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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-26 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-26 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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29-26 アキヒコ
地獄
(
じごく
)
に落ちて、こいつは自分の
罪
(
つみ
)
は
償
(
つぐな
)
ったんや。 そうしてまた、
娑婆
(
しゃば
)
に
戻
(
もど
)
ってきたんやっていうんなら、この先の自分の人生を考えたってええはずや。 どうやって、世に
尽
(
つ
)
くして生きてくか。 俺もそうやったように、死んでではなく、生きてお
詫
(
わ
)
びをするんやったら、お前もただの犬では生きていかれへん。 何か役に立つ
者
(
もん
)
にならなあかんやろ。 まずは、親と家のことを、ちゃんとせえ、って、それは俺ならではの
発想
(
はっそう
)
やったかな。 まずは学校いくついでにカツ
丼
(
どん
)
食うて、
苑
(
その
)
先生に
挨拶
(
あいさつ
)
して、それから
大阪
(
おおさか
)
の、
勝呂
(
すぐろ
)
瑞季
(
みずき
)
の家に行く。 帰らへんなら帰らへんで、ちゃんと話をつけなあかんて思うてた。 どうやって何を話すんや、って、それについては考えてへんかったな。 俺も
未熟
(
みじゅく
)
や、アホやったわ。
瑞季
(
みずき
)
と俺は
風呂
(
ふろ
)
に入り……
一緒
(
いっしょ
)
にやないで、
順番
(
じゅんばん
)
にやで……
着替
(
きが
)
えて大学に出かけることにした。
亨
(
とおる
)
と
水煙
(
すいえん
)
はまだ
寝
(
ね
)
てて、まだ真夏やった早朝の
出町柳
(
でまちやなぎ
)
を、俺は犬と大学へ。
瑞季
(
みずき
)
は顔
隠
(
かく
)
したいんか、このクソ暑いのにパーカー着て、フードを
目深
(
まぶか
)
に
被
(
かぶ
)
ってた。 お前、それ、返って目立つで。 フードの中の顔が、めちゃめちゃ
可愛
(
かわい
)
いんやしな? 久しぶりに乗って感動もんやった、なんの
変哲
(
へんてつ
)
も無い
叡山
(
えいざん
)
電鉄の車内で、観光で来てはった旅行者のお姉さんたちに、見て見て、あの子
可愛
(
かわい
)
い、アイドルかな? って言われてた。 写真も
撮
(
と
)
られた。
容貌
(
ようぼう
)
が美しいということは、
撮
(
と
)
っていいということや。そう
勘違
(
かんちが
)
いしてる人らがいてる。 特に今どき、みんなスマホは持ってる。何ならカメラも持ってる、観光客だらけの京都やしな、パパラッチだらけや。 俺も昔からそうやった。小学校の通学路で
誰
(
だれ
)
やいうおっさんが
一眼
(
いちがん
)
レフ
構
(
かま
)
えて追いかけてきたり、高校の通学路で女子高生がいきなり
撮
(
と
)
ってきたりする。大学の通学路でもそうや。 特に
勝呂
(
すぐろ
)
瑞季
(
みずき
)
と
叡電
(
えいでん
)
乗ってると、時々、どこからともなくシャッター音がした。 ヴィラ
北野
(
きたの
)
のロビーでは、
驚
(
おどろ
)
くほど美しい
奴
(
やつ
)
が、
呆
(
あき
)
れるほど美しい
奴
(
やつ
)
と
抱き合
(
だきお
)
うてキスしてても、
誰
(
だれ
)
も
振
(
ふ
)
り
返
(
かえ
)
らへんかった。それが
普通
(
ふつう
)
の世界やった。 そやけど
俗世
(
ぞくせ
)
ではあれは
異常
(
いじょう
)
や。
式
(
しき
)
は
皆
(
みな
)
、顔を
隠
(
かく
)
して
暮
(
く
)
らしてる。
秋尾
(
あきお
)
さんかて、メガネかけたら
冴
(
さ
)
えへん中年男や。
亨
(
とおる
)
は写真に写らへん。
水煙
(
すいえん
)
に
至
(
いた
)
っては、ほんまもんの美しい顔が、
奥
(
おく
)
の
奥
(
おく
)
に
隠
(
かく
)
