fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 29-36 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-36 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
828 / 928
29-36 アキヒコ
照
(
て
)
れてんのかな。とにかく行くで。絶対行く。 ここまで来たら俺も、そのパルテノン
神殿
(
しんでん
)
の心温まる
再会
(
さいかい
)
を
拝
(
おが
)
んでからしか帰られへん。 良かった
一件落着
(
いっけんらくちゃく
)
やって、思いたいんや。
大阪
(
おおさか
)
のことも、俺の中でやっと過去になる。
忘
(
わす
)
れがたい、
辛
(
つら
)
い過去でも、過去は過去。
胸
(
むね
)
にしまって、先へ進んでいけるやんか。 そやのに犬はまた
京橋
(
きょうばし
)
で歩かんようになった。全然動かん。どないしたんや
瑞季
(
みずき
)
。 帰る人の
波
(
なみ
)
の中で、急に立ち止まったまま、
大阪
(
おおさか
)
の夜を見上げて、
瑞季
(
みずき
)
は
難
(
むずか
)
しい顔をした。 行こう、と、俺はあいつの前に立ち、
促
(
うなが
)
したんやけど、
瑞季
(
みずき
)
はじっと俺をフードの
奥
(
おく
)
から見るだけで、その目も
爛々
(
らんらん
)
と暗く光る、
邪
(
よこしま
)
な者の目やった。 「
先輩
(
せんぱい
)
、やっぱ
止
(
や
)
めよ。俺とここで、ホテルいって
寝
(
ね
)
ませんか。ほんで帰ろ。また
京阪
(
けいはん
)
乗って、
出町柳
(
でまちやなぎ
)
まで
戻
(
もど
)
りましょう」 「何言うてんねんアホか」 俺はすっかり
動揺
(
どうよう
)
して、
瑞季
(
みずき
)
の
突然
(
とつぜん
)
の
誘
(
さそ
)
いに
内心
(
ないしん
)
ジタバタしていた。 そんなこと言うやつやったか、お前が。 俺の手を
握
(
にぎ
)
るのにもドキドキするような
奴
(
やつ
)
やったのに。 何がどうで、そうなるんや一体。 「俺いつも、ここで
適当
(
てきとう
)
な
相手
(
あいて
)
見つけて、どっか
誘
(
さそ
)
って
寝
(
ね
)
てました。帰りに
誘
(
さそ
)
うと、
結構
(
けっこう
)
簡単
(
かんたん
)
に引っかかるねん。おっさんでも、学生でも
誰
(
だれ
)
でも……。
皆
(
みな
)
、最初はびっくりするけど、そうそう
断
(
ことわ
)
ってきませんよ。俺、無料(ただ)やしな、それに、
可愛
(
かわい
)
いでしょ?」 自分でそう言うて、
瑞季
(
みずき
)
は俺に自分の顔を見ろというふうに、軽く
顎
(
あご
)
をあげてみせた。
確
(
たし
)
かに、
可愛
(
かわい
)
い。
愛玩
(
あいがん
)
動物みたいな
可愛
(
かわい
)
さが、お前の
容貌
(
ようぼう
)
にはみなぎっている。 それは元が
愛玩犬
(
あいがんけん
)
で、生まれつきそういう犬やからやろ。 「ほんで、ここから家に電話するんです。お母さん、友達に
誘
(
さそ
)
われたから、そいつん
家
(
ち
)
で勉強するわ。明日は
直接
(
ちょくせつ
)
、学校行くわ。ワガママ言うて、ごめんな、って」
乗
(
の
)
り
換
(
か
)
え駅の
雑踏
(
ざっとう
)
を
眺
(
なが
)
め、
瑞季
(
みずき
)
は遠い
視線
(
しせん
)
やった。
大阪
(
おおさか
)
の人らは、
皆
(
みな
)
すごく
急
(
いそ
)
いでる。ガツガツ歩いて行くあの顔や、この顔が、声をかけたら立ち止まるとは、
到底
(
とうてい
)
思えへんほどやった。 「そしたらな、
偉
(
えら
)
いわねえ
瑞季
(
みずき
)
ちゃん、言うて、それで
終
(
しま
)
いですよ。俺が
誰
(
だれ
)
と
寝
(
ね
)
ようが、どこで何食うてようが、テストの点数良くて、
偏差値
(
へんさち
