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三都幻妖夜話(3)神戸編 30-24 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
30-24 トオル
作者:
椎堂かおる
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30-24 トオル
血筋
(
ちすじ
)
の
定
(
さだ
)
めやとか、お
家
(
いえ
)
の
役目
(
やくめ
)
やとか、そういうの。 しんどいばっかで、ええことはない。 そやけど、アキちゃんはそれから
逃
(
に
)
げることなく、戦っていくことにしたんや。 自分を
呑
(
の
)
もうとする
大津波
(
おおつなみ
)
から、一歩も
逃
(
に
)
げへんかった時と、同じように。 あいつはなかなか、強い男やな。 そう思うて、俺は
感心
(
かんしん
)
した。アキちゃんに。 すごいなって、
惚
(
ほ
)
れ
直
(
なお
)
したんかもしれへん。 この半年、一年を
振り返
(
ふりかえ
)
って。 あいつには、ほんま、
度肝
(
どぎも
)
を
抜
(
ぬ
)
かれてばっかりやったわ。 「
亨
(
とおる
)
ちゃん」 アキちゃんが絵
描
(
か
)
いてた大学の
別棟
(
べつむね
)
の、
薄暗
(
うすぐら
)
い
廊下
(
ろうか
)
にいくと、頭に白い
後光
(
ごこう
)
さしてる天使がおって、
若干
(
じゃっかん
)
ボサボサなってる白い
翼
(
つばさ
)
をはためかせ、俺を見つけて飛んできた。 「トミ子」 何を
感激
(
かんげき
)
しとるんか、トミ子は俺を見て
感極
(
かんきわ
)
まったようで、ブスのくせにぎゅーっと
抱
(
だ
)
きついてきた。 あんまり
近
(
ちこ
)
う
寄
(
よ
)
ったらあかんて、トミ子。顔
隠
(
かく
)
す光が
透
(
す
)
けて、お前の
怪物
(
かいぶつ
)
的ブス顔が見えてまうやん。 そんなことはお
構
(
かま
)
いなしに、トミ子は
嬉
(
うれ
)
しそうに
啜
(
すす
)
り泣き、
洟
(
はな
)
もすすった。 「やっと全部
描
(
か
)
けたんえ。ついさっきやけど。
暁彦
(
あきひこ
)
君、
疲
(
つか
)
れて
寝
(
ね
)
てるわ」 「お前も
羽根
(
はね
)
ボッサボサやで」 アキちゃんに付き
合
(
お
)
うて、全コース
完走
(
かんそう
)
したんは、お前だけやもんな、トミ子。それはそれは大変やったやろう。 アキちゃんも、お前がおって、ものすご助かったし、
心強
(
こころづよ
)
かったと思うわ。ほんまにありがとう。 俺に
感謝
(
かんしゃ
)
なんかされても、
嬉
(
うれし
)
しないやろうけどな。 でも、おおきに、ありがとうやで、トミ子。 うえええんとトミ子は俺の
胸
(
むね
)
で泣き、しばし
嗚咽
(
おえつ
)
したあと、ぐすんぐすん言うて、顔をあげた。 「うちはそろそろ
天界
(
てんかい
)
に
戻
(
もど
)
りますぅ……」 「まさかこれが
永遠
(
えいえん
)
の別れとか言うなよ?」 ブスの顔どんなんやったっけと思い、俺はまばゆい光の中に、トミ子の目を
探
(
さが
)
した。 そやけど見えへんな、
隙
(
すき
)
のないドブスやわ。 「また来るえ、
暁彦
(
あきひこ
)
君がうちの助けを必要とする時が来たら、いつでも来るわ。
亨
(
とおる
)
ちゃんも……」 俺を見つめるトミ子の
視線
(
しせん
)
を感じて、この
辺
(
へん
)
が目かなっていう
辺
(
あた
)
りと、俺は見つめ
合
(
お
)
うた。 「ほんまに、いろいろ、ありがとう。
暁彦
(
あきひこ
)
君のこと、いつもよろしゅうお
頼
(
たの
)
み
申
(
もう
)
します。うちはもう、いかなあかんさかい」 トミ子。 俺は何か言おうとしてた。 そうやけど、空気読まへんブスが、いきなり
爆発
(
ばくはつ
)
的な白い光を
発
(
はっ
)
し、
天界
(
てんかい
)
に消えたもんやから、
