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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-54 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-54 アキヒコ
しおり
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
846 / 928
29-54 アキヒコ
切
(
せつ
)
なそうな
伏し目
(
ふしめ
)
で言うて、愛の言葉をねだる
亨
(
とおる
)
を、俺は
焦
(
あせ
)
って
眺
(
なが
)
めた。 それ、言うの? 言えいう話か? どこで聞いたんや、それ。 お前まさか
瑞希
(
みずき
)
の部屋を
覗
(
のぞ
)
いてへんよな。 それはあかんで、ルール
違反
(
いはん
)
やで。 この
微妙
(
びみょう
)
で
絶妙
(
ぜつみょう
)
なバランスを
崩
(
くず
)
さずやっていくには、ルールが絶対
不可欠
(
ふかけつ
)
や。 あれは俺らとは別の
時空
(
じくう
)
。お
互
(
たが
)
い、
触
(
ふ
)
れたらあかんねん。 「アキちゃん……」 俺は
亨
(
とおる
)
の白い手をとって、その手のひらにキスをした。 そこが
亨
(
とおる
)
の気持ちいいところ。そういう場所の一つやって、もう知ってる。 そこに長いキスをして、小さく
喘
(
あえ
)
ぐ
亨
(
とおる
)
を
抱
(
だ
)
き寄せた。 「帰ったら、しよな」 耳に
直接
(
ちょくせつ
)
約束
(
やくそく
)
すると、
亨
(
とおる
)
が
呻
(
うめ
)
いて身をよじる。 アキちゃんいろいろ
研究
(
けんきゅう
)
してな、
亨
(
とおる
)
の
悦
(
よろこ
)
ぶこと、いろいろ
憶
(
おぼ
)
えてん。
恥
(
は
)
ずかしささえ
克服
(
こくふく
)
すれば、俺は
研究
(
けんきゅう
)
熱心な男やで。 「
嘘
(
うそ
)
やろ今やろ……」 ぼやく
亨
(
とおる
)
の
腕
(
うで
)
をたどって、服の上から
口付
(
くちづ
)
けて、最後のキスを
唇
(
くちびる
)
に落とすと、
亨
(
とおる
)
はふにゃあっとなった。 「
嵐山
(
あらしやま
)
行くで。車乗ってくれ」 「
寸止
(
すんど
)
めの
鬼
(
おに
)
!」 ぐでんぐでんなってる
亨
(
とおる
)
の手を引いて連れていき、俺はマンションの地下
駐車場
(
ちゅうしゃじょう
)
から車を出した。 新しい車やで。 前に乗ってた車は、おかんが
買
(
こ
)
うてくれたんやけど、新しいのは自分で
買
(
こ
)
うた。 前に
大崎
(
おおさき
)
先生の
依頼
(
いらい
)
で
描
(
か
)
いた
舞妓
(
まいこ
)
さんの絵やら、
蛇神
(
へびがみ
)
が
暁月
(
ぎょうげつ
)
を
愛
(
め
)
でてる絵やらが売れてたし、俺には車を買う
程度
(
ていど
)
の金やったら自分で
稼
(
かせ
)
げてた。 それがどうにも
不思議
(
ふしぎ
)
な気がした。 まだ学生の
身分
(
みぶん
)
やというのもあるけど、俺の
描
(
か
)
いた絵に
値段
(
ねだん
)
がついて、売り買いされるていうのが、
不思議
(
ふしぎ
)
やったんや。
絵描
(
えか
)
きになろうかなって、ぼんやりとやけど思うてた。 他に自分がなるもんが
想像
(
そうぞう
)
つかへん。
鬼道
(
きどう
)
の家の
跡取
(
あとと
)
りで、俺はおとんから
家督
(
かとく
)
を
継
(
つ
)
ぎ、
京一帯
(
きょういったい
)
の
安寧
(
あんねい
)
を守る
責務
(
せきむ
)
を
負
(
お
)
うたらしい。それが
当家
(
とうけ
)
代々
(
だいだい
)
の
役目
(
やくめ
)
や。 それに
加
(
くわ
)
えて、絵を
描
(
か
)
く仕事が
務
(
つと
)
まるんかは、俺には分からん。
家業
(
かぎょう
)
と
両立
(
りょうりつ
)
できるもんなんか、そもそも
絵描
(
えか
)
きとしてやっていけるんか、自分の未来が
見当
(
けんとう
)
付
(
つ
)
かへん。 ピンと
来
(
き
)
いひん、自分が一人前になるということが。 それでも俺が学生やってられる
期間
(
きかん
)
はあともう
僅
(
わず
)
かやった。 車は
快調
(
かいちょう
)
に走り、
紅葉
(
こうよう
)
も終わろうとしている
冬支度
(
ふゆじたく
)
の
嵐山
(
あらしやま