)
高けりゃ、それでええんです。うちの親は」 そんな
訳
(
わけ
)
ない。お前のおかん、泣いてたで。ほんまやで
瑞季
(
みずき
)
。 アホ言うとかんで、歩いてくれ。パルテノン
神殿
(
しんでん
)
へ。 「正直、中一ぐらいからですよ。俺、そういう
奴
(
やつ
)
なんです、ずっと。それやからあかんのかな。
先輩
(
せんぱい
)
、そういうのは好きやないんですよね? もっと……なんて言うか、キラキラした、神様みたいなんがええんや」
半泣
(
はんなき
)
きの目で、
瑞季
(
みずき
)
は俺を見た。 お前も十分キラキラしてるで。今ものすご、目キラキラやで。 それは何や。まさか俺を
誘
(
さそ
)
ってんのか? ほんま
頼
(
たの
)
むしやめてくれ。俺の
理性
(
りせい
)
に
限界
(
げんかい
)
来たら、どうなるんや。 今夜ここでお前にキャッチされるんは俺なんか。
勘弁
(
かんべん
)
してください本当に! 俺にはもう
配偶者
(
はいぐうしゃ
)
がおるんや、
水地
(
みずち
)
亨
(
とおる
)
や。もう帰りたい。 「ここで人食うてる間ずっと、
誰
(
だれ
)
か助けてくれへんかなって、思ってたんやけど、結局
誰
(
だれ
)
も助けてはくれなかったですね」 俺も今そう思うてる。
瑞季
(
みずき
)
。助けて。 行くか、
戻
(
もど
)
るか、どっちかしよう。 この
人混
(
ひとご
)
みのど真ん中で
揉
(
も
)
まれて、
迷惑
(
めいわく
)
やでって、アホか兄ちゃんて、
大阪弁
(
おおさかべん
)
で
舌打
(
したう
)
ちされ続けているのはつらい。 俺、知らんかった。京都はソフトな
街
(
まち
)
や。
邪魔
(
じゃま
)
やなあってイケズ言われることはあっても、ここまでストレートに
怒
(
おこ
)
られたりはしいひん。その方が俺には
合
(
お
)
うてる。 「
先輩
(
せんぱい
)
、もう一回だけ言うけど、これから俺とラブホいって一発やりませんか?」 「
嫌
(
いや
)
や! アホ! 家帰れ言うてるやろ⁉︎ どういうつもりか知らんけど、そんな
安
(
やす
)
っぽいことすんな。お前はもっとマシな
奴
(
やつ
)
やろ。ちゃんと大学いって絵
描
(
か
)
いて卒業して働け!」 俺が
怒鳴
(
どな
)
ると、道行く
大阪人
(
おおさかじん
)
が何人か
振り向
(
ふりむ
)
いて、あいつ何言うとんのや、やかましいわという顔をした。
瑞季
(
みずき
)
がうふふと
含
(
ふく
)
み笑いして、俺を見つめた。 そうしてると、ほんまに
可愛
(
かわい
)
い。こいつはなんて
可愛
(
かわい
)
い犬なんや。ほんまに
困
(
こま
)
る。 「
先輩
(
せんぱい
)
って、そう言うてくれるし、ほんまにええ人ですね。好きやわ……。そういう人こそ
抱
(
だ
)
いて
欲
(
ほ
)
しいんやけど、俺と
寝
(
ね
)
る
奴
(
やつ
)
はクソばっかりやねん」 ポケットをゴソゴソして、
瑞季
(
みずき
)
は何かを取り出した。 チャラチャラ
鳴
(
な
)
る
金属音
(
きんぞくおん
)
とともに、
瑞季
(
みずき
)
は俺にクリスタル
製
(
せい
)
のキーホルダーのついた
鍵束
(
かぎたば
)
を見せた。 「まだ持ってるんです、家の
鍵
(
かぎ
)
」 さすがはパルテノン
神殿
(
しんでん
)
の
鍵
(
かぎ
)
や。キーホルダーが七色の光を
放
(
はな
)
ってる。 「行こか、ついに決心ついたんやったら」 「お待たせして悪かったですね。
一緒
(
いっしょ
)
に行ってもらってもええんですか?」 そのために来たんやないか。お前のご
両親
(
りょうしん
)
にも
挨拶
(
あいさつ
)
せなあかん。 どうも京都の
拝
(
おが
)
み
屋
(
や
)
の
坊々
(
ぼんぼん
)
です、息子さんをうちに下さい、
式神
(
しきがみ
)
契約
(
けいやく
)
させてもらいましたんで、って。
前へ
828 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