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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-21 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-21 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
813 / 928
29-21 アキヒコ
勝呂
(
すぐろ
)
瑞季
(
みずき
)
はその後、帰ってきた。
恐
(
おそ
)
ろしい
執念
(
しゅうねん
)
や。あいつはよっぽど俺が好きや。 そうやけど、俺はあいつの
情熱
(
じょうねつ
)
には
応
(
こた
)
えてやられへん。 何でって、
亨
(
とおる
)
が
居
(
お
)
るもん。
水煙
(
すいえん
)
も……。
水煙
(
すいえん
)
はええか。
亨
(
とおる
)
がおるからやな。
亨
(
とおる
)
がおって、
水煙
(
すいえん
)
もいて、あいつは三番。それでええな? それが
当家
(
とうけ
)
の
式
(
しき
)
の
序列
(
じょれつ
)
やて、そういうことで、あんじょう
上手
(
うま
)
いことやっていこかて、はい
先輩
(
せんぱい
)
、て、そんな変なハッピーエンドある? ないよ。 そんなサラッといかへんねんて。 あいつ大体、どこにいた?
亨
(
とおる
)
が話した、
龍
(
りゅう
)
との対決の話、聞いたやろう? あいつ出てきた?
勝呂
(
すぐろ
)
瑞季
(
みずき
)
は俺を守って
奮闘
(
ふんとう
)
してたか? まあ……そうではなかったな。残念ながら。 俺は別にかまへん。あいつに命がけで戦ってほしいなんて全然思うてへんかったし、気にすることない。 むしろ
無事
(
ぶじ
)
に生きててくれただけで
万々歳
(
ばんばんざい
)
やったわ。 そやけどな、本人はそうは思わへん。俺は役立たずやって、ものすご落ち込んでもうてな。ものも言わへん。 声がな、出えへんねん。
津波
(
つなみ
)
が引いて、街を
蘇
(
よみがえ
)
らせて、ああ良かったなハッピーエンドやって思うたわ。 大変な戦いやった、何度もピンチを
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えた。チーム
秋津
(
あきつ
)
で力を合わせて大勝利やったなあって、ホッとしたものの、
瑞季
(
みずき
)
おらへんやん、て気付いた。 そしたら
水煙
(
すいえん
)
が、役に立たんし
足手
(
あしで
)
まといやったから、海にほかしたわ、って言うんや。 ほかした⁉︎
捨
(
す
)
てたんか⁉︎
水煙
(
すいえん
)
⁉︎ まあ実際に
放
(
ほ
)
ったのは、
朧
(
おぼろ
)
らしいけどな。 お前ら
鬼畜
(
きちく
)
やなあ。何でそうなんや。 ほんまに俺のことしか考えてへん。
式神
(
しきがみ
)
いうんは、そういうもんみたいやけど、
秋尾
(
あきお
)
さんとか見てみ?
優
(
やさ
)
しいで。そういう神もいてるで。 俺は
皆
(
みな
)
にもそういう
風
(
ふう
)
になってもらいたいわ。 まあ、
秋尾
(
あきお
)
さんは
式神
(
しきがみ
)
やあらへんのや。
普通
(
ふつう
)
に神や。
大崎
(
おおさき
)
先生に
隷属
(
れいぞく
)
してるわけやない。
朧
(
おぼろ
)
や
水煙
(
すいえん
)
とはちょっと
違
(
ちが
)
うんやろうな。 それでうちの
鬼
(
おに
)
さんたちが、犬どうなったか知らんわって言うから、俺もギャーッてなって、
探
(
さが
)
したわ。
亨
(
とおる
)
には白い目で見られたけど、
放
(
ほう
)
っとくわけにいかへんやん? ほんで見つけたよ。でも犬になってもうてた。 あいつ
凹
(
へこ
)
むと犬に
戻
(
もど
)
るみたいやな。 気力が
萎
(
な
)
えると
霊力
(
れいりょく
)
も
乏
(
とぼ
)
しくなるんかな。元の犬の
姿
(
すがた
)
になってしまうんや。
亨
(
とおる
)
も弱ると
蛇
(
へび
)
に
戻
(
もど
)
ってまうもんな。それと同じやろう。 神戸の件の
事後
(
じご
)
処理
(
しょり
)
は
霊振会
(
れいしんかい
)
