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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-39 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-39 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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831 / 928
29-39 アキヒコ
蔦子
(
つたこ
)
さんが、自分とこの
式
(
しき
)
を使って調べさせたところでは、
瑞希
(
みずき
)
は
失踪者
(
しっそうしゃ
)
という
扱
(
あつか
)
いになっていた。 そやからまだ死んでない。
戸籍
(
こせき
)
もあれば、ひとりの人間としての
権利
(
けんり
)
も生きてた。 そやから、親を
訴
(
うった
)
えることもできたんや。 本人が知らんとこで、そんなこと
勝手
(
かって
)
にやって、ええもんなのか。 ええのや、と
水煙
(
すいえん
)
は
断言
(
だんげん
)
していた。 やられたら、やり返せ。やられっぱなしで
泣
(
な
)
き
寝入
(
ねい
)
り、そんな
弱腰
(
よわごし
)
の
奴
(
やつ
)
は
秋津
(
あきつ
)
にいらんのやって。 さすがは
武闘派
(
ぶとうは
)
や。 それで
勝呂
(
すぐろ
)
ゼウスは
訴
(
うった
)
えられ、
養子
(
ようし
)
に
暴力
(
ぼうりょく
)
と
性的虐待
(
せいてきぎゃくたい
)
を
働
(
はたら
)
いた
罪
(
つみ
)
で、
有罪
(
ゆうざい
)
となった。
性的虐待
(
せいてきぎゃくたい
)
か。うん、まあ、そうやろなあって空気はしてた。 俺には
追求
(
ついきゅう
)
する
勇気
(
ゆうき
)
はあらへんかったけど、
瑞希
(
みずき
)
が
家
(
うち
)
で
描
(
か
)
いてた絵で、これが
地獄
(
じごく
)
の
有様
(
ありさま
)
やって、
朝晩
(
あさばん
)
、
鬼
(
おに
)
がやってきて、犬を
犯
(
おか
)
す絵を
描
(
か
)
いてたんや。 こいつの絵は、いつもおどろおどろしい、
怖
(
こわ
)
い絵ばっかり
描
(
か
)
くわって思うてたけど、あれもあいつが見てる現実の世界やったんやろな。 それでゼウスの
罪
(
つみ
)
はさらに深まり、他にもあった動物
虐待
(
ぎゃくたい
)
やら、
労働基準法
(
ろうどうきじゅんほう
)
違反
(
いはん
)
やら、セクハラやらパワハラやら
粉飾
(
ふんしょく
)
決済
(
けっさい
)
やらの
罪状
(
ざいじょう
)
の数々が、
芋
(
いも
)
づる
式
(
しき
)
にあれよあれよと明らかになって、
羽振
(
はぶ
)
りの良かった事業は
傾
(
かたむ
)
き、何の
罰
(
ばち
)
が当たったんか、最後には
得体
(
えたい
)
の知れん
狂犬病
(
きょうけんびょう
)
のような
病
(
やまい
)
に取り
憑
(
つ
)
かれ、おっさんは死んだ。 飼い犬に
噛
(
か
)
まれた
傷
(
きず
)
から
感染
(
かんせん
)
したんではという話やったが、
定
(
さだ
)
かではない。 それからどうなったかは知らん。たぶん
地獄
(
じごく
)
に
堕
(
お
)
ちたんやないやろか。
鬼切
(
おにきり
)
の
太刀
(
たち
)
、
水煙
(
すいえん
)
様に、
突き落
(
つきお
)
とされたんや。
因果応報
(
いんがおうほう
)
やって、
水煙
(
すいえん
)
は言うてた。そうかもしれへんな。 それが
勝呂
(
すぐろ
)
瑞希
(
みずき
)
にまつわる、ことの
顛末
(
てんまつ
)
の全てで、
水煙
(
すいえん
)
はもう、犬をよそにやれという話を俺にしいひんようになった。
瑞季
(
みずき
)
は俺の
式
(
しき
)
、
秋津
(
あきつ
)
の
式
(
しき
)
やということで、
水煙
(
すいえん
)
も
納得
(
なっとく
)
したのやろう。
根
(
ね
)
は
優
(
やさ
)
しい
奴
(
やつ
)
やねん。……
優
(
やさ
)
しいやろ?
亨
(
とおる
)
は、
一連
(
いちれん
)
の
出来事
(
できごと
)
を
傍観
(
ぼうかん
)
して、
恐
(
おそ
)
ろしいわあという顔をしていた。 「
水煙
(
すいえん
)
、お前ってほんま
鬼
(
おに
)
ちゃう? もうちょっとソフトな
復讐
(
ふくしゅう
)
やとあかんもんなん?
