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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-10 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-10 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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29-10 アキヒコ
親戚
(
しんせき
)
の子を
案
(
あん
)
ずるような顔で、おかんが俺に言うてきて、俺は
困
(
こま
)
った。 いや、いや、ええのか、おかん。おとんはおかんの何やねん。 おとんが
朧
(
おぼろ
)
にとられてもうて、帰ってきいひんようになったら、どうするんや。
結局
(
けっきょく
)
俺は、実家の
家庭崩壊
(
かていほうかい
)
が心配なんやった。 小さい男や俺は。
我
(
わ
)
がの幸せが大事なんや。
朧
(
おぼろ
)
の
哀
(
あわ
)
れさより、おかんの幸せを
重視
(
じゅうし
)
した。 おかんが泣くのを見たくないんや! 泣く! 泣かへん⁉︎ なんで泣かへんの⁉︎ 「
連絡
(
れんらく
)
? とれる……と思うけど、俺が? おとんと、
朧
(
おぼろ
)
の?
仲
(
なか
)
を取り持つて?」 めちゃめちゃ
噛
(
か
)
み
噛
(
か
)
みでアキちゃん言うてた。 おかんの前やというのに、あまりにも
無様
(
ぶざま
)
さが
際立
(
きわだ
)
っている。 「お父さんの幸せを考えてさしあげなさい。あんたには
式
(
しき
)
が他にもいてますやろ。
亨
(
とおる
)
ちゃんかて
居
(
い
)
てんのやし、
水煙
(
すいえん
)
かて今やあんたのものや。その上、
朧
(
おぼろ
)
も
欲
(
ほ
)
しいんどすか? いやらしい……」 いやらしい言われた! おかんが俺を、このエロ
男
(
おとこ
)
みたいな
横目
(
よこめ
)
で見てる!! あかんもう死ぬ! 死ぬしかない!! 今日が俺の
命日
(
めいにち
)
やったんや! そういうパニックに
襲
(
おそ
)
われたが、俺は弟を
抱
(
だ
)
っこして
耐
(
た
)
えた。 あったかい
幼児
(
ようじ
)
の
温
(
ぬく
)
もり……。
癒
(
いや
)
される。 俺を分かってくれるのはお前だけやみたいな、変な気分になる。 「
朧
(
おぼろ
)
と……そういう
仲
(
なか
)
やない。あいつとは血をやる約束で、
式
(
しき
)
にしたんや。それも神戸で一回きりで、その後は顔も見てへん。ほんまやでおかん」 なんで俺は
言い訳
(
いいわけ
)
してんのや。そういう話やないやないか。 おとんや。おとんの話や。 「ほんなら
朧
(
おぼろ
)
のことで、お父さんと
争
(
あらそ
)
う気はないのやな? ほんならええやないの。ちゃんとそう、はっきりお言いやす。お父さんが心配してはるんは、
要
(
よう
)
するにそこなんえ。あんたと
式
(
しき
)
を取り
合
(
お
)
うて、
諍
(
いさか
)
いとうないんや。昔それでお父様と、いろいろおありやったんやから」 おとんの
式
(
しき
)
はもともと全部、
先先代
(
せんせんだい
)
のものやった。
世襲
(
せしゅう
)
やねん。
式
(
しき
)
は家に
憑
(
つ
)
くもんやから、
当主
(
とうしゅ
)
が
代替
(
だいが
)
わりしても、ずっと家に
居
(
い
)
てる。 そやから、
家督
(
かとく
)
を
継
(
つ
)
ぐ時、それも引き
継
(
つ
)
ぐんや。 つまりや。親から
家督
(
かとく
)
を
継
(
つ
)
ぐ時、その
愛人
(
あいじん
)
も全部、引き
継
(
つ
)
ぐということや。
式
(
しき
)
は
代替
(
だいが
)
わりを予感すると、親に
