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三都幻妖夜話(3)神戸編 30-34 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
30-34 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
896 / 928
30-34 トオル
寛太
(
かんた
)
はその
虎
(
とら
)
の横に立ち、心配そうに見てる。 こっちももうアロハ着てへん。京都パープルサンガのスタジアムコート着てる。 鳥さん。お前もっとTPOに合った
可愛
(
かわい
)
い服着ろ。育児が大変でそこまで気が回らんかったんか。 それともサッカーの
試合
(
しあい
)
をついでに見たんか。 まあ、火の鳥のチームやからな、サンガは。
興味
(
きょうみ
)
あったよな。 「先生、
信太
(
しんた
)
はな、
申
(
もう
)
し
訳
(
わけ
)
ないけど、先生のことも
憶
(
おぼ
)
えてないんや。でも
事情
(
じじょう
)
は
皆
(
みな
)
で話して聞かせて、
詳
(
くわ
)
しいとこまで知っとう。
式
(
しき
)
として
働
(
はたら
)
く
分
(
ぶん
)
には、中国での
記憶
(
きおく
)
があるし
困
(
こま
)
らへんやろうって、
蔦子
(
つたこ
)
さん言うてた」 もう
信太
(
しんた
)
に
触
(
ふ
)
れたらあかんていう、
我慢
(
がまん
)
の顔で、
寛太
(
かんた
)
は
虎
(
とら
)
をアキちゃんに
引
(
ひ
)
き
渡
(
わた
)
した。 「お
納
(
おさ
)
めください……」 すでに
涙
(
なみだ
)
ぐんでる顔で、
寛太
(
かんた
)
はアキちゃんに
一礼
(
いちれい
)
をして、
信太
(
しんた
)
を前に
押し出
(
おしだ
)
した。 それと向き合うチーム
秋津
(
あきつ
)
のメンバーは、アキちゃん以外は
回転台
(
かいてんだい
)
のある丸テーブルの席に着いてて、アキちゃんだけが
椅子
(
いす
)
から立ち、
信太
(
しんた
)
と鳥と、向き
合
(
お
)
うていた。
東華菜館
(
とうかさいかん
)
の二階の
個室
(
こしつ
)
や。
鴨川
(
かもがわ
)
沿
(
ぞ
)
いに建つ
瀟洒
(
しょうしゃ
)
なレトロビルで、夏には
川床
(
かわどこ
)
も出る
北京料理店
(
ぺきんりょうりてん
)
やけど、今は真冬やし
川床
(
かわどこ
)
はない。
信太
(
しんた
)
来るし、やっぱ
中華
(
ちゅうか
)
やろうって思うて、俺が
予約
(
よやく
)
入れといたんやけど、これちょっと、
桃饅頭
(
ももまんじゅう
)
とか食うてる空気やない。 いや、俺な、
一緒
(
いっしょ
)
に
飯
(
めし
)
食うたら、そういえばあん時、
中華街
(
ちゅうかがい
)
で
一緒
(
いっしょ
)
にフカヒレラーメン食うたなあ、あれ
美味
(
うま
)
かったなあ、とか言うて、
信太
(
しんた
)
があっさり思い出したりして! などと、
軽
(
かる
)
くダメ
元
(
もと
)
で思うてたんやけど、これ、あかん
方
(
ほう
)
やな。
朧
(
おぼろ
)
、
来
(
け
)
えへんしな。二回も
連絡
(
れんらく
)
してんのに、なんで
来
(
け
)
えへんのや、あいつは。 分かるけど! お前に会わせよういう
企画
(
きかく
)
やねんから
来
(
こ
)
いや。 まさか
白川
(
しらかわ
)
でおとんといちゃついてたりせえへんよな。 アキちゃんに電話させて、はよ来いって命令してもらおか? それくらいの
力尽
(
ちからづ
)
くでないと、あいつ
逃
(
に
)
げてまうんやないか。 「今日はな、お前に会わせたい
奴
(
やつ
)
がおって、来て
貰
(
もろ
)
うたんやけど、まだやし先に、今後の話のほう、しよか……」 アキちゃんは
信太
(
しんた
)
に、どういう
口調
(
くちょう
)
で話せばええんかなという顔で、話しづらそうやった。 元々、
信太
(
しんた
)
とは、あいつが死ぬちょっと前に
会
(
お
)
うて、ろくろくお
互
(
たが
)
い知り合う
間
(
ま
)
もないまま、あいつは死んでもうたんやったわ。 それでも以前は、
信太
(
しんた
)
は気さくな
奴
(
やつ
)
