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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-34 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-34 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
826 / 928
29-34 アキヒコ
恥
(
は
)
ずかしそうに、
瑞季
(
みずき
)
は
祇園四条
(
ぎおんしじょう
)
の駅のスタバで
買
(
こ
)
うたアイスコーヒーを俺に
差
(
さ
)
し出した。 気がきく犬は、あれこれ言わんでも、俺の
好
(
この
)
みのコーヒーを
買
(
こ
)
うてきてた。 こいつは、
可愛
(
かわい
)
い。
控
(
ひか
)
えめやし、よう気がつく。それに俺よりずっと
小柄
(
こがら
)
やし、
照
(
て
)
れ
臭
(
くさ
)
そうに横に
座
(
すわ
)
って、どぎまぎしてるのも
可愛
(
かわい
)
い。 なんやそれが変な気がして、俺は気がついた。 俺、
亨
(
とおる
)
になんも言うてきてへんわ。 あいつ
寝
(
ね
)
てたし、そのまま出かけて来たんやった。 とっくに起きてて、アキちゃんどこやって、心配してるかな?
連絡
(
れんらく
)
ぐらい入れとこかと思って、俺は
亨
(
とおる
)
に
携帯
(
けいたい
)
からメッセージを送った。
大阪
(
おおさか
)
の家に
瑞季
(
みずき
)
を送ってくるわ、って。 文字を打ってる俺を、
瑞季
(
みずき
)
が横でずっと見てた。 「
一緒
(
いっしょ
)
に
大阪
(
おおさか
)
いくの、
初
(
はじ
)
めてですね」 「そうやな」 電話をしまいながら、俺は
生返事
(
なまへんじ
)
してた。 「何かちょっと、デートみたい……ですよね」 俺とは目も合わせられんていうふうに、
瑞季
(
みずき
)
は
俯
(
うつむ
)
いたまま言うて、俺は飲もうとしたアイスコーヒーに噎(む)せた。 「あ、すいません。変なこと言うて」 俺が
咳
(
せ
)
き込むのを心配したんか、
瑞季
(
みずき
)
が俺の
背
(
せ
)
を
撫
(
な
)
でた。 それに何や、ぞわっとした。ぞくっとしたと言うか。
言い訳
(
いいわけ
)
してもしゃあないか。要するに、
瑞季
(
みずき
)
の手が
背
(
せ
)
を
撫
(
な
)
でる
感触
(
かんしょく
)
に、ぐっときたんや。
気軽
(
きがる
)
に俺に
触
(
さわ
)
る
奴
(
やつ
)
ではなかった。
大阪
(
おおさか
)
の一件の前なんて、手も
触
(
ふ
)
れんようにしてたんや。 お
互
(
たが
)
いに、そうやった気がする。 俺は、もしも
触
(
ふ
)
れたら、自分がどうかなって、
辛抱
(
しんぼう
)
できひんようになる気がして、こいつが
怖
(
こわ
)
かった。 そのときの気持ちは
封印
(
ふういん
)
されて、俺の心の
奥底
(
おくそこ
)
に
眠
(
ねむ
)
っていた気がする。 それは、開けたらあかん
箱
(
はこ
)
やったんや。 俺がびっくりして身をよじり、手を
避
(
よ
)
けたもんやし、
瑞季
(
みずき
)
もびっくりしていた。 じわっと暗い顔になり、
瑞季
(
みずき
)
も
出来
(
でき
)
る
限
(
かぎ
)
り俺から身を引いた。 シートに
沈
(
しず
)
み、小さくなって、
瑞季
(
みずき
)
は
伏
(
ふ
)
し
目
(
め
)
やった。 「すいません。俺、
痴漢
(
ちかん
)
みたいやな」 いやいやそんなことない。
過剰
(
かじょう
)
に
意識
(
いしき
)
した俺が変やった。
堪忍
(
かんにん
)
や。
瑞季
(
みずき
)
がひどく
傷
(
きず
)
ついたようやったんで、俺も
慌
(
あわ
)
てた。 そんな顔せんとってくれ。気まずさでいっぱいや。 「ほんまにそうかも。
