、俺は萎 えたわって、徐々 にそういう顔になってた。
もう消えそうに透 けてもいない。
秋津 のおとんは、それをにやにや見ているだけや。
「暁彦 、お前はほんまに、かしこい子やなあ」
皮肉 たっぷり、そう言うて、水煙 は残り少なくなった絵筆 の軸 の砂 を振 ってみて、ふふふと、いつもの、苦 みばしった笑 みを浮 かべた。
少なかろうと、そこにはまだ砂 つぶが残されていた。
そして水煙 は絵筆 を、どこにあるんか分からん、あいつの懐 の、四次元 ポケットに大事 にしまい込 んだ。
びしょびしょなってる髪 を手櫛 で整えながら、おとんは、そうやろうなあ、そうなると思ってたわという、したり顔やった。
気持ちには鈍 くても、おとんは水煙 という神を熟知 しているらしかった。
「ま……そういうことやし、ご先祖 様。当分 の間、秋津 に末代 は来ませんよ。まだまだ続くし、どうぞ安心して、成仏 してください。うちのジュニアに付きまとうのはやめて」
お前の出番 はないんやでって、初代様 を見上げるおとんは真 っ向 勝負 の面 やった。
向こうが神人 でも、おとんも神やしな。英霊 なんやし、まだまだ力をつけて、初代様 に匹敵 するような、すんごいご先祖 様になってまうかもしれへんで。
でも初代様 かて根性 悪さでは、おとんに負けてへん。受けて立つぜという笑 みで、角髪 男 はおとんを見下ろしていた。
「それはどうやろな。何が起きるか分からん世 や。水煙 の頑 なな心も、熱い熱い火で百年、千年と炙 れば、いずれ溶 けるかもしれへん。じっくり待たせてもらうで」
「しつこい人やなあ、まるで蛇 や!」
おとんに噛 みつく初代様 に、おとんも噛 みついていた。
似 たもん同士 や。親戚 やもん。
水煙 はそんな秋津 の子らに囲 まれて、身をよじる苦笑 いやった。
「当分、月へは帰れそうもないなあ……」
そうやって、有明 の月をふり仰 ぐ水煙 の横顔は、晴れ晴れとしていた。
それを見下ろす、月が笑 うてる。
そんな気がする、美しい三日月が、暁 の空に白々 と浮 かび、神戸 にはまた、新しい朝が来た。
いつも通りの、なんの変哲 もない、何が起きるか誰 も知らへん。そういう、まっさらで新しい、これから俺らが皆 で歩 んでいく前人未到 の日々の始まりや。
斯 くして、予言 された日は、ついに終わった。
チーム秋津 の完全勝利。これにて一件 落着や!
さああ、これでいよいよエピローグ!
俺とアキちゃんの、待ちに待ったハッピーエンドやで。
ああ、良かった。皆 の応援 のお陰 やわ。
ここまで、ほんまにありがとう。
さようならの時は、まだしばし先。
そしてそれから、アキちゃん亨 ちゃんが、どないなったんか、俺の愛 しいツレの語りも聞いたってや。
では、さらば。
貴方 の水地 亨 でした。
グラシアス、アディオス・アミーゴ!(ありがとう、さらば友よ!)
――第28話 おわり――
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