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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-05 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-05 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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29-05 アキヒコ
親戚
(
しんせき
)
でもなきゃ、家族でもないで。他家の
爺
(
じい
)
さんや。 ちょっと、
仙人
(
せんにん
)
なってもうてて、見た目すごく
若
(
わか
)
いけど、でも、あの、俺にさんざんイケズしてきた、シワシワの
爺
(
じじい
)
や。 そやのになあ。見た目って、大きいな。 特に俺みたいに人を
顔面
(
がんめん
)
で
判断
(
はんだん
)
してしまうような、
邪
(
よこしま
)
なボンボンにとって、見た目が
可愛
(
かわい
)
いか、
狐
(
きつね
)
みたいな
吊
(
つ
)
り
目
(
め
)
がキラキラの美少年かどうか、ちょっと弟みたいで
愛
(
あい
)
くるしいかどうかには、
判断
(
はんだん
)
を
狂
(
くる
)
わす
危険
(
きけん
)
な何かがあるわ。 おとん……その人ずうっとうちに
居
(
お
)
るんか?
居
(
お
)
るんやろうなあ。死なんのやしなあ。
永遠
(
えいえん
)
やなあ。 俺、ますます実家に帰りにくうなったわ。 「
登与
(
とよ
)
姫
(
ひめ
)
に
精
(
せい
)
付けてもらおうと思てな、
鯉
(
こい
)
釣
(
つ
)
ってきたわ」 「どうせ
蜜柑
(
みかん
)
しか食わんのに、お前は
諦
(
あきら
)
めんマメな男やなあ」 ちょっと
呆
(
あき
)
れ
顔
(
がお
)
で、おとんは自分よりずっと
背
(
せ
)
の低い
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
を見下ろしていた。 そうこうするうち、ふたつ目の
足音
(
あしおと
)
が、とすとすと大急ぎで
廊下
(
ろうか
)
をやってきて、まだ
大崎
(
おおさき
)
先生が開けたまんまやった
襖
(
ふすま
)
の向こうに、大きな
盥
(
たらい
)
を
抱
(
かか
)
えた、
秋尾
(
あきお
)
さんが
現
(
あらわ
)
れた。 いつも通りの茶色のスーツに、昭和初期みたいな丸メガネ。
尻尾
(
しっぽ
)
はないけど、
伏見稲荷
(
ふしみいなり
)
のお
遣
(
つか
)
いの、
狐
(
きつね
)
さんや。 「先生、先生、そんな走っていかれたら、追いつけませんやん。
鯉
(
こい
)
が死んでまいます」 ほとほと
困
(
こま
)
った顔で、
秋尾
(
あきお
)
さんはいきなりボヤいた。 いかにも
子守
(
こもり
)
の
狐
(
きつね
)
って感じやった。 「それを生きたまんま運ぶんが、お前の仕事やないか。
文句
(
もんく
)
言うんやない」 口を
尖
(
とが
)
らせて、
大崎
(
おおさき
)
先生は
秋尾
(
あきお
)
さんをピシャっと
叱
(
しか
)
った。
爺
(
じじい
)
やったときは、いけ好かんかった、その上からもの言う
態度
(
たいど
)
が、美少年やとひたすら
可愛
(
かわい
)
い。 どないせえ言うんや。俺はこの実家で、どんなふうに身を置いたらええんや。 「
登与
(
とよ
)
ちゃん、
鯉
(
こい
)
が好きやんか。さっそく料理させような」 どうや、ええ考えやろう、って、
大崎
(
おおさき
)
先生はおとんに
媚
(
こ
)
び
媚
(
こ
)
びやねん。 何なん、
大崎
(
おおさき
)
先生。 何か俺、
胸
(
むね
)
んとこが、すごくザワザワするねんけど。これ
嫉妬
(
しっと
)
? あんたちょっとそれ、
慣
(
な
)
れ
慣
(
な
)
れしいんとちがいます? それ、うちのおとんで、あんたは他人やで? いかん、いかん。
無心
(
むしん
)
。
無心
(
むしん
)
にならねば。 何かの悪い血が、急に飛び出さんとも
限
(
かぎ
)
らへん。 アキちゃんもう
正常
(
せいじょう
)
な
神経
(
しんけい
)
と
違
(
ちが
)
うんやから。 何が
普通
(
ふつう
)
で、何がそうでないか、
段々
(
だんだん
)
あやふやになってきてもうてる。
早
(
はよ
)
う、
出町柳
(
でまちやなぎ
)
に
逃
(
に
)
げて帰ろう。
亨
(
とおる
)
と
水煙
(
すいえん
)
は、一体何してんのやろう。 それにおかんは、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
