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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-59 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-59 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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851 / 928
29-59 アキヒコ
苦笑
(
にがわら
)
いの顔で言う
湊川
(
みなとがわ
)
の体はほんまに少し
震
(
ふる
)
えてた。 「
薄着
(
うすぎ
)
やからや! 寒いだけ! とっとと行ってこいやで、兄さん」 「そんなん言わんといてえな、
亨
(
とおる
)
ちゃん。
一緒
(
いっしょ
)
に行こうな」 そう言うて、
湊川
(
みなとがわ
)
は
亨
(
とおる
)
の
肩
(
かた
)
を
抱
(
だ
)
き、
背
(
せ
)
を
押
(
お
)
して歩き出した。 ちょっと待て、それ俺のツレや。 お前と
並
(
なら
)
ぶとお前のツレみたいに見えとるやないか。 俺にはそれが
衝撃
(
しょうげき
)
で、しかもニワカのパパラッチさん達に、バッシャバシャ写真を
撮
(
と
)
られてる。
既成
(
きせい
)
事実がガンガン作られていっとるやないか。 もしもそれがネットを
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り、ありもしいひん
噂
(
うわさ
)
が流れ、バカスカ「いいね!」が
押
(
お
)
されたら、それが事実や。 そういう時代で、あいつはそういう神やった。 俺は
血相
(
けっそう
)
変えて、
亨
(
とおる
)
を
奪
(
うば
)
った。
湊川
(
みなとがわ
)
は迷うふうもなく、
四条大橋
(
しじょうおおはし
)
を目指す方向に足を向けて、そんな俺を笑い、俺の手を引いた。 冷たい手やった。ほんまに冷えてて、鼻の頭までちょっと赤くなっている。 冷たいなあっていう時、
亨
(
とおる
)
にもある。あいつが不安やったり、
甘
(
あま
)
えたい時や。 冷たい手や
頬
(
ほお
)
を
抱
(
だ
)
いて
包
(
つつ
)
んで、
温
(
ぬく
)
めてやりとうなる。
亨
(
とおる
)
の冷たい手を
握
(
にぎ
)
ると、アキちゃん
胸
(
むね
)
がキュンキュンするんや、ほんまやで。 その指が、
頬
(
ほお
)
が、
胸
(
むね
)
が、やがて熱く燃え上がる。俺の
腕
(
うで
)
の中で
悶
(
もだ
)
え、赤く燃える火みたいに、
溶
(
と
)
けて
悶
(
もだ
)
えるのを
予感
(
よかん
)
して、ああまだ冷たいなあって、俺が
抱
(
だ
)
いてやろうって、
愛
(
いと
)
しく思うんかもしれへん。 そんな
手管
(
てくだ
)
か。やっつけられてんのか俺は。
亨
(
とおる
)
に。 いやいやいや、それはない、たまたまや。 そこは
天然
(
てんねん
)
でそうなってんのや。
狙
(
ねら
)
ってではない。 そやけど
湊川
(
みなとがわ
)
は、それを
意図
(
いと
)
してギンギンに冷えていったんやって、
亨
(
とおる
)
が言うもんやから、そんなわけあるかい、
天然
(
てんねん
)
やろって、俺も
慌
(
あわ
)
てることになるんや。 そうや
天然
(
てんねん
)
や。うっかり冷えてもうてるだけの
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
は、
河原町通
(
かわらまちどお
)
りを
渡
(
わた
)
り、
四条通
(
しじょうどお
)
りの北側の歩道を、俺らを連れてどんどん行った。 手を引いて先に立って歩く
姿
(
すがた
)
も美しく、あいつが歩けば、どこでもそこがランウェイやった。
描
(
か
)
きたい
衝動
(
しょうどう
)
に
駆
(
か
)
られ、美しい神やと思った。つくづく。 そうやけど、これを
描
(
か
)
くんは俺の仕事やないようや。 美しい、
朧
(
おぼろ
)
の
龍
(
りゅう
)
の絵には、暁雨(ぎょうう)という
雅号
(
がごう
)
が入っているべきや。
皆
(
みな
)
もそう思うやろう?
