fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 29-41 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-41 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
833 / 928
29-41 アキヒコ
頑張
(
がんば
)
ってくれトロール君。 俺は
微
(
かす
)
かに
頭痛
(
ずつう
)
しながら笑い、
若
(
わか
)
い二人を
応援
(
おうえん
)
していた。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。俺への
熱病
(
ねつびょう
)
が冷めたんやな。良かったな……。 「
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
かアキちゃん。
背中
(
せなか
)
が
煤
(
すす
)
けてんで」
亨
(
とおる
)
が
気味
(
きみ
)
良
(
よ
)
さそうに笑いながらカレー食うてた。
煤
(
すす
)
けてへん。喜んでる。喜んでる。 まあ、中学生の
恋愛
(
れんあい
)
なんて、どないなるか分からへんしな。 どないなるか分からへん。
一寸
(
いっすん
)
先は
闇
(
やみ
)
や。 「アキ
兄
(
にい
)
に良かったなて言うてほしいし、
連
(
つ
)
れてきてん」
恥
(
は
)
ずかしそうに言う
竜太郎
(
りゅうたろう
)
を見て、俺も
笑
(
わろ
)
うてた。 「良かったな、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
」 「うん……ありがとう……」 めっちゃ
照
(
て
)
れてる
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の横で、
一切
(
いっさい
)
照
(
て
)
れてへんトロール君が
異様
(
いよう
)
やった。 でもまあ、それでええか。その方がええかな。そうやなあ。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。 俺のために死ねたお前が、まさか
心変
(
こころが
)
わりできるとは、中学生の可能性はすごいわ。
無限大
(
むげんだい
)
やな。すごいわ……。 「もう一個、大きなお知らせがあるねん」 ごそごそとポケットから電話を出して、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は写真を見せた。 「じゃーん! 見て!!」 なんや? トロール君とのラブラブの写真でも入ってんのか? 目をしょぼしょぼさせつつ見た俺と、
亨
(
とおる
)
は、ほぼ同時に
驚
(
おどろ
)
いて、
椅子
(
いす
)
から
腰
(
こし
)
浮
(
う
)
かせてた。 「か、
寛太
(
かんた
)
⁉︎︎」 「
虎
(
とら
)
やないか⁉︎︎」 同時に
叫
(
さけ
)
んだ俺と
亨
(
とおる
)
に、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
嬉
(
うれ
)
しそうに
頷
(
うなず
)
いた。 「
一昨日
(
おとつい
)
、帰ってきたんや」
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の見せた写真には、
満面
(
まんめん
)
の
笑
(
え
)
みの
寛太
(
かんた
)
が写ってて、
虎
(
とら
)
を
抱
(
だ
)
いてた。 ほんまもんの
虎
(
とら
)
や。動物のほう。しかも、
仔虎
(
ことら
)
や。小さいねん。
猫
(
ねこ
)
の子ぐらいや。 でも、
紛
(
まぎ
)
れもなく
虎
(
とら
)
や。こんな
猫
(
ねこ
)
いてへん。 「ちょ、小さないか? これ
信太
(
しんた
)
なん?」
亨
(
とおる
)
はびっくりした顔で、写真を
二度見
(
にどみ
)
してる。 「
多分
(
たぶん
)
やで。まだ
変転
(
へんてん
)
せえへんし、なんとも分からへんけど、
寛太
(
かんた
)
はそうやって言うとうし、お母ちゃんも喜んどうから、
信太
(
しんた
)
なんやと思う」 「えらいチビなってもうて……」
亨
(
とおる
)
はそれを
嘆
(
なげ
)
いたけども、よくぞ見つけたと思う。
寛太
(
かんた
)
はカメラに向かってピースしてて、
晴
(
は
)
れやかな
笑
(
え
)
