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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-03 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-03 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
795 / 928
29-03 アキヒコ
朧
(
おぼろ
)
は、何と言うか……元に
戻
(
もど
)
っていた。 あいつ、やっぱおとんにベタ
惚
(
ぼ
)
れやったんやな。 あの海底での
一件
(
いっけん
)
、おとんとは、ろくに
再会
(
さいかい
)
トークも何もないまま、いきなり命の
危機
(
きき
)
になってもうて、あいつはおとんを
庇
(
かば
)
って死にかけた。 まさか
水煙
(
すいえん
)
がおとんを
斬
(
き
)
ろうとするとは、俺も
魂消
(
たまげ
)
たけど、あの時、俺にはどないすることもできひんかった。
朧
(
おぼろ
)
がおとんを
庇
(
かば
)
わへんかったら、
水煙
(
すいえん
)
の
刃
(
は
)
はおとんを真っ二つに
斬
(
き
)
って
捨
(
す
)
ててたんかもしれへん。
何故
(
なぜ
)
そないなことになるんか、俺には外の声はいまいち聞こえてなくて、後で
亨
(
とおる
)
に聞くか、
水煙
(
すいえん
)
に聞くか、おとんに聞くか、そういう方法で知るしかない。 いろんな話を
総合
(
そうごう
)
すると、おとんはあの時、
鬼
(
おに
)
になってたというんが
結論
(
けつろん
)
らしいわ。 そうやっけ、って、おとん本人はとぼけているけど、それがほんまやったら、
危
(
あぶ
)
ないとこやったな。
水煙
(
すいえん
)
はたとえ身内やろうと、
鬼
(
おに
)
やったら
斬
(
き
)
るって、そういう
不器用
(
ぶきよう
)
なところのある
奴
(
やつ
)
やから。
朧
(
おぼろ
)
のお
陰
(
かげ
)
で、おとんは
命拾
(
いのちびろ
)
いして、
二人
(
ふたり
)
は海底でかたく
抱
(
だ
)
き
合
(
あ
)
い、もしかしてそのまま
数十年来
(
すうじゅうねんらい
)
のわだかまりを
埋
(
う
)
めて、一気に
撚
(
より
)
りでも
戻
(
もど
)
すつもりなんかと俺は思っていた。 でも、
朧
(
おぼろ
)
は
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
のせいで、ハッと
我
(
われ
)
に返り、おとんの、
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
の
運命
(
うんめい
)
の相手なるもんは、自分ではなく、
秋津
(
あきつ
)
登与
(
とよ
)
、つまり俺のおかんやないかと思いだしたらしい。 そやからな、身を引くというか、
諦
(
あきら
)
めるんやって。 ……へー。 そうなんや。 また
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
か。 そこで
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
さえ
居
(
い
)
いひんかったらな! あのまま
上手
(
うま
)
いこといってたんかもしれへんわ。 あの時、
神戸
(
こうべ
)
の海上にふわふわ
浮
(
う
)
いてた
朧
(
おぼろ
)
の
龍
(
りゅう
)
は、おとんを
我
(
わ
)
が
物
(
もの
)
のようにせしめて、満足そうやったし、
和
(
なご
)
んで美しい
姿
(
すがた
)
をしていた。 これでもう、安心していい、こいつは
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
やと思えるような、お
姿
(
すがた
)
やった。 人間て……いや、あいつは人でなしの
妖怪
(
ようかい
)
やけど、変わる時は変わるもんなんやなあ。 いつもトゲトゲしてて、
可愛
(
かわい
)
げがなくて、すぐ
怒鳴
(
どな
)
るし、
誰
(
だれ
)
とでも
寝
(
ね
)
るし、
虎
(
とら
)
とチューするし、
雪男
(
ゆきおとこ
)
ともするし、俺さえ
口説
(
くど
)
くし、そやのに本気やないし、そういう
鬼
(
おに
)
みたいな
奴
(
