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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-33 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-33 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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29-33 アキヒコ
普通
(
ふつう
)
やったら
祈
(
いの
)
るしかできないところを、俺は
鬼道
(
きどう
)
の世界の男になった。君のためにもっと何か、出来ることがあるやろう。 あって良かった。せめてもの
罪滅
(
つみほろ
)
ぼしに、俺はその日までに、ぎょうさん
修行
(
しゅぎょう
)
を
積
(
つ
)
んどくわ、
由香
(
ゆか
)
ちゃん。 あの時は、後ろめたさに
震
(
ふる
)
え、
黙
(
だま
)
って
詫
(
わ
)
びることしかできひんかったけど、今はそれよりマシな
祈
(
いの
)
りを、君に
捧
(
ささ
)
げられて良かったわ。 でも、できれば君の
魂
(
たましい
)
は、
迷
(
まよ
)
うて
彷徨
(
さまよ
)
ったりすることなく、光のあるほうへ行けたらええな。 もうあの時の犬は、君を追いかけたりしいひん。もう、深く、
後悔
(
こうかい
)
してる。君を
噛
(
か
)
んだこと、血を流させたことを、深く
反省
(
はんせい
)
してるんや。
恨
(
うら
)
むなとは言えへん。
恨
(
うら
)
まれて当然の事をした。 そうやけど、こいつに
償
(
つぐな
)
う
機会
(
きかい
)
をやってくれ。
地獄
(
じごく
)
で苦しむだけやと足りひん。この世で、人を助けて、
償
(
つぐな
)
わせてやってほしいんや。
由香
(
ゆか
)
ちゃん。君が俺のせいで死んだこと、一生
忘
(
わす
)
れへん。
瑞季
(
みずき
)
もそうやろう。君が感じたやろう
痛
(
いた
)
みを、ずっと思って生きていく。 夕日が
沈
(
しず
)
んで、気づけば暗くなってきていた。もう、行かなあかん。 「
大阪
(
おおさか
)
いこか、
瑞季
(
みずき
)
」 俺が急に言うと、
瑞季
(
みずき
)
はビクッとした。
驚
(
おどろ
)
いたみたいやった。 「
大阪
(
おおさか
)
ですか? なんで?」 「お前の家に行くねん」 俺が教えると、
瑞季
(
みずき
)
はちょっと息をのんで、目を
見開
(
みひら
)
いた。
緊張
(
きんちょう
)
したような顔やった。 あの時、死んで、ずっとそれっきりやったんやろう。
瑞季
(
みずき
)
は親に会ってはいなかった。それも変やって思うべきやった。 俺やったら、帰れる身になったらすぐに、おかんのとこにすっ飛んで帰るやろう。 心配かけたし、会いたいからや。アキちゃんマザコンやしな。
瑞季
(
みずき
)
かて、親は大事やろう。俺はそう
思い込
(
おもいこ
)
んでた。 「何で行くんですか……」
身構
(
みがま
)
えた
口調
(
くちょう
)
で、
瑞季
(
みずき
)
は俺を一歩
離
(
はな
)
れて見上げて来た。 すぐに
逃
(
に
)
げられる
間合
(
まあ
)
いを取ってるみたいに、俺には見えた。 「何でって……お前は帰るべきや。家族も心配してるやろ。俺の
式
(
しき
)
やって頭から思い
込
(
こ
)
んでて、つい
出町
(
でまち
)
に連れて帰ってもうたけど、お前ん
家
(
ち
)
、
大阪
(
おおさか
)
にあるんやもんな」 それが
道理
(
どうり
)
や。俺はそういう
諭
(
さと
)
す
口調
(
くちょう
)
やったんかもしれへん。 だってそうやろ。親が心配してこいつを待ってるのに、うちとか、
嵐山
(