がやってくれるってことで、俺らは京都に帰っていいことになった。 待ちに待った日や。ずっと帰りたかった
出町柳
(
でまちやなぎ
)
のマンションに、やっと帰れるんや。 俺の車は、神戸の
山手幹線
(
やまてかんせん
)
で事故って
粉々
(
こなごな
)
になり、
神楽
(
かぐら
)
さんの
奇跡
(
きせき
)
でナイナイされてもうた。もうこの世にあらへん。 しょうがないし、
蔦子
(
つたこ
)
さんとこの
式神
(
しきがみ
)
の
啓太
(
けいた
)
が車出してくれて、京都まで送ってくれた。よう気がつく
奴
(
やつ
)
や。
信太
(
しんた
)
が死んでもうて、あいつがまた
蔦子
(
つたこ
)
さんの
筆頭
(
ひっとう
)
の
式神
(
しきがみ
)
に
返
(
かえ
)
り
咲
(
ざ
)
いていた。 それでも、
啓太
(
けいた
)
の心は全然晴れてはおらんようやった。 雪の
精
(
せい
)
やしな、いつも心はブリザードや。 あいつは
信太
(
しんた
)
が
可哀想
(
かわいそう
)
やと思ってたらしいわ。 それに
寛太
(
かんた
)
にも
惚
(
ほ
)
れてたのに、
不死鳥
(
ふしちょう
)
は泣きながら飛び去ってもうて、
行方
(
ゆくえ
)
は知れへんかった。 それに
朧
(
おぼろ
)
や。
啓太
(
けいた
)
は
朧
(
おぼろ
)
ともデキとったようや。 そらまあそうなんやろうな。キスしとったもんな。 あいつ
誰
(
だれ
)
とでもキスするんやしな。
節操
(
せっそう
)
ないんやから、
朧
(
おぼろ
)
は。 それでも
雪男
(
ゆきおとこ
)
のほうは、何かは感じてたんやろうな。
朧
(
おぼろ
)
と
不死鳥
(
ふしちょう
)
、恋しい
二羽
(
にわ
)
の鳥さんが同時に飛び去ってしまい、
啓太
(
けいた
)
は
消沈
(
しょうちん
)
していた。
蔦子
(
つたこ
)
さんの
式
(
しき
)
が
三柱
(
さんはしら
)
もいっぺんに
減
(
へ
)
ってもうたし、
気張
(
きば
)
らなあかんなという重さもあったやろう。 ものすご車内の空気が重かったわ。 それに犬。
瑞季
(
みずき
)
は犬になってたけど、初めはマルチーズやなかったで。でかい黒い犬やった。 犬になるのは
一緒
(
いっしょ
)
でも、
犬種
(
けんしゅ
)
とかデカさは、その時々で
違
(
ちが
)
うねん。 この時の
瑞季
(
みずき
)
は
地獄
(
じごく
)
の
猟犬
(
りょうけん
)
みたいなでかい犬で、高速道路で
隣
(
となり
)
を走ってる車のドライバーがびびってハンドル
操作
(
そうさ
)
を
誤
(
あやま
)
りそうになるほどの
危険
(
きけん
)
さやった。 それをシートにぎゅうぎゅうに
詰め込
(
つめこ
)
んで、京都まで帰ったんや。 俺は
膝
(
ひざ
)
に犬
抱
(
いだ
)
くだけで
一杯一杯
(
いっぱいいっぱい
)
やし、
水煙
(
すいえん
)
ですら、
太刀
(
たち
)
に
戻
(
もど
)
って
助手席
(
じょしゅせき
)
で
亨
(
とおる
)
の
膝
(
ひざ
)
に
抱
(
だ
)
かれるほうを選んだ。 犬に
踏
(
ふ
)
まれながら京都までドライブしたくはなかったんやな。 運転席のメガネの
式
(
しき
)
は
終始
(
しゅうし
)
無言やった。
瑞季
(
みずき
)
も一言も
喋
(
しゃべ
)
らへん。 俺も
亨
(
とおる
)
も、なんか、もの言うたらあかんみたいな空気で、ずっと
黙
(
だま
)
ってた。
水煙
(
すいえん
)
も
黙
(
だま
)
ってたけど、あいつはそれが
苦痛
(
くつう
)
ということはなかったやろう。 俺は
苦痛
(
くつう
)
やった。ペラペラ
喋
(
しゃべ
)
りたい
訳
(
わけ
)
ではなかったんやけど、俺は
龍
(
りゅう
)
を
片付
(
かたづ
)
けた。神戸も救うことができた。やったなあ、やり
遂
(
と
)
げたという、明るい気持ちにはなっていたんや。 そうやけど、現実にはこの戦いには、
犠牲
(
ぎせい
)
になった者もいたという、当たり前のことを思い出して、熱くなってた頭に、氷水をぶっかけられた気持ちやった。
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椎堂かおる
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