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30-46 トオル

勝手(かって)なことして悪いけど、俺からの(おそ)いクリスマスプレゼントやし。いや、お年玉(としだま)? 結婚(けっこん)(いわ)い? 誕生日(たんじょうび)プレセント? ……なんやろな。とにかく、お前にやるわ。絵を()一生(いっしょう)を」  ぽかんとして、アキちゃんは俺を見ていた。 「そこで絵()いて、いつまでもいつまでも(しあわ)せに()らそう。俺と。お前が好きな、(だれ)でもいい、(みんな)と。(みんな)そこに()いたらええし。おとんも、水煙(すいえん)も、犬も。怜司(れいじ)兄さんも? あの人は無理(むり)やな、エロすぎる。近所(きんじょ)でええか」  俺が真面目(まじめ)にプランニングしてるのに、アキちゃんは(わろ)うてた。  (おぼろ)はあかんよな、あいつ()ったら気が()るやん。おとんも絵()けへんしな。 「神棚(かみだな)も、作ったし」  特大(とくだい)のやつ。これで水煙(すいえん)収納(しゅうのう)できるんやで。すごいやろ。  ()まれる部屋(へや)もあるんやで。(みんな)(ぶん)ある。怜司(れいじ)兄さんが用意してくれた。  お風呂(ふろ)もあるんやで。何でもあるんや。そこで()らせるレベルやで。  俺ら(みんな)で、そこに住む?  それで、ハッピーエンドといこうや、アキちゃん。どうやろか。 「お前はそれでええんか」  俺を見るアキちゃんの顔は、苦しそうやった。息詰(いきづ)まる(あい)で、(むね)が苦しい。 「ええも何も……お前も言うてたやん。神戸(こうべ)で。お前が愛してるもんを、俺が好きではあかんのかって」  藤堂(とうどう)さんのことやで。アキちゃんそう言うてたやん。(おぼ)えてる?  アキちゃん(わす)れてんのかな。その場の(いきお)いで、無意識(むいしき)に言うてたんやろうしな。こいつも天然(てんねん)なんやから。  でも、お前がそう言うてくれて、藤堂(とうどう)さんと喧嘩(けんか)することもなく、仲良(なかよ)うしてくれたおかげで、俺は悪魔(サタン)の時代を終えられたんやん。  ありがとう、アキちゃん。俺すごく感謝(かんしゃ)してるんやで。ほんまやで。  せやしな、次は、俺がお前の全部を、愛してやる(ばん)かなあ、って。  おかしい? 俺って、変やろか、アキちゃん。  可笑(おか)しいなあって、アキちゃんは(わろ)うてて、すごい(こま)った顔やった。苦笑(くしょう)や。 「お前……(へん)やわ」 「そやろ、俺ら、()たもん同士(どうし)やな」  俺が(わろ)うて言うと、アキちゃんは(うなず)けばええのか、どうか、どないしたらええんやっていう顔になった。  どうしていいか分からんのやろうな。俺にそこまで(あま)えてええのか?  ええんやない。(あま)えて。俺はお前の神さんなんやし。(あま)えるもんやろ。神なんて。  アキちゃん。俺と最高のハッピーエンドを(むか)えてくれよ。お願いやわ。  俺はもう、お前の苦しい顔は見たないねん。いつも(わろ)うててほしい。  信太(しんた)やないけど、もう、お前の苦悩(くのう)する顔は見飽(みあ)きたわ。  あとは、そう、(おぼろ)が言うてたように、ただ俺に愛されて、好きな絵()いといてほしいねん。  たぶん俺も、それによって(しあわ)せになれる。  お前の(しあわ)せが俺の(しあわ)せ。  それはお前も同じやろ。  そうやっていうなら、これで俺ら、完全無欠(かんぜんむけつ)(しあわ)せになれるんやんか。 「考えさせて」  何をやねん。  アキちゃんは、行為(こうい)(しぶ)初心(うぶ)な女のように、つれなく(まよ)ってみせていた。  そやけど、ほんまはお前の(はら)は、決まってんのやろ。  俺の(さそ)いを(ことわ)れる(やつ)なんか、この()にはおらへんのやで。  でもまあ、待つわ。時が()ちるのを。俺には時間はいくらでもあるんやもん。 「(その)先生の絵でも見よか」  アキちゃんは()れくさそうに俺を(さそ)った。  右手を()し出し、俺の手を引こうとするんが、アキちゃんらしくないと言えば、そうやった。  学校では手(つな)がんといてくれって、ちょっと前には言うてたのにな。  変われば変わるもんやな、お前も。  それで遠慮(えんりょ)なく手を(つな)ぎ、俺とアキちゃんは(その)先生の絵があるブースまで、とことこ一緒(いっしょ)に行った。  ほんで、そこで画商(がしょう)西森(にしもり)()うた。  会場入ってすぐの(かべ)の、教授(きょうじゅ)たちの絵があるとこや。 「西森(にしもり)さん?」  (ひさ)しぶりやなって、ちょっと(うれ)しそうなアキちゃんの声で、画商(がしょう)西森(にしもり)はこっちに気づいた。 「おお、先生。道草(みちくさ)食うてました。(おそ)うなりまして……」  アキちゃんと話す西森(にしもり)態度(たいど)はもう、大先生(だいせんせい)(ぐう)するようやった。  アキちゃんの絵をまだ見てへんはずやのに、もうこれか。  (その)先生もそこに()った。  西森(にしもり)と話してたんか。知り合いやった?  アキちゃんの絵を大学まで取りに来た時に、先生とも()うてたん?  ちゃうねん。西森(にしもり)、ここで(その)先生の絵を見たんや。  それが、きっかけやった。 「ちょっと、先生、これどう?」  やや高揚(こうよう)した声で、西森(にしもり)はアキちゃんの手を引いて絵の前に()れていき、なんと(その)先生の絵を見せたんや。  野菜や。どうせ京野菜(きょうやさい)やろ、って。アキちゃんも思うてたようで、その絵を見るまで、なんですかって笑うてた。  そやけど、(じく)(かざ)られている一(まい)の絵を見て、アキちゃん、ぎょっとしてた。  ぎょっとしたというか。もしかすると、ぎゅっと来たんかもしれへん。  その絵、(その)先生の絵、野菜ではなかってん。  アキちゃんの絵やった。  アキちゃんが、絵画室(かいがいしつ)で、絵を()いている絵やねん。

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