みやった。 その顔が、俺らが知ってる最後の顔より、大人びていて、
寛太
(
かんた
)
が成長したのを感じた。 もう、あんまり
朧
(
おぼろ
)
に
似
(
に
)
てへん。
寛太
(
かんた
)
って、どんな顔やったかな。これがあいつの、ほんまの顔やったんやろうなあ。 もはや、
寛太
(
かんた
)
の顔には、
何時
(
いつ
)
ぞやあったような
憂
(
うれ
)
いや、
迷
(
まよ
)
いの
気配
(
けはい
)
はなく、ぼうっとして見えていた表情の代わりに、
突
(
つ
)
き
抜
(
ぬ
)
けたような笑顔があった。 自信に満ち
溢
(
あふ
)
れた
確
(
たし
)
かな
笑
(
え
)
みやった。 目にも強い
輝
(
かがや
)
きがある。 そこには、こっちを
真
(
ま
)
っ
直
(
す
)
ぐに見つめて来る
知性
(
ちせい
)
の光があって、深い悲しみを
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えた
後
(
あと
)
の、
揺
(
ゆ
)
るぎない何かがあった。
不死鳥
(
ふしちょう
)
の目なんやろうな、これが。
画像
(
がぞう
)
の目と見つめ合い、俺にはそう思えた。
寛太
(
かんた
)
はもう、
誰
(
だれ
)
でも
気楽
(
きらく
)
に手を
触
(
ふ
)
れられるような相手には見えへんかった。 強くて、
迂闊
(
うかつ
)
に
触
(
さわ
)
ると
火傷
(
やけど
)
しそうで。それでも
優
(
やさ
)
しそうやった。 そうやなあ、変な
例
(
たと
)
えやけど、俺のおかんみたいや。 「もうちょっと大きいなって、
信太
(
しんた
)
がまた
式
(
しき
)
として
働
(
はたら
)
けるようになったら、アキ
兄
(
にい
)
のとこ返すし、待ってやっておくれやすって、お母ちゃんから
伝言
(
でんごん
)
や。よろしゅうお
頼
(
たの
)
み
申
(
もう
)
します」 おかんの
声真似
(
こえまね
)
をして、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
蔦子
(
つたこ
)
さんの
遣
(
つか
)
いをした。 「返ってくんのか⁉︎︎」 「そらそうやん、アキ
兄
(
にい
)
の
式
(
しき
)
やもん。でもな……」 持て
余
(
あま
)
したカレーをスプーンで
突
(
つ
)
っつきながら、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
口籠
(
くちごも
)
った。 「
寛太
(
かんた
)
がな、
信太
(
しんた
)
はなんも
憶
(
おぼ
)
えてへんやろうって。
記憶
(
きおく
)
がないねんて。大きいなったら思い出すかもしれへんのやけど、分からへんて」 そうなんや。でも、
黄泉
(
よみ
)
がえれただけマシやで。良かったなあ! 俺はものすごホッとして、
肩
(
かた
)
の荷が
降
(
お
)
りた。
降
(
お
)
ろしてみて初めて気付く、ものすごい
重荷
(
おもに
)
やった。 ホッとしすぎて、俺はぐったり来た。ちょっと気ぃ遠くさえなってた。 なんやちょっと最近フラフラなってもうててな。ぶっちゃけキツいんや、新しい四人
暮
(
ぐ
)
らしが。 そやけど良かったな、
信太
(
しんた
)
。ほんまに良かった。良かったわ……。 「
寛太
(
かんた
)
が自分で
届
(
とど
)
けに来るて言うてた。それまで待っといてやって。今は
寛太
(
かんた
)
が
餌
(
えさ
)
やらな、死んでまうんや。自分で食われへんしな」
赤ん坊
(
あかんぼう
)
かいな。想像つかんで、俺は
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の話にびっくりしていた。 ちょっと前まで、
立場
(
たちば
)
、
逆
(
ぎゃく
)
やったのにな。
信太
(
しんた
)
が
寛太
(
かんた
)
に
餌
(
えさ
)
やってたのに。 あの鳥さん、今は
誰
(
だれ
)
かに
餌
(
えさ
)
やれるような立場なんか? ていうか、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
なんか、そんなことして。 あいつかて、
誰
(
だれ
)
かに
霊力
(
れいりょく
)
を分け
与
(
あた
)
えてもらわへんかったら消えてまうような、
儚
(
はかな
)
い鳥さんやったやんか。
前へ
833 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