832 / 928
29-40 アキヒコ
そうやねん。改名 してん。
アキちゃん、家継 いだしな、それが本間 の暁彦 ではあかんやろて、おとんが言うもんやから、改姓 したんや。
代理父 の本間 さんに感謝 して籍 を抜 き、おかんの戸籍 に入って、秋津 暁彦 に。
それで、おとんと同じ名前になってもうて、ものすごややこしい。
「お兄さん」
トロール君が言うた。
お前のお兄さんやない。俺は笑顔のまま、出町柳 駅で内心 ぴくっと来た。
「竜太郎 くんを僕 にください!」
それなんで今言う⁉︎︎
もうちょっと当たり障 りのない会話してからにしてくれ中学生!
「なっ、何言うとうのや、武雄 くん。まだ初対面 やで。アキ兄 困 っとうわ」
色白の顔を真っ赤っかにして、竜太郎 はジタバタした。
この慌 て方 に自分との血の繋 がりを感じずにはおれん。
「家行こか」
「お返事をいただきたいんです!」
「家、行こか……」
行くで、トロール君。付いてきて、話聞かせてもらおうやないか。
帰ってきた俺は、負のオーラ出てたと亨 が言うた。
竜太郎 ? 従弟 やで、ただの。
そうやけど、なんで神戸のトロールが来て、僕 にくださいとか言うんや。
お前、どう見ても男やろ。同級生 なんやろ?
どういうつもりや。場合によっては刃物 持ってくるで、アキ兄 は。
しかし、あいにく俺の御神刀 はお出かけ中や。朝から嵐山 の家へ行ってもうた。
運がええなトロール君。
ついでに言えば瑞季 も留守 や。家には俺と亨 と中学生が二人だけや。
そんな青筋 立ってる俺と、竜太郎 と、トロール君にカレーを出して、亨 は機嫌 ようにこにこしていた。
なんや妙 に竜太郎 に優 しかった。
お前、竜太郎 がトロール君を連れてきたんが、そんなに嬉 しいんやな?
それやない? それ以外の何が嬉 しいっていうんや。
「いやー、お前の予知 のお陰 で、めっちゃ助かったで竜太郎 。その節 はありがとうやで。この記念 すべきカレーをお前のために早朝 から煮込 んでおいた。存分 に食うてってくれ」
竜太郎 に水を注 いでやって、亨 は愛想 よく言うた。
竜太郎 は、僕 、甘口 がええなあと亨 に言うて、アホ抜 かせ、うちは辛口 一択 や、と凄 まれたが、その後すぐに二人は、これやな、これや、とか言うて、笑い合 うていた。
なんなんや、こいつら。気持ち悪い……。
安西 トロール君は亨 を見て、びっくりしたようやった。
めちゃくちゃ美しいからやろうな。
亨 はやらへんで。そっちをください言うたら、アキ兄 ほんまに刃物 出してくるからな。
冗談 で済 まんで。冗談 やけどな……。
「辛 いわ、これ。思ったとおりや。ほんまに良かった」
こそばゆそうに言うて、竜太郎 もにこにこしてた。
こいつ、こんな機嫌 のいい子やったやろか。
もっとヒネくれてて、可愛 げのないチビやったけどなあ。
中一にとっての一夏は、長い時間やということやろか。いろんな事があったよな。
「あんな、アキ兄 、僕 、予知 はやめてん。封印 した。よっぽどのことがあって、必要な時にしか使わんことにした」
カレー食いつつ、竜太郎 は言うた。
カレーを一ミリずつ食うてる。辛 いんか。竜太郎 。まだまだ子供 やな。
水なくなってもうてて、可哀想 やし、水飲むかって俺が注いでやると、竜太郎 はそれを、しみじみ感慨深 そうに見た。
なんなんや、その目。亨 までがウルウル来てる。
なんなんやってお前ら。俺に何を隠 してるんや。
「武雄 くんがな、僕 がいつもテストで首位 なん、どうしてなんですかって聞いてきたからな、ヤマが当たるねんて教えたってん。予知 でな、分かるんやって」
話に出てるトロール君は、全く聞いてもいないふうに、黙々 とカレー食うてた。ええ食いっぷりやった。
「どうせ信じへんわって思うてたら、信じてくれてん。それで、そんなズルして面白 いですかって」
うん、まあ、ズルかなあ。そうやなあ。テスト受ける前から、出題 分かってたら、そら、百点とれてまうよな。
それでも、その問題自体が理解はできてんのやから、竜太郎 は何も、未来が見えるだけのアホではないんや。秀才 やで。
「ズルて言われたら腹 たつし、いっぺん予知 なしでテスト受けてみよて思うてな。そしたら、バリ順位 下がってもうて、焦 ったわ。武雄 くんが首位 やってんな」
それ、かっこええな、みたいな目で、竜太郎 は隣 でカレー食うてるトロールを見た。
若干 、とろんとした目やった。
「ほんで好きになってもうてん」
「僕 も好きです」
聞いとったんかトロール君。ものすご即答 やないか。
デキてんのかお前ら⁉︎︎ 中学生やろ⁉︎︎
しかもお前……竜太郎 ……言うたら何やけど…………面食 いちゃうんや。秋津 家の呪 いから解放されてんのや。
トロール君、メガネとったら美形 なんか? 変転 すんのか?
違 うよな。そういう風 には見えへん。
「武雄 くんバリ頭ええんや」
「将来 は官僚 になろうと思っていましたが、議員 になって法改正 して、竜太郎 くんと結婚 したいと思います」
ともだちにシェアしよう!