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三都幻妖夜話(3)神戸編 29-67 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
29-67 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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29-67 アキヒコ
亨
(
とおる
)
は
財布
(
さいふ
)
から、
高島屋
(
たかしまや
)
で
昼飯
(
ひるめし
)
に食うた
萬養軒
(
まんようけん
)
のレシートを取り出した。 それを手でちぎって
人形
(
ひとがた
)
を作り、アキちゃんボールペンボールペン、何か書くもん持ってへんのかと
騒
(
さわ
)
いだ。 俺も
慌
(
あわ
)
てて
探
(
さが
)
したけど、
筆記具
(
ひっきぐ
)
なんて、無いときは無いもんや。 どないしよう、コンビニ走る? どないしようって、俺が
焦
(
あせ
)
っていると、どないしたんやあ
坊
(
ぼん
)
と、知ったような声に
呼
(
よ
)
ばれた。
振
(
ふ
)
り向くと、
白川
(
しらかわ
)
沿
(
ぞ
)
いの
対岸
(
たいがん
)
に、
提灯
(
ちょうちん
)
持ってる
秋尾
(
あきお
)
さんが
居
(
お
)
った。
地獄
(
じごく
)
に
仏
(
ほとけ
)
! やのうて、
祇園
(
ぎおん
)
に
狐
(
きつね
)
! 俺は
秋尾
(
あきお
)
さんの茶色のスーツの
胸
(
むね
)
ポケットから、ボールペンを
借
(
か
)
りて、レシートの
紙人形
(
かみにんぎょう
)
に
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
と書いた。 これ、これでええんやんな?
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
でええんか? これ、おとんと
紛
(
まぎ
)
らわしいことない? でもこれ俺の名前やんな? 「はよ
伝言
(
でんごん
)
飛ばせ、アキちゃん。これが飛んでいく方におとんを追いかけるんや」
訳
(
わけ
)
は分かってない
秋尾
(
あきお
)
さんが、何や何やって横から見てる。 そうやな、急がなあかんな。 俺は、おとんがやってたように、
両手
(
りょうて
)
で
紙人形
(
かみにんぎょう
)
を持って、それに話しかけた。 なんて言えばええんや、こういう時。なんて言うたらええか分らん。 それでも俺は、口をつくまま、おとんに話しかけてた。 「おとん……! 今、どこや? どこにおるんや? 待ってるし……今すぐやのうてもええねん。帰って……帰ってきてくれ!」
留守番
(
るすばん
)
してて
心細
(
こころぼそ
)
うなった小学生か、俺は⁉︎ ちょいまち、リテイクさせてくれって思ったのに、レシートの
紙人形
(
かみにんぎょう
)
はブンブン
両手
(
りょうて
)
を
靡
(
なび
)
かせて、どことも知れん
垂直
(
すいちょく
)
方向へぶっ飛んで行った。 そっち⁉︎ 俺は飛んでいく
伝言
(
でんごん
)
を
千里眼
(
せんりがん
)
で追いかけた。
紙人形
(
かみにんぎょう
)
は、空気
抵抗
(
ていこう
)
の低い
唸
(
うな
)
り声を上げながら、
雲
(
くも
)
を
突
(
つ
)
き
抜
(
ぬ
)
け、
雨粒
(
あまつぶ
)
を
掻
(
か
)
き
分
(
わ
)
けて、
位相
(
いそう
)
の
境
(
さかい
)
を
越
(
こ
)
え、俺の
耳目
(
じもく
)
を遠いどこかの
白川
(
しらかわ
)
へと
連
(
つ
)
れていった。 そこには古びた一
軒
(
けん
)
の家が
建
(
た
)
ってる。
川面
(
かわも
)
に
満開
(
まんかい
)
の
桜
(
さくら
)
が
映
(
うつ
)
り、
朧月
(
おぼろづき
)
の
映
(
うつ
)
った
水面
(
すいめん
)
に
花筏
(
はないかだ
)
が流れている、美しい
宵
(
よい
)
やった。
床
(
ゆか
)
が
黒々
(
くろぐろ
)
と
磨
(
みが
)
かれて、歩く足が
映
(
うつ
)
るぐらいの、きっちり手入れされた家や。 そこの二階に、おとんと
朧
(
おぼろ
)
はおった。
間
(
ま
)
に
合
(
お
)
うたんか、どうか。おとんはまだ、どっこも食われてへんかった。
満開
(
まんかい
)
の
桜
(
さくら
)
の枝が横切る二階の