完膚
(
かんぷ
)
なきまでに
叩
(
はた
)
きのめすんやな。
何倍返
(
なんばいがえ
)
しや?」 「
己
(
おのれ
)
の
罪
(
つみ
)
の
報
(
むく
)
いや。
天罰
(
てんばつ
)
は、天地(あめつち)がお決めになることや。俺がやったわけやない。手ぬるいんや、お前は」
水煙
(
すいえん
)
は
車椅子
(
くるまいす
)
に
座
(
すわ
)
り、しれっとしている。 「お前がやったとしか思えんわ、俺は」 そう言いながら、
亨
(
とおる
)
はその日、カレーを
煮
(
に
)
てて、キッチンからは
馴染
(
なじ
)
みのある、
美味
(
うま
)
そうな
匂
(
にお
)
いがしてた。
神戸
(
こうべ
)
から、その
一連
(
いちれん
)
の
法的
(
ほうてき
)
な
手続
(
てつづ
)
きの
報告
(
ほうこく
)
をするため、
蔦子
(
つたこ
)
さんの
名代
(
みょうだい
)
で、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が来るという事になっていた。 それで、
皆
(
みな
)
でカレーを食うんやって。なんでカレーなんや。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
とは
神戸
(
こうべ
)
以来やった。 あれから一月(ひとつき)が
刻々
(
こくこく
)
と過ぎ、俺らには
神戸
(
こうべ
)
のことは、少しずつ過去になろうとしていた。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
神戸
(
こうべ
)
から電車乗って来ると言い、夏には自分一人で
水族館
(
すいぞくかん
)
行くのも
嫌
(
いや
)
やと言うてた
奴
(
やつ
)
が、大した進歩やなと、俺は
親戚
(
しんせき
)
の
兄
(
にい
)
ちゃんとして、
嬉
(
うれ
)
しく思った。 が、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
を
京阪
(
けいはん
)
の
出町柳
(
でまちやなぎ
)
駅まで
迎
(
むか
)
えに行くと、一人やなかった。 ずんぐりした
体型
(
たいけい
)
の、
背
(
せ
)
こそ
竜太郎
(
りゅうたろう
)
より高いものの、
分厚
(
ぶあつ
)
い
眼鏡
(
めがね
)
かけててニコリともしいひん、中学生くらいに見える何かを
連
(
つ
)
れていた。 なんや、
結局
(
けっきょく
)
、
式
(
しき
)
に
付
(
つ
)
き
添
(
そ
)
いさせたんか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。 見たことない
奴
(
やつ
)
や。
蔦子
(
つたこ
)
さんとこの
新入
(
しんい
)
りやろか。 一体、
何者
(
なにもん
)
なんやろうって、俺はじいっと新しいのを見た。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
嬉
(
うれ
)
しげにもじもじして立っていた。 ちょこっとだけ、男っぽくなった気もするが、まだまだ
声変
(
こえが
)
わりもしてへん。 「アキ
兄
(
にい
)
、会えて
嬉
(
うれ
)
しいわ。ちょっと
痩
(
や
)
せた?」 心配げに言うて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は俺を見上げた。 まあな、俺にも何かと
心労
(
しんろう
)
があんのや。 考えても見ろ、
亨
(
とおる
)
と、
水煙
(
すいえん
)
と
瑞季
(
みずき
)
と
同居
(
どうきょ
)
してんのやで。三日に一度は
腹蔵虫
(
ふくぞうむし
)
をゲロる日々や。 でも元気やで。アキ兄、
丈夫
(
じょうぶ
)
やからな。 「これ……」 自分の
隣
(
となり
)
にいる、
若干
(
じゃっかん
)
トロールっぽい
冴
(
さ
)
えへんやつを、俺に
示
(
しめ
)
して、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はもじもじした。 「学校の友達の、
安西
(
あんざい
)
くん」 えっ、人間か⁉︎︎ お前、友達おったんか。 やるやないか
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。
秋津
(
あきつ
)
の子としては
奇跡
(
きせき
)
や。よかったなあ! 「どうも初めてお目にかかります。
安西
(
あんざい
)
武雄
(
たけお
)
と
申
(
もう
)
す者です。今日は
竜太郎
(
りゅうたろう
)
くんが大好きな
従兄
(
いとこ
)
のアキ
兄
(
にい
)
さんに会いに行くというんで、ボディーガードとして来ました」
妖怪
(
ようかい
)
やろ、この中学生。絶対、
普通
(
ふつう
)
やない。
眼鏡
(
めがね
)
の
奥
(
おく
)
から俺を見る
視線
(
しせん
)
がものすご
鋭
(
するど
)
い。静かやけど、俺に
殺意
(
さつい
)
を持ってる目や。
水煙
(
すいえん
)
おったらモヤモヤ出てる。そのレベルの
剣呑
(
けんのん
)
さや。 しかも
喋
(
しゃべ
)
り方が
独特
(
どくとく
)
すぎる。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
と同じ学校ってことは、
灘中
(
なだちゅう
)
の子か。 日本
有数
(
ゆうすう
)
の
秀才
(
しゅうさい
)
ぞろいの
名門
(
めいもん
)
やから、頭良すぎてちょっと変わってんのやろか。 「初めましてやな。
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
です」
本間
(
ほんま
)
暁彦
(
あきひこ
)
やろ、って?
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椎堂かおる
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