)
へと入った。
冬枯
(
ふゆが
)
れも美しい。
亨
(
とおる
)
は助手席で
景色
(
けしき
)
を見ているようやった。 「何でもええけど、
後部座席
(
うしろ
)
にチャイルドシート
積
(
つ
)
んであるのん何とかならへんのか、アキちゃん。ものすご
所帯
(
しょたい
)
くせえんやけど」 いつも言うてる
文句
(
もんく
)
を
亨
(
とおる
)
が言うて、俺は笑った。 しゃあない、ユミちゃん乗るときいるんやもん。 俺の車には、チャイルドシートと
車椅子
(
くるまいす
)
が
積
(
つ
)
んである。 車自体も
車椅子
(
くるまいす
)
ごと乗れるやつにしようか
悩
(
なや
)
んでんけど、それやと
車種
(
しゃしゅ
)
も限られてくるし、
乗
(
の
)
り
降
(
お
)
りの時に
水煙
(
すいえん
)
を
抱
(
だ
)
いてやられへんようになる。 別にええかと思って、
普通車
(
ふつうしゃ
)
にした。 俺は実は全然変わってへんのかもしれへん。
複雑
(
ふくざつ
)
に
入り乱
(
いりみだ
)
れてた
想
(
おも
)
いを
整理
(
せいり
)
する
方便
(
ほうべん
)
に、絵を
描
(
か
)
いただけ。 今もって実は
多情
(
たじょう
)
で、
忘
(
わす
)
れたふりをしてるだけ。 でも今は、それを
暴
(
あば
)
かんようにするのが、
暗黙
(
あんもく
)
のルールやで。
皆
(
みな
)
であんじょうやっていくためにはな。 車が家に着くと、
玄関
(
げんかん
)
におとんと
弓彦
(
ゆみひこ
)
が
座
(
すわ
)
ってた。
洋装
(
ようそう
)
の
幼児服
(
ようじふく
)
を着てる。 最近ずっと、二
歳
(
さい
)
くらいの
姿
(
すがた
)
をしてて、
舌
(
した
)
ったらずでも
一応
(
いちおう
)
、言葉を話してる。 「アキちゃん」 きゃっきゃ笑いながら、
弓彦
(
ゆみひこ
)
が
両手
(
りょうて
)
を
挙
(
あ
)
げて、
抱
(
だ
)
っこしろというふうに俺を
出迎
(
でむか
)
えた。 それを
抱き上
(
だきあ
)
げ、俺はおとんに目で
挨拶
(
あいさつ
)
した。 「へび。へび」
亨
(
とおる
)
を
指差
(
ゆびさ
)
し、
弓彦
(
ゆみひこ
)
が
真面目
(
まじめ
)
くさって言う。それに
亨
(
とおる
)
が
苦笑
(
くしょう
)
していた。 「どうも
蛇
(
へび
)
です」
弓彦
(
ゆみひこ
)
には
式
(
しき
)
の
正体
(
しょうたい
)
が分かってるらしい。 さすがは
賢
(
かしこ
)
いユミちゃんや。
将来
(
しょうらい
)
が楽しみやな。
怖
(
こわ
)
いというかやな。 「おとん、今日は何個か用事があるねん。
水煙
(
すいえん
)
は?」 「あいつはお
登与
(
とよ
)
とおるよ」 それでおとんが子守りしてんのやな。
弓彦
(
ゆみひこ
)
はいつもおかんと
居
(
お
)
ったり、おとんと
居
(
お
)
ったり、
舞
(
まい
)
ちゃんや
大崎
(
おおさき
)
先生や、
秋尾
(
あきお
)
さんと
居
(
お
)
ったりする。
誰
(
だれ
)
にも人見知りせず
懐
(
なつ
)
くんで、
誰
(
だれ
)
かと
居
(
お
)
るやろうという感じや。 俺が来てたら俺んとこに来るし、時には
水煙
(
すいえん
)
と
居
(
お
)
ることもある。 あいつが子守りするなんて、
不思議
(
ふしぎ
)
な気もするんやけど、そういえば
水煙
(
すいえん
)
は俺が
子供
(
こども
)
の
頃
(
ころ
)
にも
面倒
(
めんどう
)
見てくれた。 声しか聞こえへんかったけど、俺にとっては
心寄
(
こころよ
)
せられる
相談
(
そうだん
)
相手やったと思う。
弓彦
(
ゆみひこ
)
にとっても、
秋津
(
あきつ
)
の
御神刀
(
ごしんとう
)
に
触
(
ふ
)
れて育つのは、ええ事やろう。
秋津
(
あきつ
)
家の男子が
皆
(
みんな
)
、通る道や。 「話したいことあるんや、おとん。ここやと何やし、
奥
(
おく
)
で聞いてくれ」 「それは、
改
(
あらた
)
まった話やな」 おとんは
着流
(
きなが
)
しの
和装
(
わそう
)
で、くつろいだ
雰囲気
(
ふんいき
)
やった。 いかにも
昭和
(
しょうわ
)
初期のままで、時が止まってもうてる感じがする。 それがあかんとは思わへんけど、そろそろ時間をすすめるべき時や。
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