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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-43 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-43 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
835 / 928
29-43 アキヒコ
神楽
(
かぐら
)
さんはその
製剤
(
せいざい
)
の
特許
(
とっきょ
)
を神戸の
製薬
(
せいやく
)
会社に
与
(
あた
)
えるつもりで、それによって
将来
(
しょうらい
)
、
莫大
(
ばくだい
)
な
利益
(
りえき
)
が神戸の
経済
(
けいざい
)
に
流れ込
(
ながれこ
)
むことになるやろうと思われた。 熱い
龍脈
(
りゅうみゃく
)
に乗って、大きな
運気
(
うんき
)
が流れて来ようとしているわけや。
万事順調
(
ばんじじゅんちょう
)
や。
寛太
(
かんた
)
はもう心配いらへん。 さすがと言うか、それは
蔦子
(
つたこ
)
さんの
手腕
(
しゅわん
)
やったんかな。
蔦子
(
つたこ
)
おばちゃま、神戸のスポーツバーで、俺らもうあかんていう空気で必死の相談をしてた時も、
不死鳥
(
ふしちょう
)
が泣きながら飛んでる
柄
(
がら
)
の
帯
(
おび
)
を
締
(
し
)
めてた。 変な
柄
(
がら
)
やって、スポーツバー行く前に
会
(
お
)
うた時に、チラッと思うて、気になってたんや。
予知
(
よち
)
してたんやったら言うてくれよ。それが何を意味するか、分からんかったんかもしれへんけども、
蔦子
(
つたこ
)
さんには、泣きながら
舞
(
ま
)
う
寛太
(
かんた
)
の
姿
(
すがた
)
が
視
(
み
)
えてたんやなあ。 「
信太
(
しんた
)
はきっと
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
やと
僕
(
ぼく
)
は思うよ。だってタイガースも日本シリーズ
優勝
(
ゆうしょう
)
したしな。これはうちにとっては大きな
吉兆
(
きっちょう
)
や。もう少しの
辛抱
(
しんぼう
)
やわ。うん、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
。そういうことで、今回の
報告
(
ほうこく
)
は以上やで」 にっこりとして、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は話を終えた。 お
疲
(
つか
)
れさんやったな、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。 お前も分家の
坊
(
ぼん
)
として、
働
(
はたら
)
いてくれてんのやな。 そんなん電話でも良かったし、
式
(
しき
)
を
遣
(
つか
)
わしてくれたかてええし、わざわざお前が京都まで来ることなかったやろうに。ご
足労
(
そくろう
)
さんどした。 自分で来たかってん、アキ
兄
(
にい
)
に会いたかったし、アキ
兄
(
にい
)
のマンションにも来てみたかった。
亨
(
とおる
)
ちゃんのカレーも食いたかったしな、と、半分残してるくせに、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の顔は
嬉
(
うれ
)
しそうやった。 「これ無理なんやけど、まだお腹すいとうわ。
亨
(
とおる
)
ちゃん、他に何か
美味
(
おい
)
しいもんない?」 にこにこ親しげに
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
亨
(
とおる
)
に
尋
(
たず
)
ね、チッと
舌打
(
したう
)
ちされていた。 「あるわけあるかい。カレーライス
一択
(
いったく
)
や!