窓
(
まど
)
の
月見台
(
つきみだい
)
に
座
(
すわ
)
り、おとんは
胸
(
むね
)
に
朧
(
おぼろ
)
を
抱
(
だ
)
いてた。 おとんの着物をはだけさせ、
裸
(
はだか
)
の
胸
(
むね
)
にうっとり
頬
(
ほお
)
を
擦
(
す
)
り
寄
(
よ
)
せている
朧
(
おぼろ
)
の真っ赤な
唇
(
くちびる
)
はまだ、
恐
(
おそ
)
ろしい歯がずらっと
並
(
なら
)
ぶ
物
(
もの
)
の
怪
(
け
)
の口のままやったけど、ただ
微笑
(
ほほえ
)
んでおとんに
抱
(
だ
)
かれているだけで
満足
(
まんぞく
)
しているようで、さあ食うたろかという
気配
(
けはい
)
では無い。 「ああ、
綺麗
(
きれい
)
な
桜
(
さくら
)
やな、
朧
(
おぼろ
)
。お前と
過
(
す
)
ごした春を思い出すわ」
呑気
(
のんき
)
なこと言うて、おとんは
朧
(
おぼろ
)
の長い
髪
(
かみ
)
を
撫
(
な
)
でていた。 「
暁彦
(
あきひこ
)
様」 うっとり言うて、
朧
(
おぼろ
)
は自分の服を
剥
(
は
)
いだ。 紙のように真っ白な、つるんと何もない体が
露
(
あら
)
わになって、
朧
(
おぼろ
)
は
切
(
せつ
)
なげな息やった。 「絵、
描
(
か
)
いて」 ねだる
口調
(
くちょう
)
で言う
妖怪
(
ようかい
)
に、おとんは
頷
(
うなず
)
き、
朧
(
おぼろ
)
をまた
抱
(
だ
)
き
寄
(
よ
)
せた。 そしておとんが
朧
(
おぼろ
)
の
裸
(
はだか
)
の
胸
(
むね
)
に
唇
(
くちびる
)
を寄せて
吸
(
す
)
うと、そこから
肌
(
はだ
)
が
桜
(
さくら
)
みたいな色に
染
(
そ
)
まった。 ひぃ、と
朧
(
おぼろ
)
がひきつるような
喘
(
あえ
)
ぎを
漏
(
も
)
らし、のどを
反
(
そ
)
らせる。 な、な、なに、これ?
妖怪
(
ようかい
)
やん。
妖怪
(
ようかい
)
やって知ってたけど、ここまでとは思ってへんかった。 おとんが
念入
(
ねんい
)
りに、
桜
(
さくら
)
のような
吸
(
す
)
い
跡
(
あと
)
をつけてやるうちに、その白いモヤモヤした
妖怪
(
ようかい
)
が、だんだん人間みたいになってきたんや。 すらりとした手足、
練
(
ね
)
り
絹
(
ぎぬ
)
のような
肌
(
はだ
)
、
柔
(
やわ
)
らかい
髪
(
かみ
)
、
切
(
せつ
)
なげな
濡
(
ぬ
)
れた
瞳
(
ひとみ
)
でおとんを見ている顔も、だんだん元どおりに。 俺の知ってる
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
やった。 「気持ちええか?」 おとんが聞いてやると、
朧
(
おぼろ
)
は泣いたような目で
頷
(
うなず
)
いた。 あとはもう、言うたらあかん感じや。
普通
(
ふつう
)
にエロや。 アキちゃん見せてっていう
亨
(
とおる
)
に、あかんあかんて俺は言うた。 なんでって、ほら、
一応
(
いちおう
)
、親やで? 見てええの? 見たけど、俺は。それを語ってもうててええの? 語ろか。部分だけでいいか? あいつ……。俺とやった時は、
下手
(
へた
)
やなあとか、まあまあ良かったとか、男の子のハートを
踏
(
ふ
)
みにじるような感想しか言うてへんかったけど、まあ、そうやな。 おとんな、
上手
(
うま
)
いわ。
朧
(
おぼろ
)
はもう、事に
至
(
いた
)
る前にすでに半分おかしい。目がいってもうてる。 何がそんなに感じるんか知らんけど、ただ
触
(
ふ
)
れられるだけでひいひい言うんや。 あいつよっぽど、おとんが好きやな。
触
(
ふ
)
れたところが
桜色
(
さくらいろ
)
に
染
(
そ
)
まる
朧
(
おぼろ
)
の体は、すぐに
窓
(
まど
)
の外の
満開
(
まんかい
)
の
桜
(
さくら
)
みたいになった。おとんに
割
(
わ
)
られた
脚
(
あし
)
が
震
(
ふる
)
えてる。
切
(
せつ
)
なそうな、か
細
(
ぼそ
)
い声で、
朧
(
おぼろ
)
は何度も、早う早うと
強請
(
ねだ
)
った。 それでも、おとんは
中々
(
なかなか
)
入れてくれへんねん。
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椎堂かおる
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