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三都幻妖夜話(3)神戸編 30-30 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
30-30 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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30-30 トオル
根性
(
こんじょう
)
があれば、どこかに
前世
(
ぜんせ
)
の
記憶
(
きおく
)
を
秘
(
ひ
)
めたまま、生まれ変わってくることもあるが、
大抵
(
たいてい
)
は
無理
(
むり
)
や。 うまくいってもバラバラになってもうて、
運命
(
うんめい
)
の人の生まれ変わりやわあ、ていうのが世界に四、五人おるとか、そういう
面倒
(
めんどう
)
なことにもなりかねん。 そういう
例
(
れい
)
には、俺にも少々
覚
(
おぼ
)
えがあるしな。そうなると
困
(
こま
)
る。 そやけど
寛太
(
かんた
)
はせっかちな
奴
(
やつ
)
や。まだ
若
(
わか
)
いしかな。 今すぐ、あの
信太
(
しんた
)
のまま連れて帰りたいと、
冥界
(
めいかい
)
でゴネた。 ひたすらゴネて、
閻魔大王
(
えんまだいおう
)
と
交渉
(
こうしょう
)
し、しゃあないなあ、そこまで言うならチャンスをやろうということに。 すごいな。顔
可愛
(
かわい
)
いからスペシャル
待遇
(
たいぐう
)
やろか。ワガママ言うてみるもんやわ。 俺も
参考
(
さんこう
)
にしたいが、そこはそれ、あいつは
冥界
(
めいかい
)
や
地獄
(
じごく
)
の火の中と、
生
(
い
)
ける者の世界、
現世
(
げんせ
)
を
往来
(
おうらい
)
する力を持った
不死鳥
(
ふしちょう
)
や。 言うなればスタッフやから、特別
待遇
(
たいぐう
)
で、今ちょっと
間違
(
まちが
)
えて死者の門をくぐってもうた
信太
(
しんた
)
の
兄貴
(
あにき
)
を助けたい言うても、聞く耳をもってもらえたんかもな。
寛太
(
かんた
)
の
一念
(
いちねん
)
やわ。 そしてテストを受けることになった。
問答
(
もんどう
)
や。 神々は人間にクイズを出すのが好きなんや。
問答
(
もんどう
)
を
仕掛
(
しか
)
けて、それに答えさせ、正解できたら力をくれたり、
望
(
のぞ
)
みを聞いてやったりする。 そういうことが時々あんのや。この
業界
(
ぎょうかい
)
ではな。
寛太
(
かんた
)
は全力でクイズに答えた。 全、九百九十九問。 そのうちの六
割
(
わり
)
に正解できた。 あいつ頭ええな。もっとアホかと思ってたわ。 それで
閻魔大王
(
えんまだいおう
)
が、よう
頑張
(
がんば
)
ったな。ギリギリでボーダーライン
超
(
こ
)
えたわ。ほな、
魂
(
たましい
)
、六
割
(
わり
)
持って帰ってええで、と言わはった。 六
割
(
わり
)
や。残り四
割
(
わり
)
は、まっさらになってまうけど、
信太
(
しんた
)
の六
割
(
わり
)
は残して、
復活
(
ふっかつ
)
できるんやって、
寛太
(
かんた
)
は喜んだ。 まあそりゃゼロよりは
全然
(
ぜんぜん
)
ええわ。 そこで問題なんが、どの四
割
(
わり
)
を
捨
(
す
)
てるかや。
寛太
(
かんた
)
は時間をかけて、
捨
(
す
)
てる四
割
(
わり
)
を選んだ。 思い出や能力は
綿密
(
めんみつ
)
に
絡
(
から
)
み合っている。 つらい思い出でも、それが
信太
(
しんた
)
を作り上げるために
必須
(
ひっす
)
のもんやということは
多々
(
たた
)
あるし、
嫌
(
いや
)
な
記憶
(
きおく
)
や、
辛
(
つら
)
い
記憶
(
きおく
)
を
一律
(
いちりつ
)
ほかせばオッケーということやない。
例
(
たと
)
えば、つらい
失恋
(
しつれん
)
の思い出も、仕事での
挫折
(
ざせつ
)
も、それによって今の自分があるとか、あれがあったから成長できた、今は
感謝
(
かんしゃ
)
してる、
後悔
(
こうかい
)
はないっていう事、
皆
(
みな
)
にもあらへんか。あるやろう?