木屋町通
(
きやまちどお
)
りの
信号
(
しんごう
)
で、いったん赤になり、
足止
(
あしど
)
め食らうと、もう
四条大橋
(
しじょうおおはし
)
は目と鼻の先。橋のかかる
鴨川
(
かもがわ
)
の流れも、もうすぐそこや。 おとん、ほんまに来てくれてんのやろうな。俺は心配でたまらんかった。まさか二度もドタキャンしいひんよな。
頼
(
たの
)
むで、おとん。 そんな俺らの横に、ブルン、とけたたましい、いかにも
猥雑
(
わいざつ
)
な
改造車
(
かいぞうしゃ
)
のエンジン音がして、クッソ
派手
(
はで
)
な赤いオープンカーが止まった。
誰
(
だれ
)
や、とその
悪趣味
(
あくしゅみ
)
なギラギラした、銀のスパイクついてて
虎柄
(
とらがら
)
のしましまシートが
張
(
は
)
ってある、ありえへん運転席を見たら、ものすご車にマッチした、パンチパーマにシルバーフォックスの毛皮着た、
冬毛
(
ふゆげ
)
の赤
鬼
(
おに
)
みたいな
奴
(
やつ
)
が
座
(
すわ
)
ってた。 ほんまに
角
(
つの
)
ある。これ、
鬼
(
おに
)
やん。ザ・
鬼
(
おに
)
。 助手席にも、
角
(
つの
)
二本生えた、悪い子ルックのスタジャンの
美少年
(
びしょうねん
)
おる。なにこれ。
鬼
(
おに
)
? 「久しぶりやのう、
怜司
(
れいじ
)
。帰ってきたて
小鬼
(
こおに
)
どもが
騒
(
さわ
)
いどるさかい、
迎
(
むか
)
えに来たんやで。まあ乗れや」 パンチパーマは言うた。
湊川
(
みなとがわ
)
はそれとは目を合わせず、ふふっと笑うた。 「
素早
(
すばや
)
いなあ兄さん。ご
無沙汰
(
ぶさた
)
やったな。
相変
(
あいかわ
)
わらず個性的なファッションやで、さすがやな」
湊川
(
みなとがわ
)
は
褒
(
ほ
)
める口調で言うたが、京都では、個性的やは
褒
(
ほ
)
め言葉ではない。むしろ
真逆
(
まぎゃく
)
や。 そやけど
鬼
(
おに
)
はわかってへんのか、
普通
(
ふつう
)
にがっはっはと喜んでいた。 「そうやろう! お前も
相変
(
あいかわ
)
わらず、ええケツしとるわ。変わらんな。昔以上やないか……」 よだれ出そう、みたいな目で、
鬼
(
おに
)
さんは
湊川
(
みなとがわ
)
の
後ろ姿
(
うしろすがた
)
を見た。 そうやろう。わかるわ。そのファッションは理解できひんけど、
鬼
(
おに
)
さんの気持ちは俺もわかる。
鬼
(
おに
)
、いてんのや……。京都、ほんまに
鬼
(
おに
)
いてるんやで。
比喩
(
ひゆ
)
的な意味やなかったんや、
鬼
(
おに
)
がおったら
斬
(
き
)
るでっていう話。 これ。ダイレクトに
鬼
(
おに
)
やで。
角
(
つの
)
あるもんな。 よう見たら、おっさん
牙
(
きば
)
もあるで。
怖
(
こわ
)
そうやなあ……。
湊川
(
みなとがわ
)
はいつの
間
(
ま
)
にか、俺の手を
離
(
はな
)
してた。
面倒
(
めんどう
)
くさい
奴
(
やつ
)
に声かけられてもうたし、
巻
(
ま
)
き
込
(
こ
)
まんとこうって、他人のふりするみたいにさっと手を
離
(
はな
)
してくれたんや。 もう、その冷たい白い手は、
湊川
(
みなとがわ
)
のトレンチコートのポケットの中に
隠
(
かく
)
れてもうてた。 「せっかく
誘
(
さそ
)
ってもろうたのに、すまん事やけどな、兄さん。もう
先約
(
せんやく
)
があるんや、俺は。これから昔の男に会うんや、そこで」 川の方向を
指差
(
ゆびさ
)
して、
湊川
(
みなとがわ
)
は
鬼
(
おに
)
に教えた。 ブンブン
鳴
(
な
)
ってるカーステレオの音楽に
揺
(
ゆ
)
れながら、
赤鬼
(
あかおに
)
も川の方を見る
目線
(
めせん
)
になってた。 「
誰
(
だれ
)
やそれ。そんな
奴
(
やつ
)
、いつでもええやろ。俺がいって、ちょっとビビらせといたる」 「そうなん?
秋津
(
あきつ
)
の坊(ぼん)やで」
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椎堂かおる
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