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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-60 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-60 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
852 / 928
29-60 アキヒコ
小声
(
こごえ
)
で、
湊川
(
みなとがわ
)
は
鬼
(
おに
)
に言うた。 そうしたら、
鬼
(
おに
)
もやけど、
助手席
(
じょしゅせき
)
の
小鬼
(
こおに
)
もぎょっとしていた。 そのリアクションの
凄
(
すご
)
さに、俺もびっくりしていた。 おとん、
鬼
(
おに
)
に有名なんや。 そうか。
鬼
(
おに
)
斬
(
き
)
ってたんやもんな。知り合いか。 「な、なんやて。あいつ死んだんやったやろ……⁉︎」 「それがそうでもないようや」
鬼
(
おに
)
たちはザワザワとした。それは
極
(
きわ
)
めて
深刻
(
しんこく
)
な情報のようやった。
小鬼
(
こおに
)
は、
般若
(
はんにゃ
)
の
刺繍
(
ししゅう
)
が
背中
(
せなか
)
に入ってるピカピカのサテン
生地
(
きじ
)
のスタジャンのポケットから、
携帯
(
スマホ
)
を取り出して、急いで何かをメールで送り始めた。
鬼
(
おに
)
も使うんやな、
携帯
(
スマホ
)
。待ち受け画面も
虎柄
(
とらがら
)
やった。 「あのな
怜司
(
れいじ
)
……
秋津
(
あきつ
)
の
若
(
わか
)
に言うといてくれへんか。俺も
重々
(
じゅうじゅう
)
、
反省
(
はんせい
)
した……」 そう言うて、
鬼
(
おに
)
は車のダッシュボードをぱかっと開けた。 そこには、でっかい赤い手が、手首よりちょっと上あたり、
剣道
(
けんどう
)
で
小手
(
こて
)
をいれるあたりでスパッと切り落とされて、入ってた。 うええ、なんやあれ、
気色悪
(
きしょくわる
)
。 動いてるで、手だけやのに。うごうごしてる。 ほんで、よう見たら、ハンドル
握
(
にぎ
)
ってる
鬼
(
おに
)
の手は、
片方
(
かたほう
)
しかない左手だけで、右手は手首までしかなかったんや。 「この手、そろそろ治してもらわれまへんやろかって、
頼
(
たの
)
んでくれへんか。お前が言えば
秋津
(
あきつ
)
の
若
(
わか
)
も、ちょっとは考えてくれはるやろう……?」 急に
敬語
(
けいご
)
になり、
鬼
(
おに
)
は、よろしゅうお
頼
(
たの
)
み申しますという、悲しい
情
(
なさ
)
けない顔をした。
隣
(
となり
)
の
小鬼
(
こおに
)
も、しゅんとしていた。 「
秋津
(
あきつ
)
の新しい
若
(
わか
)
やったら後ろにいてる。
己
(
おのれ
)
で
頼
(
たの
)
みや。そういう
実務
(
じつむ
)
は今後こっちが
担当
(
たんとう
)
や。今はまだ学生の身やさかい、
本格的
(
ほんかくてき
)
にやらはんのは大学出はって来年度あたりからやろうけど、新しい俺の
主人
(
あるじ
)
や。よろしゅう
頼
(
たの
)
むで兄さん。これから俺が会いに行くんは、古い方の
秋津
(
あきつ
)
の
坊
(
ぼん
)
やで。もう
隠居
(
いんきょ
)
やねん」 俺を
振
(
ふ
)
り
返
(
かえ
)
るような
仕草
(
しぐさ
)
をして、
湊川
(
みなとがわ
)
は
視線
(
しせん
)
で、俺を
鬼
(
おに
)
に教えた。 あっ、お前いま俺を
巻き込
(
まきこ
)
んだな。守ってくれるんとちゃうんや⁉︎ 俺いま
丸腰
(
まるごし
)
やで。
水煙
(
すいえん
)
を
連
(
つ
)
れてきてへん。 そんなん、
要
(
い
)
らんと思うやん。
水煙
(
すいえん
)
は、お前がおとんと
再会
(
さいかい
)
するのなんか、見たないやろうと思ったし、
何分
(
なにぶん
)
あいつは、アキちゃん、それが
分別
(
ふんべつ
)
やろなあ言うて、美しく俺のもとを
去
(
さ
)
ってもうた後や。 そうや、それが
分別
(
ふんべつ
)
やって、俺も思うてたけど、これ、
全然
(
ぜんぜん
)
あかんやん。
水煙
(
すいえん
)
がいいひんと、めっちゃ
不便
(
ふべん
)
やんか。 今この
状況
(
じょうきょう
)
で、ちょっと待っといてください言うて
嵐山
(
あらしやま
)
の家帰って、
水煙
(
すいえん
)
とってきますって言うんか? 食い殺されるわ俺。 このパンチパーマにやっつけられて、
鴨川
(
かもがわ
)
手前
(
てまえ
)
の、いま横を流れてる
浅
(
あさ
)
い
浅
(
あさ
)
い
高瀬川
(
たかせがわ
)
にバラバラなって
浮
(
う
)
くわ。
水煙
(
すいえん
)
! すぐに来てくれ
水煙
(
すいえん
)
!! お前が俺には必要や!