されていて、
拝
(
おが
)
むことさえ
至難
(
しなん
)
の
技
(
わざ
)
やった。
瑞季
(
みずき
)
。お前にも何か、目立たんようにする
技
(
わざ
)
が
要
(
い
)
るんかもしれへんな。 特に今、以前とは
違
(
ちご
)
うて、
世間
(
せけん
)
に顔
晒
(
さら
)
したないっていう意識でおるなら、電車でバシバシ写真に
撮
(
と
)
られるようでは、
困
(
こま
)
るんやもんな。
撮
(
と
)
らんといてやってくれ。 そう思った俺のせいで、お姉さん達の観光写真、なんでか消えてもうてたやろか。 インスタ
映
(
ば
)
えしそうなやつは、なるべく残しておけたつもりやねんけどな。 アキちゃん
全消去
(
ぜんしょうきょ
)
しか
慣
(
な
)
れてへんから、失敗してたらゴメンやで。 電車は駅に着き、大学の門のところで
解錠
(
かいじょう
)
してた
守衛
(
しゅえい
)
のおっちゃんに、兄ちゃんら早いなあって
驚
(
おどろ
)
かれた。
苑
(
その
)
先生、来てはりますかって聞いたら、来てるって。 先生、いっつも早いんや。 朝早う来て、夜
遅
(
おそ
)
うまでいてる。学校に住んでんのやという
噂
(
うわさ
)
さえある。 ほんまかどうかは知らんけど、先生、いつでも
居
(
お
)
ることは
確
(
たし
)
かや。 家に
居
(
い
)
づろうてね、という話を先生はしてた。 前も言うたっけ?
苑
(
その
)
先生ん
家
(
ち
)
は代々、政治家さんやねん。 お父さんと弟さんが
代議士
(
だいぎし
)
で、ほんまやったら先生も
出馬
(
しゅつば
)
せえいう人やったみたいやけど、先生、ぼんくらやし絵
描
(
か
)
いてんのやんか。 そこが俺と
相通
(
あいつう
)
ずるもんがある、と先生は
思
(
おも
)
たんか、
妙
(
みょう
)
に俺にすり
寄
(
よ
)
ってきはって、
本間
(
ほんま
)
君は
旧家
(
きゅうか
)
の一人息子やろ、
家継
(
いえつ
)
ぐとかないのん、絵
描
(
か
)
いててええのんか、お母さん
怒
(
おこ
)
ってはらへんかって、心配げに首
突
(
つ
)
っ
込
(
こ
)
んで来はったりしてたわ。 ほっといてくれ
余計
(
よけい
)
なお世話やでって思うてたけど、あれ先生、心配してくれてたんやんな。 絵
描
(
か
)
いて食うていく道は
厳
(
きび
)
しいで。モノになる
奴
(
やつ
)
は
一握
(
ひとにぎ
)
りだけやで。お前はどないするつもりやって、先生は
浮世
(
うきよ
)
離
(
ばな
)
れした学生のことを、それとのう心配してくれてはるんやな。 それとも
単
(
たん
)
に、
良家
(
りょうけ
)
のグレてる
坊々
(
ぼんぼん
)
仲間で
傷
(
きず
)
を
舐
(
な
)
めあいたいだけか。 「先生、おはようございます」 ノックした
瞬間
(
しゅんかん
)
に
苑
(
その
)
先生の部屋のドア開けて、俺は
挨拶
(
あいさつ
)
をした。 先生、うわあ言うて
椅子
(
いす
)
から落ちてた。びっくりしてもうたらしい。 俺、
急
(
きゅう
)
やった? まあそうやったな。 「ほ、
本間
(
ほんま
)
くん⁉︎ え⁉︎ す、
勝呂
(
すぐろ
)
君やないか……」
苑
(
その
)
先生、しばらく
絶句
(
ぜっく
)
してた。 まあそりゃあそうやわな。
勝呂
(
すぐろ
)
瑞季
(
みずき
)
はずっと消えてた。
失踪
(
しっそう
)
や。死んだとも言われてた。
疫病
(
えや
)
みの時、こいつと俺は
警察
(
けいさつ
)
に、
犯人
(
はんにん
)
扱
(
あつか
)
いされて
捜査
(
そうさ
)
されたし、俺は
無罪
(
むざい
)
放免
(
ほうめん
)
なったものの、
勝呂
(
すぐろ
)
はグレーのままやった。 それは
皆
(
みな
)
、
薄々
(
うすうす
)
感じてたはずや。 あんぐりってなったまま、先生は
朝飯
(
あさめし
)
やったんか、コンビニのおにぎり食うてたやつを、ずっと手に持ってた。
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椎堂かおる
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