やつ
)
やったのに、おとんと
抱
(
だ
)
き
合
(
お
)
うてる時のあいつの顔は、
菩薩像
(
ぼさつぞう
)
みたいやった。 もう何もいらんという、
満
(
み
)
ち足りた顔をしてた。 そやのになあ。
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
や。 その話を聞いたとたん、あいつは、自分は何をやっとったんやと、われに返ったらしい。 その後はな、いつも通りや。 あーしんど、終わった終わった。えっらい
疲
(
つか
)
れる仕事やったなあ。帰って
寝
(
ね
)
るわ。これで
霊振会
(
れいしんかい
)
はなんぼほど
払
(
はろ
)
てくれるんやろうなあ。 ホテルの
鍵
(
かぎ
)
あけなあかんし行くわ! ほなな先生。しばらく電話してくんなよと、
怒鳴
(
どな
)
るように言うて、あいつは
北野
(
きたの
)
のほうにすっ飛んでいった。 それからしばらく、言われたとおり、俺は電話は
控
(
ひか
)
えた。
怖
(
こわ
)
かったんやもん。 ホテルにいた
中西
(
なかにし
)
さん、
亨
(
とおる
)
に言わせりゃ
藤堂
(
とうどう
)
さんやけど、あの人も
無事
(
ぶじ
)
やった。 そやけど、
神楽
(
かぐら
)
さんは
無事
(
ぶじ
)
やなかった。
失血死
(
しっけつし
)
しかけてほぼ死んでたところを、ギリギリ間に
合
(
お
)
うて助けた。 どうやって助けたかって、
普通
(
ふつう
)
に
献血
(
けんけつ
)
や。 まあ、俺はたぶん、なんぼでも
献血
(
けんけつ
)
できたんやろうけど、
中西
(
なかにし
)
さんが、自分とこの
嫁
(
よめ
)
の命を救うのに、
他人様
(
ひとさま
)
からだけ血をもらうのは悪いからといって、
並
(
なら
)
んで
献血
(
けんけつ
)
した。
血液型
(
けつえきがた
)
が合うんや。 アキちゃんO型やしな、
中西
(
なかにし
)
さんもO型で、
神楽
(
かぐら
)
さんはA型や。 O型の人は
誰
(
だれ
)
にでも血あげられるしな、便利やねん。
皆
(
みな
)
も血いるときは
呼
(
よ
)
んでくれ。アキちゃん行くわ。 でも俺らの血をもらうと、あんまりええこと無いと思うけどな。 ほら、あれやん。
亨
(
とおる
)
のせいで、
吸血鬼
(
きゅうけつき
)
になってまうんやで? そんなんあったなあ、
忘
(
わす
)
れてた? まあまあ、まあ、お
互
(
たが
)
い
外道
(
げどう
)
やったらな、それかて別に大した問題やない。 どうせ
皆
(
みな
)
、血は
吸
(
す
)
うんや。 人間の
血液
(
けつえき
)
は
妖怪
(
ようかい
)
どもにとっては、ゴハンでオヤツや。 ちょっと血
吸
(
す
)
いたいなあ言うて、ちょっと
吸
(
す
)
うねん。そういうもんみたいやわ。 でもな、そういう血を
輸血
(
ゆけつ
)
してもうたせいで、
神楽
(
かぐら
)
さん、もうあかんねんて。 もう、な、あかんのやって。もうあかんて
中西
(
なかにし
)
さん言うてた。 もう……な、完全に
悪魔
(
サタン
)
なんやて。
悪魔
(
サタン
)
てあれやで。
亨
(
とおる
)
みたいということやで。
亨
(
とおる
)
みたいにな。その……。 毎日やってるんやって。 あ、言うてもうたな。思わず早口で言うたな。 でも、そうなんやって。
中西
(
なかにし
)
さんと
神楽
(
かぐら
)
さんはラブラブや。
神戸
(
こうべ
)
で。 ヴィラ
北野
(
きたの
)
の仕事に
精
(
せい
)
を出してて、
神楽
(
かぐら
)
さんは日本の
医師
(
いし
)
免許
(
めんきょ
)
もとろうかな、言うて、近所の
神戸大学
(
こうべだいがく
)
に
籍
(
せき
)
を置き、何かの研究をしながら、ホテルの仕事も
手伝
(
てつだ
)
ってやってるんやって。 もう、ヴァチカンには
戻
(
もど
)
らへん。 というか、
戻
(
もど
)
れへんし、
戻
(
もど
)
る気もない。 ずっと、
北野
(
きたの
)
のホテル
経営者
(
けいえいしゃ
)
の悪いおっちゃんにお
仕置
(
しお
)
きしながら、長い一生を
過
(
す
)
ごすことにしたらしいわ。 よかったな。
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椎堂かおる
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