で、話しづらいってことはなかった。 いつもにこにこ
機嫌
(
きげん
)
のええ
奴
(
やつ
)
やったしな、
調子
(
ちょうし
)
もようて、すぐ
打
(
う
)
ち
解
(
と
)
けたんやん。そうやったよな。 でも新しいほうの
信太
(
しんた
)
は、にこりともせえへん。
真顔
(
まがお
)
でアキちゃんを見て、ただ、
頷
(
うなず
)
いただけやった。 「
座
(
すわ
)
ろか……」
亨
(
とおる
)
、
間
(
ま
)
が
持
(
も
)
たへんと書いてある顔で、アキちゃんは俺を見た。 そやな。でも、お前が
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
で、
信太
(
しんた
)
の
主人
(
しゅじん
)
やから、しゃあないよな。がんばれアキちゃん。
信太
(
しんた
)
はアキちゃんに
促
(
うなが
)
されて、丸テーブルの、アキちゃんの
隣
(
となり
)
の席に
座
(
すわ
)
った。 アキちゃんが
座
(
すわ
)
るまで、自分は
座
(
すわ
)
らへん。そういう、
妙
(
みょう
)
にきっちりしたところだけは、前の
信太
(
しんた
)
のままや。 でもそれは、人に
仕
(
つか
)
える
者
(
もん
)
の
常識
(
じょうしき
)
でしかのうて、
信太
(
しんた
)
らしさと言えるのかどうか。 「なんか食う?」 レトロっぽいレザーケース入りのメニュー
表
(
ひょう
)
を
信太
(
しんた
)
に見せて、アキちゃんは聞いてやってたが、
信太
(
しんた
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
そうにアキちゃんの顔を見るだけで、首を横に
振
(
ふ
)
った。 「先生」
信太
(
しんた
)
がじいっとアキちゃんを見て、言うた。 「先生が俺の
主人
(
しゅじん
)
なんですか? 俺は自分は
蔦子
(
つたこ
)
さんのもんやと思うてたけど、
違
(
ちが
)
うんやって、聞いて」 「俺は
一時的
(
いちじてき
)
にお前を
借
(
か
)
り
受
(
う
)
けただけや。それについては……今日、話そう」 よし、とりあえずビール。こうなったら酒の神の力を
借
(
か
)
りよう。楽しい
酒盛
(
さかも
)
りや。
座
(
ざ
)
の
緊迫感
(
きんぱくかん
)
に
耐
(
た
)
えられず、俺は個室の外ににょろにょろ
這
(
ほ
)
うていって、おねえさんに人数分のビールを注文した。 あとは
適当
(
てきとう
)
に料理持ってきてください。おすすめコースとかでええし。
水煙
(
すいえん
)
はほとんど何も食わんし、鳥さんもそうか。でも俺と犬とアキちゃんと
虎
(
とら
)
は、めちゃめちゃ食うはずやし、なんぼでも持ってきて。 そう言うて、また部屋ににょろにょろ
戻
(
もど
)
ったら、アキちゃんは
早速
(
さっそく
)
、
本題
(
ほんだい
)
を話してた。 「お前のことは、
蔦子
(
つたこ
)
さんに
返
(
かえ
)
そう思うてる。お前がもし京都にいたいんやったら別やけど、そういうことは無いやろ?
寛太
(
かんた
)
と
神戸
(
こうべ
)
に帰りたいやろう」 「先生がそう言うても、今日のところは帰るなと言われてます。
蔦子
(
つたこ
)
さんが
後日
(
ごじつ
)
、
迎
(
むか
)
えに来るって」 たぶん、
無礼
(
ぶれい
)
やと言うことなんやろう。
蔦子
(
つたこ
)
おばちゃまが言いたいのは。
信太
(
しんた
)
がアキちゃんとこに
嫌々
(
いやいや
)
来て、さっさと帰るのも、
本家
(
ほんけ
)
に
無礼
(
ぶれい
)
やし、せっかく来た
式
(
しき
)
を、家にも入れんと追い返すんは
分家
(
ぶんけ
)
に
無礼
(
ぶれい
)
や。 そやから返すにしても、
一旦
(
いったん
)
本家
(
ほんけ
)
にいれて、それを
後日
(
ごじつ
)
、
蔦子
(
つたこ
)
さんが
粛々
(
しゅくしゅく
)
といただきに
参上
(
さんじょう
)
するという、そういう
形式
(
けいしき
)
をとるんやろうと、
水煙
(
すいえん
)
は言うてた。
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椎堂かおる
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