あらしやま
)
の家とか、まして
蔦子
(
つたこ
)
さんの
甲子園
(
こうしえん
)
の家に
瑞季
(
みずき
)
を
預
(
あず
)
けるのは、おかしい気がする。家に帰るべきや。 そやのに、
瑞季
(
みずき
)
はそう思ってへんみたいやった。 「俺が……
邪魔
(
じゃま
)
なんやったら、そう言うてください。
先輩
(
せんぱい
)
」 「そんなこと言うてへんやないか。親に顔見せるぐらいするべきや。ずっと、帰ってへんのやろ?」 もう二ヶ月になるか、もっとか? こいつが
地獄
(
じごく
)
で三万年過ごす間、こっちでも時は流れてた。その間、どこに行ったか、死んでもうたかどうかも分からん息子を、親が待ってない
訳
(
わけ
)
があるやろうか。 うちのおとんなんかな、死んで七十年以上も経ってんのに、おかんや
蔦子
(
つたこ
)
さんは、生きて帰ると信じて待ってた。それが家族ってもんや。 お前の家族かてそうや、
瑞季
(
みずき
)
。お前を待ってる。 「行こ。
京阪
(
けいはん
)
やろ? 俺も
一緒
(
いっしょ
)
に行くわ。その上で、俺んとこに
居
(
お
)
りたいんなら、ちゃんと
挨拶
(
あいさつ
)
して
説明
(
せつめい
)
するし……」 そう言うたけど、なんて
挨拶
(
あいさつ
)
するんか、俺にはまだ
見当
(
けんとう
)
もついてへんかった。 お父さん、お母さん、息子さんをうちにください。必ず幸せにします。て言うんか? えええええ。そうか? そういうのか? どないすんねんそれ。 着くまでに、もっとマシなプランを考えなあかん。
大阪
(
おおさか
)
まで、しばらくかかるし、必死で考えようって俺は思って、駅に向かって歩き出したが、
瑞季
(
みずき
)
の足はめちゃくちゃ重かった。 散歩を
嫌
(
いや
)
がる犬を引っ張って歩くみたいな気分や。 それでも
瑞季
(
みずき
)
は
黙
(
だま
)
ってついてきた。 俺から一歩
離
(
はな
)
れ、
斜
(
なな
)
め後ろを歩いて来る。
叡電
(
えいでん
)
に乗って、
出町柳
(
でまちやなぎ
)
で
京阪
(
けいはん
)
に乗り
換
(
か
)
えて、
大阪
(
おおさか
)
まで走る
特急
(
とっきゅう
)
に乗る。
京阪
(
けいはん
)
特急
(
とっきゅう
)
はちょっと、遠くへ行く気分になる
列車
(
れっしゃ
)
や。
座席
(
ざせき
)
は二人がけのシートやし、
窓
(
まど
)
にはカーテンがかかってる。プライバシーをほどほどに守りつつ、ちょっと遠くへいくのを楽しめるようになってる。
瑞季
(
みずき
)
は全然楽しそうではなかった。暗い表情で、
押し黙
(
おしだま
)
っていた。 目の下にうっすら隈(くま)が
浮
(
う
)
き、
肌
(
はだ
)
が白いもんやから、それがひどく
際立
(
きわだ
)
って見えた。 「しんどいんか、
瑞季
(
みずき
)
。血、いるか?」 もうエネルギー切れか? そう心配して、俺はもうどこかズレてきてもうてるんやろな、
吸血
(
きゅうけつ
)
するかって聞いてた。
瑞季
(
みずき
)
はびっくりしたように、首を横に
振
(
ふ
)
った。 「電車ん中ですよ、
先輩
(
せんぱい
)
。そんなん
恥
(
は
)
ずかしいてできへんわ」
恥
(
はじ
)
や、って顔を、
瑞季
(
みずき
)
はしてた。 そうやっけ。
吸血
(
きゅうけつ
)
はゴハンやろ。
特急
(
とっきゅう
)
の車内でパン食うたり、おにぎり食うのと同じやないか? 実際、
京阪
(
けいはん
)
の駅の
志津屋
(
しづや
)
で
買
(
こ
)
うたパン食うてる人おったし、別にいいかなって。 「コーヒー飲んでください」
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椎堂かおる
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