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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-50 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-50 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
843 / 928
29-50 アキヒコ
誰
(
だれ
)
が大学の
校舎
(
こうしゃ
)
で
瑞希
(
みずき
)
とやってんのや。やってへんわ。 それを
我慢
(
がまん
)
するのに死んだり生き返ったり、血
吸
(
す
)
うたり
吸
(
す
)
われたり、
七転八倒
(
しちてんばっとう
)
してんのやないか。 俺は一人しかおらへんのに、
亨
(
とおる
)
とな、
水煙
(
すいえん
)
と、
瑞希
(
みずき
)
まで
居
(
お
)
るんや。 選べるか? オッサン。選んでみろ、どれにするか。 一人しか選べへんのやで。選んだらあとの二人は泣くのやで。 見てみろ
瑞希
(
みずき
)
を、めちゃめちゃ泣いてるやないか。 これ俺のせいなんやで。
胸
(
むね
)
潰
(
つぶ
)
れそう!! ああ! 俺があと二人
居
(
お
)
ったらなあ! そしたら
水煙
(
すいえん
)
と
瑞希
(
みずき
)
に一人ずつやって、
瑞希
(
みずき
)
なら
瑞希
(
みずき
)
だけを、ずっと愛していかせるのに。 俺は一人しかおらへんさかいな。一人しかいない。 一人しか。 ああ。そやそや。 三人おればええんやんか!!! それはも
超自然
(
ちょうしぜん
)
的、
鬼道
(
きどう
)
的な
閃
(
ひらめ
)
きやった。 アキちゃん、三人おったらええんや。
万事解決
(
ばんじかいけつ
)
や。 オリジナルのこの俺は、どうしても
亨
(
とおる
)
が好き。あいつが
居
(
お
)
らな生きていかれへん。
息
(
いき
)
もできひん。絵すら
描
(
か
)
けへん。あいつ無しではゴミみたいな男や。 そうやけど、俺の中には
水煙
(
すいえん
)
なしには生きていけへん男もいてる。
瑞希
(
みずき
)
を
可愛
(
かわい
)
いなあって、幸せにしてやりたい、泣かせたりせず、ずっと
抱
(
だ
)
きしめて、
可愛
(
かわい
)
がってやりたい男もいるんや。 俺はその、別の二人を
封印
(
ふういん
)
してきた。苦しい
我慢
(
がまん
)
やった。 身も心も
張
(
は
)
り
裂
(
さ
)
けて、バラバラになってまいそうやった。 ほんならバラバラになればええんやない? なんで
無理
(
むり
)
やと思うてたんやろ。まあ、
普通
(
ふつう
)
は
無理
(
むり
)
なんやけど。
無理
(
むり
)
を通せば
道理
(
どうり
)
が
引っ込
(
ひっこ
)
む。それが
鬼道
(
きどう
)
の世界やで。
霊力
(
れいりょく
)
しだいや。
誰
(
だれ
)
もそんなん、やれたことない? ほんなら俺が最初の一人になったろうやんか! 「パパラッチさん……おおきに」 俺は
瑞希
(
みずき
)
を
抱
(
だ
)
いたまま、お
礼
(
れい
)
を言うた。 おっさん、へ? 言うてた。 でもカメラ
壊
(
こわ
)
しといた。俺が長い人生で
壊
(
こわ
)
す何個目の
一眼
(
いちがん
)
レフやったやろう。もう
慣
(
な
)
れてきて
一瞬
(
いっしゅん
)
でバラバラってできる。 次は俺をバラバラにする方法を考えなあかん。 死んだらまずいし、できるだけ
穏便
(
おんびん
)
にバラバラにするんや。 「
瑞希
(
みずき
)
、お前さっき、俺の全部やのうていいって言うたよな」 「言いました」 「何パーセントやったらええんや」 「え? パーセントで言うんですか」 目が点なってる顔で、
瑞希
(
みずき
)
は俺に聞いた。首も
傾
(
かたむ
)
いてる。 「えっと……わからへんけど……二十……五、くらい? 多すぎですか?」 お前って
謙虚
(
けんきょ
)
やな。 わかった。ほんなら
亨
(
とおる
)
に五十、
水煙
(
すいえん
)
に二十五、お前に残りの二十五パーセントやるわ。 少ない?