憑
(
つ
)
くんか、それとも
若
(
わか
)
い方にするか、
値踏
(
ねぶ
)
みを始める。
若
(
わか
)
いほうがイケてるわと思えた時から、わっと
大挙
(
たいきょ
)
して、心変わりをするんや。 今まで愛してた
主人
(
あるじ
)
を
捨
(
す
)
てて、新しいほうへ
憑
(
つ
)
く。 そこにどんな
泥沼
(
どろぬま
)
の
愛憎劇
(
あいぞうげき
)
があったか、今の俺には想像するのは
難
(
むずか
)
しくない。 おとんが家を
継
(
つ
)
ぐ、その当時の
秋津
(
あきつ
)
の家には、両手の指でも数えきれんぐらいの強い
式
(
しき
)
が、ぎょうさんおったようや。
亨
(
とおる
)
や
水煙
(
すいえん
)
が十も二十も
居
(
お
)
る
訳
(
わけ
)
や。 それと
組
(
く
)
んず
解
(
ほぐ
)
れつ、愛し合い、ローテーション決めて付き合うわけや。 死ぬな。死ぬ。 アキちゃんやったら死んでる。 その顔のひとつひとつが、
震
(
ふる
)
い付くほど美しいて、
愛
(
いと
)
おしいものなんやったら、まともな人間の心やと
破裂
(
はれつ
)
する。 しかもそれを
実
(
じつ
)
の親から
奪
(
うば
)
うというんやったらな。
捨
(
す
)
てられるほうにも、人間の心はあるわけやから、愛し愛される
仲
(
なか
)
が深けりゃ深いほど、
捨
(
す
)
てる神たちの心変わりは、
手痛
(
ていた
)
い
憎
(
にく
)
しみを生むことになるやろう。
因果応報
(
いんがおうほう
)
やな、っていう、おとんの
苦
(
にが
)
みばしった声を、俺は思い出した。 一生
忘
(
わす
)
れることはないやろう、神戸の海の底で、
骨
(
ほね
)
になったおとんから聞かされた言葉は、いつもずっと俺の心の
奥底
(
おくそこ
)
に静かに横たわっている。
親殺
(
おやごろ
)
しをした
報
(
むく
)
いを受けてると、おとんは思うてるんや。 きっと
後悔
(
こうかい
)
してるんやろう。 やむを
得
(
え
)
ない、お
家
(
いえ
)
のためと、
代替
(
だいが
)
わりするために実の親を
斬
(
き
)
った。
自害
(
じがい
)
するから
介錯
(
かいしゃく
)
せえという事やったけど、
留
(
とど
)
め
刺
(
さ
)
すのはおとんやということや。
腹
(
はら
)
切っただけやと、人は
簡単
(
かんたん
)
には死なへん。
頚椎
(
けいつい
)
に
致命傷
(
ちめいしょう
)
を
与
(
あた
)
えることで、
切腹
(
せっぷく
)
が終わるわけでやな、実は自殺でなく他殺なんや、あれは。 おとんがおとんを殺したわけや。 さっき……。おとんはそのおとんを好きやったと言うてた。 俺がおかんを愛してるように、おとんは
先先代
(
せんせんだい
)
を愛してたわけや。 おかんがちょっと
傷
(
きず
)
つくのにも俺は
耐
(
た
)
えられへん。そやのに、その
細首
(
ほそくび
)
を、刀で叩っ
斬
(
き
)
ることを想像したら、それはもう全身が
粟立
(
あわだ
)
つような
恐怖
(
きょうふ
)
や。 それに
耐
(
た
)
え、おとんは
殺
(
や
)
った。今の俺よりもさらに
若
(
わか
)
い時のことなんやろう。 そんなんしたら、俺やったら
廃人
(
はいじん
)
や。
愛
(
いと
)
しいおかんを手にかけて、生きてなんかいかれへん。 そうやけど、おとんは死ぬわけにもいかへんかったやろう。 お
家
(
いえ
)
を
継
(
つ
)
いで、
繁栄
(
はんえい
)
させていかなあかんかったんやしな。 そして
戦
(
いくさ
)
で死んだんや。
無念
(
むねん
)
の死やった。
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椎堂かおる
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