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30-33 トオル
そんな俺の心配も虚 しく、俺らは京都でとうとう相見 えることとなった。
信太 の肉体の急激 な成長が止まり、そこで安定したからやった。
そしてもう、餌 やらんでもええ程度 に、人界 の持つエネルギーと自分の霊威 が結 びついてる。
もうええやろうって、蔦子 さんが言うたからやった。
信太 は秋津 の坊 の式 どす。坊 は霊振会 の会長 にもおなりやし、四月には学校出て一人前 にならはる。
ここらで信太 をお返 しして、手持ちの式 を増強 してもええ頃合 いや。そろそろ、うちでお預 かりするんも終 いにして、坊 のとこ行かせなはれと、寛太 に命じた。
その命令は絶対 や。ご主人様なんやもん。
でも竜太郎 は止めたらしい。
お母ちゃん、それは寛太 が可哀想 やない? 二人は愛 し合 うてんのやで、引 き離 されたら可哀想 やわと、おかんを説得 してくれたそうやけど、それは秋津 の坊 が決めること。全てお任 せしなはれと、蔦子 さんは取 り合 うてくれへんそうや。
仕方 なく、寛太 はとぼとぼ京都に来て、信太 を置いていかなあかん。
信太 が誰 一人憶 えてもいない、チーム秋津 のメンバーのとこへ、虎 を捨 ててこなあかんのや。
やって来た寛太 の顔は真っ青やった。
離 れとうない自分の欲 と、ご主人様のご命令が、胸 の奥 で激 しく鬩 ぎ合う。そういう苦しみを味合 うてる顔や。
信太 と一緒 に居 りたいよな。
そのためにお前は、地獄 の火の中まで追っていったんやもんな。信太 の魂 を。
それが火でもなんでもない、アキちゃんと蔦子 さんの譲渡 契約 によって、分 かたれることになるとは……。
アキちゃん、これ、どうもならんの?
信太 、いるか?
うちの家にはもう、住むとこないで。
式 もいらんで。俺がおるしな、瑞季 かて戦えるやん。
水煙 かて、結構 強いで。怜司 兄さんはお色気 専門 やけどな。
そのメンバーで、とりあえず、頑張 るんでどうや?
式 は足 りないか?
大丈夫 や。アキちゃんは優 しい子やで。
鳥さんが泣くのを黙 って見てられるもんやない。
これがな、貰 えるんがタイガーやのうて鳥の方やったら、やばいよ。あいつ顔で選んでるしな、それに無意識 か、下の人ばっかり選ぶんやんか。
アキちゃんは自分が上に乗られるんは趣味 やない。
信太 はどうや? どう考えてもアキちゃんの上に乗りそうや。
そういう奴 はチーム秋津 のメンバーにはいらんのや。
それがアキちゃんの性癖 なんや。
それ、非常に重要なことやで。式 と巫覡 には相性 もあるんや。
嵐山 のおかんが、水煙 や俺を女体化 しようとするのも、ぶっちゃけそこやん。
あの人、式 は女やないとあかんのや。
舞 の他に、前の地震 でおかんが鯰(なまず)に食わせた式神 が、相当 な数はいたようや。
それは全部、女やった。
ちょうど舞 のように、可憐 な振袖 で着飾 った美貌 の式 が、次々、鯰(なまず)に喰 われたそうや。凄惨 な話やな。
秋津 家に伝 わる式神 のうち、荒 っぽい武闘 派 の奴 らは、暁彦 様を好 み、そうでもない者や、暁彦 様とは合わんという奴 は、おかんに憑 いてた。
当時、秋津 家におった蔦子 さんを選んで、神戸へ移 った者 もいてる。
式 は強けりゃいい、通力 があればいいというもんやない。
巫覡 と心を通 ずる相手 なんやしな、絶対 とは言わんまでも、一度や二度の肉体関係は最低でもあるもんや。
アキちゃん、信太 と寝 られるか?
無理無理 ! アキちゃん、てめえのケツは貸 さへんのやからな。ぶっちゃけそこやん。
俺ちょっと詳 しい言い過 ぎ?
ごめんやでアキちゃん。バージン、大事 にしてな。
無理 せんとって。これ以上のややこしい敵 が現 れるんは、俺ら迷惑 やから。
そういう訳 で、チーム秋津 は下の人だけで構成 されています。
信太 も無理 すんな。鳥さんと、神戸へ帰れ。
そう言うた訳 やないけど、アキちゃんは虎 を、蔦子 さんに返す腹 は決めてた。
元々 、鯰(なまず)の生贄(いけにえ)にするために、特別に借 りた式神 やったんや。アキちゃんが自分の力で調伏 したわけやない。
信太 は蔦子 さんの式 で、蔦子 さんに忠誠 を誓 うてる。
その蔦子 さんが、アキちゃんに行け、秋津 の坊 に仕 えろと命じたから、アキちゃんの式 になれたんや。
いまやその必要性 は消えた。
あとは信太 を、蔦子 さんに返 すだけや。
「いっぺん京都へいって、秋津 の坊 に会えと、蔦子 さんからの命で、来ました」
鳥が連れてきた信太 は、もうアロハは着てへんかった。
ごく普通 の服に、デニム着て、寒いんか一応 、カーキ色のワークコートを着てる。
髪 はあいにく虎 っぽいまだらの金髪 やけど、これは虎 やし、しょうがないんやろうな。
別人 みたいや。別人 なんかもしれへん。
信太 は前と変わらん、溶 けたバターみたいな色の黄色い瞳 をしてたが、前はキラキラしてたその目にも、どことなく力がなかった。
話しぶりも、よそよそしい。
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