文句
(
もんく
)
言わんといてくれ。三人に分けるんや、
各々
(
おのおの
)
我慢
(
がまん
)
してくれ。 でもたぶん、そんなに
減
(
へ
)
らへん。俺の
煩悩
(
ぼんのう
)
、
莫大
(
ばくだい
)
にあるから。 今、使ってる
亨
(
とおる
)
の分だけで百パーセントやねんから。 それ以外の
押
(
お
)
し
隠
(
かく
)
してる分が、別の
位相
(
いそう
)
にてんこもりある。多分ある。あるのを感じる。 だって俺の中にあるものなんやもん、自分でわかるわ。 「大学に
絵描
(
えか
)
きにいく」 「えっ……夜ですよ? 門、
閉
(
し
)
まってます」 「
閉
(
し
)
まってたら、開ければええんや!」 そうや、行き
詰
(
づ
)
まってもうて道がなければ、作ればええんや。新しい道を。 俺はもうヤケクソなってた。
火事場
(
かじば
)
の
馬鹿力
(
ばかぢから
)
やろうか。俺そういうのばっかりやねん。 あいつのノープラン
作戦
(
さくせん
)
と
一緒
(
いっしょ
)
やな。
似
(
に
)
たもの
夫婦
(
ふうふ
)
や。 結果オーライ。泣いて生きるのは、もう
御免
(
ごめん
)
やねん。 俺は
叡電
(
えいでん
)
の
終電
(
しゅうでん
)
に飛び乗った。 なんでか
瑞希
(
みずき
)
も飛び乗った。 ほんで大学に行き、真っ暗で
誰
(
だれ
)
もいない校門の
守衛室
(
しゅえいしつ
)
から、フォースを使って
校門
(
こうもん
)
の
鍵
(
かぎ
)
をとり、バーンて開けた。 そして
閉
(
し
)
めといた。
泥棒
(
どろぼう
)
とかパパラッチさん入ったら
困
(
こま
)
るしな。
絵画室
(
かいがしつ
)
の
鍵
(
かぎ
)
は
苑
(
その
)
先生の部屋や。
鍵
(
かぎ
)
借
(
か
)
りるで先生。 俺はその部屋のドアも
術法
(
じゅつほう
)
でバーンて
破
(
やぶ
)
ったんやけど、
苑
(
その
)
先生、うわああ、言うてはった。
居
(
い
)
てたんや先生。何してはるんですか。 絵
描
(
か
)
いとって、帰るの
面倒
(
めんどう
)
くそうなって、学校に
泊
(
と
)
まったんやって。
教授室
(
きゅじゅしつ
)
の
床
(
ゆか
)
に
寝袋
(
ねぶくろ
)
敷
(
し
)
いて
寝
(
ね
)
てはったわ。 先生、もっと人間らしい生活せなあかんで。 さっき
瑞希
(
みずき
)
にそう
説教
(
せっきょう
)
したばっかやのに、
教授
(
きょうじゅ
)
のあんたが
床
(
ゆか
)
で
寝
(
ね
)
とったら、
全然
(
ぜんぜん
)
説得力
(
せっとくりょく
)
ないやないですか。 とにかく
鍵
(
かぎ
)
借
(
か
)
りるわ。急いでんねん俺は。 「どっどっどないしたんや
本間
(
ほんま
)
君! あっ、ちゃうかった、
秋津
(
あきつ
)
君⁉︎」 あっ、そうやった、
秋津
(
あきつ
)
君やった。
絵画室
(
かいがいしつ
)
借
(
か
)
ります。 そうやって、二度目の
別棟
(
べっとう
)
までの全力
疾走
(
しっそう
)
や。 もちろん
苑
(
その
)
先生もついてきて、全くついてこられへんかった。 真っ暗な
別棟
(
べっとう
)
の部屋のドアをあけると、そこには白い
神々
(
こうごう
)
しい光が満ちていて、
聖
(
せい
)
トミ子が俺を待ってた。 「来ると思てたよ……
暁彦
(
あきひこ
)
くん」 そこにはもう絵を
描
(
か
)
く
支度
(
したく
)
が
整
(
ととの
)
えられてた。
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