なんやろうか。 さっきの
産声
(
うぶごえ
)
、ほんまに
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ぼう
)
が生まれたんやろうか。
舞
(
まい
)
ちゃんの声
真似
(
まね
)
やったりしいひんか? 無いか。それは。そんなことする理由がないわ。
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ぼう
)
の
産声
(
うぶごえ
)
が聞こえた時は、
十中八九
(
じゅっちゅうはっく
)
、
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ぼう
)
が生まれたということなんや。 そして、その俺の読みには、残念ながら
狂
(
くる
)
いはなかった。
四方
(
しほう
)
を
襖
(
ふすま
)
に
囲
(
かこ
)
まれている
部屋
(
へや
)
の、別のほうの
襖
(
ふすま
)
が、がらっと開いた。 自動ドアみたいに、
誰
(
だれ
)
も
襖
(
ふすま
)
を引いてへんのに、自動的に開いたんや。 そして、その向こうに、
綺羅
(
きら
)
びやかに
着飾
(
きかざ
)
った、いつものうちのおかんが立っていた。 「あら、アキちゃん。帰ってたんどすか?」 三ヶ月、
蜜柑
(
みかん
)
しか食うてへんようには見えへん、
肌
(
はだ
)
の色ツヤで、おかん、
秋津
(
あきつ
)
登与
(
とよ
)
は、にこやかに歩いてきた。 いつもと同じく、
綺麗
(
きれい
)
な
京友禅
(
きょうゆうぜん
)
の着物着て、
髪
(
かみ
)
もきっちり
結
(
ゆ
)
うてある。
薄化粧
(
うすげしょう
)
もして、おかんはいつも美人や。 でも、俺、おかんと会うの、三ヶ月ぶりなんや。最後に
会
(
お
)
うたのは、あの、
信太
(
しんた
)
を
生贄
(
いけにえ
)
に
捧
(
ささ
)
げた
六甲山
(
ろっこうさん
)
の
祭壇
(
さいだん
)
の上でやった。 俺はちょっと
身構
(
みがま
)
えて、おかんの
腹
(
はら
)
のあたりをサッと
盗
(
ぬす
)
み
見
(
み
)
た。 そこには
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ぼう
)
が入っている
気配
(
けはい
)
はもう
無
(
の
)
うて、いつもと何ら変わらん
様子
(
ようす
)
や。 たった今、出産しましたていう
姿
(
なり
)
でもない。 子供産んだばっかりの
女
(
ひと
)
を見たことある
訳
(
わけ
)
やないんやけど、ほら、
映画
(
えいが
)
とか、テレビドラマとかでは、ぐったり横たわってたりしてはるやん。 そんな急に
訪問着
(
ほうもんぎ
)
着てウロウロしたりしいひんで。 「
大事
(
だいじ
)
ないか、お
登与
(
とよ
)
。今、
見舞
(
みま
)
いにいこかて言うてたとこや」 「
大事
(
だじ
)
おへん。二度目どすさかい。アキちゃんのときは、
初産
(
ういざん
)
やったさかい、少々苦労しましたけど、
二人目
(
ふたりめ
)
はさらっと
済
(
す
)
みましたえ」 さらっとか。産んだんや。 俺はたぶん
顔面
(
がんめん
)
蒼白
(
そうはく
)
なってたな。
若干
(
じゃっかん
)
、
気絶
(
きぜつ
)
しそうな気持ちでもあった。 おかん、ほんまに産んだんや。 俺のことも産んだし、弟も……、
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
も産んだんや。 ほんまに
妊娠
(
にんしん
)
してたんや。おとんの子やんな? 俺もそうなんやもんな。 口に出せへん何やかんやが、俺の
脳裏
(
のうり
)
を
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り、ほな帰るわ、さいならって
叫
(
さけ
)
んで
脱兎
(
だっと
)
しよかと思った。 でもまだ
一緒
(
いっしょ
)
に来た
亨
(
とおる
)
と
水煙
(
すいえん
)
が、
探
(
さが
)
しもんがあるて、
蔵
(
くら
)
に行ったきり
戻
(
もど
)
ってきてへん。 あいつら置いて帰ったら、俺、あかんかな。
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
に会いたくないんや! 「
奥様
(
おくさま
)
あ、
坊
(
ぼっ
)
ちゃま
産湯
(
うぶゆ
)
を使われましたよ」
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椎堂かおる
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