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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-23 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-23 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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29-23 アキヒコ
愛
(
いと
)
おしい、
亨
(
とおる
)
の体の
感触
(
かんしょく
)
がして、俺は
神戸
(
こうべ
)
にいたとき、何もかも終わって、ほっとした時、
無意識
(
むいしき
)
に心のどこかで、
早
(
はよ
)
う帰って、
亨
(
とおる
)
とゆっくり
抱
(
だ
)
き
合
(
あ
)
いたいと思ってた自分を思い出した。 めちゃくちゃ強く
抱
(
だ
)
いて、
貪
(
むさぼ
)
りたい。 お前は俺のもんやって、
激
(
はげ
)
しくやって、朝まで
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
てた
亨
(
とおる
)
を
抱
(
だ
)
いて
眠
(
ねむ
)
りたいんや。 そういう
楽園
(
らくえん
)
を、思ってたんやけどな。 なんか、無理やわ。
瑞季
(
みずき
)
もいてるし、
水煙
(
すいえん
)
も、
居
(
お
)
るし。 それでも俺は、
亨
(
とおる
)
の
腕
(
うで
)
を引いて自分の前に来させて、
顎
(
あご
)
あげさせてキスはした。
甘
(
あま
)
い。すごく。
触
(
ふ
)
れる
亨
(
とおる
)
の
唇
(
くちびる
)
も
舌
(
した
)
も、すごく
甘
(
あま
)
くて、
愛
(
いと
)
しかった。 はあ、と
切
(
せつ
)
ないため息を、
亨
(
とおる
)
がもらした。 今すぐしたい。思いとどまる理由もなかった。この家を
離
(
はな
)
れる前なら。 ここで
脱
(
ぬ
)
がして、
押
(
お
)
し
倒
(
たお
)
して、
亨
(
とおる
)
をめちゃめちゃ
喘
(
あえ
)
がせても、それで良かったんや。 けど今はどうやろうな。ソファには犬もいてるし、
水煙
(
すいえん
)
も……。 「アキちゃん、どしたん。
疲
(
つか
)
れたか」 心配そうに、
亨
(
とおる
)
が聞いてくれた。 別に
疲
(
つか
)
れた
訳
(
わけ
)
やない。全然、元気やで。 でも、俺は
頷
(
うなず
)
いといた。 「あっちで、やろ」 俺は
亨
(
とおる
)
の手を引いて、
寝室
(
しんしつ
)
に連れていき、ドアを
閉
(
し
)
めると、電気もつけへんカーテン
越
(
ご
)
しに夕日の
漏
(
も
)
れる
部屋
(
へや
)
で、
亨
(
とおる
)
とめちゃめちゃやった。 そこにベッドあるのに、それが遠い気がして、
亨
(
とおる
)
を
壁
(
かべ
)
に
押
(
お
)
し
付
(
つ
)
けて
貪
(
むさぼ
)
った。 ああ。ええな。やっぱり
亨
(
とおる
)
が好きや。一番好き。 こうして
抱
(
だ
)
いてると、体が
溶
(
と
)
け
合
(
あ
)
いそうで、気持ちよすぎて、なんも考えられへん。 苦しそうなような、
亨
(
とおる
)
の
切
(
せつ
)
ない
喘
(
あえ
)
ぎが
聴
(
き
)
こえて、アキちゃんアキちゃん、好きやって言うてくれる。 その声が
脳
(
のう
)
に
沁
(
し
)
みて、俺はいつもすぐアホになってまうねん。何も考えられへん。 そういう考え無しで、
飯
(
めし
)
も食わんと、ずうっとやってた。
腹
(
はら
)
も
減
(
へ
)
らんし、力は
幾
(
いく
)
らでも
湧
(
わ
)
いてくるみたいにある。
欲
(
よく
)
も前よりずっと強いんか、
亨
(
とおる
)
が、もうやめてくれって、言うた。死にそうやって。 どろどろなってる
亨
(
とおる
)
はほんまに
疲
(
つか
)
れたふうで、俺は心配になって、
抱
(
だ
)
くのをやめた。
亨
(
とおる
)
も
疲
(
つか
)
れてたんやろう。ほんまに大変な日々やった。
大波
(
おおなみ
)
に
翻弄
(
ほんろう
)
されて
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
ててもうて、
亨
(
とおる
)
は
朦朧
(
もうろう
)
として
寝