足
(
た
)
りんのやったら
卵
(
たまご
)
かけごはんでもモソモソ食うとけ中一」
亨
(
とおる
)
は以前にも言うたような
悪態
(
あくたい
)
をつき、ほんまに
卵
(
たまご
)
かけごはんを
竜
(
りゅう
)
太郎
(
たろう
)
に食わせてやっていた。 残ったカレーは
勿体無
(
もったいな
)
いので、
彼氏
(
かれし
)
の
安西
(
あんざい
)
トロール君が
美味
(
おい
)
しくいただきました。 どんだけでも
遠慮
(
えんりょ
)
のう食うな、中一は。 「それよかアキ
兄
(
にい
)
、
僕
(
ぼく
)
ら写真
撮
(
と
)
られたで、さっき。あれ、ほっといてええの?」
卵
(
たまご
)
かけごはん食いながら、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は聞いた。ここへ来る
道々
(
みちみち
)
出会った、パパラッチさんの事を言うてんのやった。
近頃
(
ちかごろ
)
ではプロのパパラッチさん以外に、通りすがりのおばちゃんとかも
警戒
(
けいかい
)
せなあかん。もはや
誰
(
だれ
)
が敵かも分からん
状況
(
じょうきょう
)
や。 「お前らの写真は消してある」 アキ
兄
(
にい
)
、
従弟
(
いとこ
)
のプライバシーは
術法
(
じゅつほう
)
で守っといた。 未来ある中一カップルの写真まで
撮
(
と
)
るとは、どういうつもりや。トロール君、赤の他人やで。申し訳ないわ。 あんまりやると
怪
(
あや
)
しまれて
藪蛇
(
やぶへび
)
やったらあかんし、
難
(
むずか
)
しいんやけど、
撮
(
と
)
ったはずやのに
撮
(
と
)
れてないとか、
撮
(
と
)
った後にカメラにコーヒーこぼしてまうような
不運
(
ふうん
)
は、パパラッチさんを
度々
(
たびたび
)
襲
(
おそ
)
うているはずや。 アキ
兄
(
にい
)
の
呪
(
のろ
)
いや。 「
怜司
(
れいじ
)
に
頼
(
たの
)
んで、何かしてもらったら? あいつマスコミも少々動かす力あんのやで」 心配げに、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は俺にアドバイスした。 そうやなあ、そうや。でも俺、電話すんな言われてるしな。気が重いんや。 だって、俺のおとんに
惚
(
ほ
)
れてる
奴
(
やつ
)
やしな。気まずいやん。 正直そこまで手が出えへんのや。またもや自分のことで
精一杯
(
せいいっぱい
)
になってもうててな、
朧
(
おぼろ
)
に会うのがしんどいねん。 あいつのこと、
宙
(
ちゅう
)
ぶらりんやな。 この時まだ、
蜜柑
(
みかん
)
太郎
(
たろう
)
の前やから。俺がまだ、おとんの
背中
(
せなか
)
を
押
(
お
)
す決心する前やもんな。 「帰り、
気悪
(
きぃわる
)
いし、別の
位相
(
いそう
)
から行こか。あんまりやるとようないんやけど、駅までの通路はさすがに
要
(
い
)
るなて思うてたとこやし」 通学用ワームホール作っとこか。もう
遅
(
おそ
)
すぎるくらいやな。 そやけど京都は古い
街
(
まち
)
でな、
迂闊
(
うかつ
)
に
掘
(
ほ
)
ると、地面もやけど、
位相空間
(
いそうくうかん
)
も、なんかとんでもないモン
掘
(
ほ
)
り当ててもうたりするから、
危
(
あぶ
)
ないんや。
細心
(
さいしん
)
の注意でいくか。 「そんなことできるんやなあ、アキ
兄
(
にい
)
、すげえすげえ。
怜司
(
れいじ
)
みたいや」 そうやろう。あいつに
習
(
なろ
)
うたんや。 神戸のホテルであいつと
寝
(
ね
)
てもうた時にな、
位相
(
いそう
)
を
越
(
こ
)
えて連れまわされたせいで、アキ
兄
(
にい
)
コツを
掴
(
つか
)
んだんやで。お前にはまだ言われへんけどな。 「帰る前に一個、聞いてもいいかな」 もう帰るんか、ゆっくりしていってええんやけど、と思うけど、京都デートやなお前ら。 見たら分かるわ、さすがの俺も。 トロール君は何考えてんのやら分からんけど、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、はよ行こうみたいな、そわそわした顔やった。 「あんな、アキ
兄
(
にい
)
…………」 ヒソヒソヒソ、と
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
蚊
(
か
)
の鳴くような声で聞いた。 え? なになに? なんて言うてんのやお前は。声小さいわ。
普通
(
ふつう
)
の人間の耳には聞こえへんで。お前も
普通
(
ふつう
)
でない中一やねんな。
秋津
(
あきつ
)
の
分家
(
ぶんけ
)
の
坊
(
ぼん
)
やもんなあ。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はこう聞いてたわ。俺には聞こえた。
秋津
(
あきつ
)
の
本家
(
ほんけ
)
の
坊
(
ぼん
)
やしな。
坊
(
ぼん
)
ちゃうかった、もう
当主
(
とうしゅ
)
やった、俺は。
自覚
(
じかく
)
が足りてへんな。
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椎堂かおる
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