比喩
(
ひゆ
)
的な意味やのうて現実にやで? 「はあ? 新しい
若
(
わか
)
やと……? 来年度から……?」
鬼
(
おに
)
は初めて俺を見た。目が合ったわ。
鬼
(
おに
)
は金色の、
飴玉
(
あめだま
)
みたいなまん丸の目してた。
節分
(
せつぶん
)
の
鬼
(
おに
)
の
面
(
めん
)
みたいや。 俺はその目を、ぐっと
睨
(
にら
)
んだ。 負けたらあかん。これが俺の敵、
秋津
(
あきつ
)
の敵で、今後戦う相手らしいんやで?
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
かこれ、
普通
(
ふつう
)
に
鬼
(
おに
)
や。 これ、
倒
(
たお
)
すんか? 今? やんの? 俺が? アキちゃん、そんな
血気
(
けっき
)
盛
(
さか
)
んやったんやけどな、
鬼
(
おに
)
さん、ははは、って、急に
愛想
(
あいそう
)
良
(
よ
)
う俺に笑った。 来年のこと言うたさかい
鬼
(
おに
)
笑
(
わろ
)
うてんのやろか。 「ああ、ハッハッハー! そないですかあ。それは気づかんと。
秋津
(
あきつ
)
の
坊
(
ぼん
)
がいてはったとは、いやいやいや、俺も
鈍
(
にぶ
)
いですなあ。すんません。あははー」 あれっ。
鬼
(
おに
)
、
腰
(
こし
)
低いで。どないしよ。 「まあまあ、
鬼
(
おに
)
もいろいろいてますやん。
必要悪
(
ひつようあく
)
や。
坊
(
ぼん
)
のお父はんも、そう言うたはりましたよって、
坊
(
ぼん
)
もそう思てくれはるんやろなあ。あんじょう
上手
(
うも
)
う、付き合うていきましょなあ」 ほなさいならって、
鬼
(
おに
)
はアクセル
踏
(
ふ
)
むみたいやった。
信号
(
しんごう
)
まだ赤やで。 そんなもん気にもせず、赤いオープンカーは
悪
(
わる
)
モンらしい
危険
(
きけん
)
運転で、
木屋町通
(
きやまちどおり
)
をブウウウンと横切り、あっという間に川の方へスピード上げて消えていった。 ほんまに消えた。ふっと消えたんや。 バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいや。
映画
(
えいが
)
のな、車がタイムマシンで、
突
(
つ
)
っ
走
(
ぱし
)
って未来へ消えるやつあるねん。あれみたいやわ。あるねんなあ、あんな事。 「
雑魚
(
ざこ
)
やで、あんなん。まあでも、あれが
居
(
い
)
てるおかげで、しょうもない
小鬼
(
こおに
)
らも
統制
(
とうせい
)
がとれとる。
必要悪
(
ひつようあく
)
やねん。俺も
餓鬼
(
がき
)
の
頃
(
ころ
)
には、けっこう食わせてもろたしな。俺に
免
(
めん
)
じて、
見逃
(
みのが
)
したってくれ、
秋津
(
あきつ
)
の新しい
若
(
わか
)
先生」
湊川
(
みなとがわ
)
は
苦笑
(
くしょう
)
して、俺に
頼
(
たの
)
み、小さく頭をさげる
仕草
(
しぐさ
)
をした。 よかったあああ、チャンバラならんで。 俺、
丸腰
(
まるごし
)
やん。やばかったああ、
絶対
(
ぜったい
)
。 ちょっと俺、
認識
(
にんしき
)
甘
(
あま
)
かった。このレベルで
普通
(
ふつう
)
に
鬼
(
おに
)
おるん? 俺が気づいてへんかっただけ? 思った以上に、この世は
妖怪
(
ようかい
)
だらけ、神だらけやで。 いっぺんはっきり目を開いてみたら、それがよう見えた。
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椎堂かおる
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