(
ね
)
てた。 それをベッドに横たえてやって、気づくと
深夜
(
しんや
)
になっていた。
喉
(
のど
)
かわいたな、って、水を求めて
寝室
(
しんしつ
)
を出て、キッチンに行こうとしたら、
誰
(
だれ
)
かがソファに
座
(
すわ
)
ってて、ぎょっとした。
水煙
(
すいえん
)
やった。 知らん
奴
(
やつ
)
が
居
(
お
)
るって、びっくりしたけど、それは俺が
描
(
か
)
いてやった新しい
姿
(
すがた
)
の
水煙
(
すいえん
)
やったせいや。
人肌
(
ひとはだ
)
の色をして、美しい横顔をした
水煙
(
すいえん
)
が、
気
(
け
)
だるそうに
座
(
すわ
)
っていた。 絵に
描
(
か
)
いた時と同じ、白いシャツと、グレーのズボンを着てる。
裸足
(
はだし
)
のつま先にはちゃんと、
真珠
(
しんじゅ
)
みたいな
光沢
(
こうたく
)
のある
爪
(
つめ
)
がついてた。 「またもやお楽しみやったようやな」
怒
(
おこ
)
ってるでも冷やかすでもない、
無表情
(
むひょうじょう
)
な声で、
水煙
(
すいえん
)
が俺に言うた。 声、聞こえたやろな。別に
防音
(
ぼうおん
)
にはなってへんのやし。 「
亨
(
とおる
)
も満足したやろ」 あれだけやれば。
言外
(
げんがい
)
にそういうニュアンスを感じて、俺は
黙
(
だま
)
ってた。 何て言うていいか、分からへん。 俺は、
亨
(
とおる
)
が好きやし、あいつも俺が好き。
結婚
(
けっこん
)
までしたし。
相思相愛
(
そうしそうあい
)
。
運命的
(
うんめいてき
)
な相手やと思うてる。 そういう相手を連れて、
一緒
(
いっしょ
)
に住んでる
部屋
(
へや
)
に帰ってきて、
抱
(
だ
)
き
合
(
あ
)
うて
燃
(
も
)
えて何が悪いんや? 別に悪くはない。 ただ、
罪
(
つみ
)
なだけ。 「犬に血をやれ、アキちゃん。これ、もう死ぬで」 言われて、
背
(
せ
)
もたれの向こう側にいる
瑞季
(
みずき
)
を見たら、ぐったりと浅い息をしている
痩
(
や
)
せこけた犬がいて、白い
巻
(
ま
)
き
毛
(
げ
)
には
泥
(
どろ
)
と、血が
滲
(
にじ
)
んでいた。 もう死ぬ。
確
(
たし
)
かに、
瑞季
(
みずき
)
は今すぐにでもバラバラになりそうに見えた。 俺は無言で、キッチンに行って、そこにあった
包丁
(
ほうちょう
)
を持ってきた。
水煙
(
すいえん
)
は、
戻
(
もど
)
った俺を
微
(
かす
)
かに
咎
(
とが
)
める目で見たが、別に止めはしいひんかった。
腕
(
うで
)
を
包丁
(
ほうちょう
)
で切って、俺は
滴
(
したた
)
るぐらいの血を自分に流させた。
右利
(
みぎき
)
きやし、切ったのは
左腕
(
ひだりうで
)
やわ。 そういう時でも、絵を
描
(
か
)
く右手は守る。そういう男やわ、俺は。 はあはあと
乱
(
みだ
)
れた小さい息をしてる犬は、体が赤く
染
(
そ
)
まるぐらい血をかけてやっても、それを飲もうとはしいひんかった。 しょうがないから、俺はソファに
座
(
すわ
)
って、ひょろひょろなってる犬の口を、
無理矢理
(
むりやり
)
自分の
腕
(
うで
)
の
傷
(
きず
)
に
押
(
お
)
し
当
(
あ
)
てた。
痛
(
いた
)
いわ。そりゃ
痛
(
いた
)
いんやけど。 ここで死なせる
訳
(
わけ
)
にはいかへん。俺も必死やった。 「その犬……」
無理矢理
(
むりやり
)
、血を飲ませてる俺を見て、
水煙
(
すいえん
)
はしソファの
肘掛
(
ひじかけ
)
にほおづえをついていた。 「ほかしてきたほうが、マシやったんやないか? どうせ
居
(
お
)
っても
邪魔
(
じゃま
)
やろう。
亨
(
とおる
)
もええ顔せんやろうし。
蔦子
(
つたこ
)
のところにでも、
譲
(
ゆず
)
ったらどうや」 ここに置くよりマシやろう、って、
水煙
(
すいえん
)
は俺にアドバイスしていた。
確
(
たし
)
かに、そうかもしれへん。俺が考え無しやった。
戻
(
もど
)
った後、どないするかまで、正直考えてへんかった。 まさかまたこの
地獄
(
じごく
)
に
逆戻
(
ぎゃくもど
)
りとは。 「
水煙
(
すいえん
)
」
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椎堂かおる
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