爆風
(
ばくふう
)
で俺の
髪
(
かみ
)
の毛ぐちゃぐちゃなってまうし、目は
眩
(
くら
)
むしで、えらい目にあってもうた。 トミ子……俺、好きやで、お前のこと。すごく好きやった。 って、言おうとしとったな、俺。やばい。 ブスとできてまうところやった。 ギリセーフで、あいつを
天界
(
てんかい
)
に
呼
(
よ
)
び
戻
(
もど
)
してくれた、神に
感謝
(
かんしゃ
)
やな。 カッコ
悪
(
わる
)
、俺。 アキちゃんおらへん
寂
(
さび
)
しさで、
誰
(
だれ
)
でもいい、ドブスでも、
水煙
(
すいえん
)
でもいいみたいな
変態
(
へんたい
)
の世界へ行きかけてんのかな。 あかん。それは
危
(
あぶ
)
ない。気を
引き締
(
ひきし
)
めて、アキちゃんと
再会
(
さいかい
)
せなあかんな。 あいつが俺の愛しい男で、俺のツレ。そうや、トミ子ではない。
絵画室
(
かいがいしつ
)
のドア開けて、俺がそこに入ると、アキちゃんは部屋の
机
(
つくえ
)
に、
突っ伏
(
つっぷ
)
して
寝
(
ね
)
てた。
椅子
(
いす
)
に
座
(
すわ
)
り、そのまま
力尽
(
ちからつ
)
きたみたいに、
片腕
(
かたうで
)
だけ長く
天板
(
てんばん
)
にのばした
姿勢
(
しせい
)
で、その右手にはまだ、
絵筆
(
えふで
)
を持ってたんや。
描
(
か
)
き上げて、そのまま
座
(
すわ
)
り、
気絶
(
きぜつ
)
したんやろうなあ。 おもろい
奴
(
やつ
)
やわ。アキちゃん。ほんまにエネルギー使い切ってるな。 今、
襲
(
おそ
)
われたら、きっと死ぬんやで。 俺はそう思って、アキちゃんの
隣
(
となり
)
にそうっと
椅子
(
いす
)
を持ってきて、そこに
座
(
すわ
)
った。 俺が
傍
(
そば
)
にいて、アキちゃんを守ってやらなあかんもんな。 夜になろうとしていた。
窓
(
まど
)
の外にはもう
闇
(
やみ
)
が
迫
(
せま
)
ってる。
白々
(
しらじら
)
とした部屋の明かりが、俺とアキちゃんを
照
(
て
)
らしていて、アキちゃんの深い
寝息
(
ねいき
)
だけが、静かに
繰
(
く
)
り
返
(
かえ
)
されていた。 さあ、どないしようかな。これから。どうしよう。 アキちゃん
担
(
かつ
)
いで帰るわけにはいかんしなあ。 車でもないと、こんなデカい
奴
(
やつ
)
、電車に乗せて帰られへん。
困
(
こま
)
ったなって、俺が部屋を見回すと、そこにはまだ
描
(
か
)
き上げたばかりの絵があった。 実際には、少々、間に合わんかったんやった。 絵は
締
(
し
)
め
切
(
き
)
りを
過
(
す
)
ぎても、最後の一
枚
(
まい
)
が
仕上
(
しあ
)
がらず、アキちゃんの
卒業制作
(
そつぎょうせいさく
)
は、二十七
枚
(
まい
)
の絵と、
製作
(
せいさく
)
途中
(
とちゅう
)
の一
枚
(
まい
)
の絵の写真として、
教授会
(
きょうじゅかい
)
にかけられたんや。 そやけど、その絵もこうして、
卒業制作
(
そつぎょうせいさく
)
展
(
てん
)
には
間
(
ま
)
に
合
(
お
)
うた。 こういうの、
間
(
ま
)
に
合
(
お
)
うたって言わんかもしれへんのやけど、まあ、
許
(
ゆる
)
したってくれ。まだ学生の
身
(
み
)
やった。いろいろ
見積
(
みつ
)
もりが
甘
(
あま
)
かったんやろう。 家に帰って、俺と時々
会
(
お
)
うたりしてへんかったら、
普通
(
ふつう
)
に
間
(
ま
)
に
合
(
お
)
うてたやろ。そのへんがまだまだ、ひよっこやったんや。 けど、とにかく、完成した。 俺は、部屋の
床
(
ゆか
)
に置かれてある、すごくでかい最後の絵を見た。
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椎堂かおる
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