辛
(
つら
)
くない一生が正しいとは
限
(
かぎ
)
らへん。
傷
(
きず
)
も自分の一部なんや。
信太
(
しんた
)
が
信太
(
しんた
)
であるために、
捨
(
す
)
てられへん
記憶
(
きおく
)
はある。
寛太
(
かんた
)
はそれを
慎重
(
しんちょう
)
に
選
(
よ
)
った。 まあ、大変な
作業
(
さぎょう
)
やわな。自分が好きな男の
魂
(
たましい
)
を全て
詳
(
くわ
)
しく見るというんは。
寛太
(
かんた
)
が
信太
(
しんた
)
と
出会
(
でお
)
うたんは、たったの十年ほど前なんや。
信太
(
しんた
)
はそれよりもっと前、中国は
清朝
(
しんちょう
)
の初めごろに生まれてた。 いろんな出会いがあり、別れもあったやろう。
恋
(
こい
)
も一度や二度でなく、数えきれんほど、してる。 それを
眺
(
なが
)
めて、
妬
(
や
)
けて、しんどいわ、こんなん
捨
(
す
)
てよと思うても、それも
信太
(
しんた
)
を作る大切なパーツかもしれへんのや。
結局
(
けっきょく
)
、そういうのまで
含
(
ふく
)
めて、過去の何もかもを、愛してやるしかない。 そのパズルを
解
(
と
)
きながら、
寛太
(
かんた
)
は
悟
(
さと
)
りをひらいた。
信太
(
しんた
)
の
兄貴
(
あにき
)
に、
忘
(
わす
)
れがたい
恋
(
こい
)
があったかて、それを
恨
(
うら
)
んだらあかんのやってな。 あいつどんだけ
恋
(
こい
)
してんの? そんな
惚
(
ほ
)
れっぽい
虎
(
とら
)
なんか? 確かに
百戦錬磨
(
ひゃくせんれんま
)
みたいな
虎
(
とら
)
やったよ。チュー
上手
(
うま
)
いしな、アレも
上手
(
うま
)
いらしいで、
怜司
(
れいじ
)
兄さん
情報
(
じょうほう
)
やけどな。 さすが中国四千年の
味
(
あじ
)
やなあて
怜司
(
れいじ
)
兄さん言うとったわ。 そうは言うけど、
清朝
(
しんちょう
)
の始まりは1616年、
信太
(
しんた
)
が
守護
(
しゅご
)
してた
紫禁城
(
しきんじょう
)
は、1400年ごろの
建築
(
けんちく
)
らしいから、
実際
(
じっさい
)
には四千年もない。 およそ六百年から四百年の
味
(
あじ
)
やって、
寛太
(
かんた
)
は言うとったけどな。 ラジオ、
情報
(
じょうほう
)
不正確
(
ふせいかく
)
やで。メディアの言うことを
鵜呑
(
うの
)
みにしたらあかんという
証拠
(
しょうこ
)
やわ。 まあまあ、中国
宮廷
(
きゅうてい
)
の
朝廷
(
ちょうてい
)
や
後宮
(
こうきゅう
)
には、
大陸全土
(
たいりくぜんど
)
からの美男美女や
秀才
(
しゅうさい
)
、
武侠
(
ぶきょう
)
が集められたんや。
美味
(
うま
)
そうな
奴
(
やつ
)
らばかりやったんやろうな。 そういう中での六百年、さぞかし
濃厚
(
のうこう
)
やったやろう。 その六
割
(
わり
)
を
厳選
(
げんせん
)
して持ち帰り、
寛太
(
かんた
)
は
信太
(
しんた
)
を
蘇
(
よみがえ
)
らせた。
不死鳥
(
ふしちょう
)
の
涙
(
なみだ
)
でな。 大事に
握
(
にぎ
)
りしめて持ち帰ってきた、
信太
(
しんた
)
の
魂
(
たましい
)
に
涙
(
なみだ
)
を流し、その
輝
(
かがや
)
く
雫
(
しずく
)
をかけてやって、生き返ってや、
兄貴
(
あにき
)
と
呼
(
よ
)
びかけたら、
魂
(
たましい
)
は何かに
変転
(
へんてん
)
した。 ちっさい
虎
(
とら
)
や。 めっちゃ小さい。手のひらに乗るぐらいの子
虎
(
とら
)
やったらしいわ。もう
兄貴
(
あにき
)
いうサイズやない。 それでも
信太
(
しんた
)
やという
確信
(
かくしん
)
が、
寛太
(
かんた
)
にはあって、泣いて喜んだ。 その
涙
(
なみだ
)
から
無数
(
むすう
)
の
向日葵
(
ひまわり
)
が
咲
(
さ
)
いて、二人を
取り巻
(
とりま
)
いたそうや。
信太
(
しんた
)
には、その
光景
(
こうけい
)
に
見覚
(
みおぼ
)
えがあったんやろうな。
寛太
(
かんた
)
、とすぐに
呼
(
よ
)
びかけてきたそうや。
喋
(
しゃべ
)
ったわけやない。
霊
(
れい
)
の声でな、
寛太
(
かんた
)
の名前をちゃんと
憶
(
おぼ
)
えてたんやって。 もう
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
や。あとは
損耗
(
そんもう
)
した体の方を育ててやればええんやと思って、
寛太
(
かんた
)
は自分の
霊力
(
れいりょく
)
を
虎
(
とら
)
に
分け与
(
わけあた
)
えてやり、育てていくことにした。 それで、めでたしめでたしやと思い、
甲子園
(
こうしえん
)
の家に
戻
(
もど
)
ったんや。
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椎堂かおる
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