先輩
(
せんぱい
)
に、
触
(
さわ
)
りたいんです。今日、いっぺんも、
触
(
さわ
)
ってない。犬やと
抱
(
だ
)
いてもらえんのに」 お前わざと
触
(
さわ
)
ったんか、俺に。 気まずさが、さらに
倍
(
ばい
)
。 「
触
(
さわ
)
ったら、あかんのですか、俺も。
先輩
(
せんぱい
)
、あの人ともキスしてたやん。見たよ……」
窓
(
まど
)
にくっ
付
(
つ
)
くようにして、
奥
(
おく
)
のシートに
座
(
すわ
)
ってる
瑞季
(
みずき
)
が、俺の顔は見られんまま、苦しそうに言うてた。 見たんか、お前。それ、
水煙
(
すいえん
)
の話してるんやな。 そういえば、あの時お前もソファに
居
(
お
)
ったんやもんな。 見てたんや。
寝
(
ね
)
てんのやと思ってたというか……お前のこと、
忘
(
わす
)
れてたんかもしれへん。
水煙
(
すいえん
)
が見てても、俺は平気で
亨
(
とおる
)
とキスしてもうてたし、それと同じか。 「俺もしたいな……。
先輩
(
せんぱい
)
とキスしたい。
嫌
(
いや
)
やったら、手を
繋
(
つな
)
ぐだけでもいい」
瑞季
(
みずき
)
の声は、ものすご小さかった。少し
掠
(
かす
)
れた
囁
(
ささや
)
き声で、俺には聞こえたけど、たぶん、人間の
可聴域
(
かちょういき
)
は
超
(
こ
)
えてた。 声ではない、声やった。 「だめですか?」 「あかん」
誘惑
(
ゆうわく
)
の
気配
(
けはい
)
のする声で聞く
瑞季
(
みずき
)
に、俺は
即答
(
そくとう
)
してた。 あかん、それは
怖
(
こわ
)
い。
我慢
(
がまん
)
できひんようになる自分を感じる。 お前が好きやって、頭イカレてきて、自分が何をするんか分からへん。 俺、アホやった。なんで二人で来てもうたんやろう。 今日は帰って、
亨
(
とおる
)
か
水煙
(
すいえん
)
に、
後日
(
ごじつ
)
改
(
らた
)
めて付いて来てもらえばよかった。 けど、
本音
(
ほんね
)
を言うたら、こいつを早く家に帰してやりたかったんや。 それはつまり、
厄介
(
やっかい
)
払
(
はら
)
いということやったんかもしれへん。 俺は犬を
大阪
(
おおさか
)
に
捨
(
す
)
てに行こうとしてたんやろか。いろいろ
理屈
(
りくつ
)
はつけてみても、俺には
瑞季
(
みずき
)
が
重荷
(
おもに
)
やった。
嫌
(
きら
)
いやからやない。
邪魔
(
じゃま
)
なわけでもないんや。好きやから、重たいねん。 俺がこいつに変な気起こさへんように、ずっと
堪
(
こら
)
えるんが、しんどいんや。 めちゃくちゃしんどい。 俺は気づくと自分の顔を
覆
(
おお
)
ってた。見るのもしんどい。こいつが横に
居
(
お
)
る
気配
(
けはい
)
さえ、重い。 早くこいつを
大阪
(
おおさか
)
の家族に返して、俺も京都に
逃
(
に
)
げて帰ろう。
亨
(
とおる
)
のとこへ。俺はそう急いでた。 だからって
京阪
(
けいはん
)
特急が倍の速さで走ってくれる
訳
(
わけ
)
やない。
大阪
(
おおさか
)
までは、しばらくかかるんや。 その時が、すごく長く
引き伸
(
ひきの
)
ばされて感じられて、俺は
苦痛
(
くつう
)
やった。
瑞季
(
みずき
)
もたぶん、
辛
(
つら
)
かったやろう。 「すみません……変なこと言うて」 こいつ何回俺に
謝
(
あやま
)
ったやろ。いつも、
居処
(
いどころ
)
が無さそうにしてる。 俺が
瑞季
(
みずき
)
に
居場所
(
いばしょ
)
を
与
(
あた
)
えてやってないんやから、それは当たり前のことやった。
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椎堂かおる
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