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三都幻妖夜話(3)神戸編 30-50 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
30-50 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
912 / 928
30-50 トオル
苑
(
その
)
先生が、オロオロと、テレビカメラについてきていた。 あかん。この人おったかて、何の
防衛
(
ぼうえい
)
にもならん感じがありありとしてる。
世間様
(
せけんさま
)
の
攻撃
(
こうげき
)
の前では、
濡
(
ぬ
)
れた
障子紙
(
しょうじがみ
)
程度
(
ていど
)
の
防御力
(
ぼうぎょりょく
)
にしかならん。 俺、ちょっと、
隠
(
かく
)
れとこう。
苦手
(
にがて
)
やねん。
記録
(
きろく
)
に残されるんが。
物
(
もの
)
の
怪
(
け
)
やしな、
悪魔
(
サタン
)
やねんから。 俺はずっと、人間たちから身を
隠
(
かく
)
して生きてきた、
日陰
(
ひかげ
)
の
蛇
(
へび
)
さんなんや。
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
とは
違
(
ちが
)
う。 と、思ったのに、アキちゃんが手を
離
(
はな
)
さへんのや! こいつ
固
(
かた
)
まってるで。たぶん
忘
(
わす
)
れてんのやで、俺と手を
繋
(
つな
)
いでたことを。 今日は一日、
緊張
(
きんちょう
)
してたし、今もしてる。いっぺん
繋
(
つな
)
いだ俺の手に、ほっとしてもうて、
離
(
はな
)
されへん。
西森
(
にしもり
)
さんと話す時でさえ、ずっと
繋
(
つな
)
いでたんや。 変やろ? 変や。アキちゃんの
苦手
(
にがて
)
やったやつや。それでもアキちゃんは気づいてへん。 ちょ。俺。どうする? 手を
振
(
ふ
)
りほどいて
逃
(
に
)
げる? このまま
居
(
お
)
ったらカメラ
回
(
まわ
)
ってまうやんか。 俺はそれに
映
(
うつ
)
らないでいることは、できる。そういう
能力
(
のうりょく
)
があるんや。
皆
(
みんな
)
も知ってくれてるように。 そうやけど、その
能力
(
のうりょく
)
を俺が
使
(
つこ
)
うたら、カメラに
映
(
うつ
)
るんは、
誰
(
だれ
)
もいないのに
誰
(
だれ
)
かと手を
繋
(
つな
)
いでるアキちゃんか、もっと最悪やったら、カメラで
撮
(
と
)
ったのに、
写
(
うつ
)
ってなかった
誰
(
だれ
)
かや。 それはホラーや。
怖
(
こわ
)
いなあって、ネットの
動画
(
どうが
)
や、
誰
(
だれ
)
かが遊びで
撮
(
と
)
った写真やったら、それで
誤魔化
(
ごまか
)
しもきくよ。
心霊
(
しんれい
)
現象
(
げんしょう
)
や。そう思うとけ。
実際
(
じっさい
)
そうや。 そやけどこのカメラ、日本の公共放送のロゴマーク入ってる! これ、これにカメラに
映
(
うつ
)
らない人が
写
(
うつ
)
ってたらヤバない?
亨
(
とおる
)
ちゃん、マッドサイエンティストに
捕
(
と
)
らえられて
NASA
(
ナサ
)
で
解剖
(
かいぼう
)
されるんやない⁉︎ どないしよう俺、
標本
(
ひょうほん
)
の
蛇
(
へび
)
になってまう! それやったら、いっそ、
本間
(
ほんま
)
暁彦
(
あきひこ
)
が
謎
(
なぞ
)
の
美青年
(
びせいねん
)
となぜか手を
繋
(
つな
)
いでる
映像
(
えいぞう
)
のほうが
無難
(
ぶなん
)
なくらいやない⁉︎ 分からへん、そんな、考えてる
暇
(
ひま
)
がない! だってもうカメラ
回
(
まわ
)
ってんのやもん。
亨
(
とおる
)
ちゃん、なるべく
存在感
(
そんざいかん
)
消そうと思って、カメラとは
逆
(
ぎゃく
)
の、アキちゃんの絵の
方
(
ほう
)
見といた。 そして気付いた。 あっこれ。あかんやつや。
素知
(
そし
)
らぬ顔でよそ
向
(
む
)
いてみたら、絵が目に入り、そこで俺とアキちゃんがめちゃめちゃやってた。 『
永遠
(
えいえん
)
』やん。それが
背景
(
はいけい
)
ってどうなん。どうよ。 立ち
位置
(
いち
)
を選べ、アキちゃん! でも気づいてへん‼︎ できるだけ人物の
陰
(
かげ
)
とかなってて、あんまり全体の絵が見えてませんように! もう、そう
願
(
ねが
)
うしかない。 俺は
若干
(
じゃっかん
)
、青ざめていたよな。先が読めてもうて。 「
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
です」 アキちゃんは、いかにもええとこの
坊
(
ぼん
)
やと思える、
品
(
ひん
)
のある声で話していた。 アキちゃんは、いつもそうや。一見、
非
(
ひ
)
の
打
(
う
)
ち
所
(
どころ
)
がない、ええ子や。 アキちゃんがちゃんと
改
(
あらた
)
まって話せば、その口ぶりも
態度
(
たいど
)
も、その
男前
(
おとこまえ
)
の顔も、他人に
好印象
(
こういんしょう
)
しか
与
(
あた
)
えへん。 おかんの
躾
(
しつけ
)
が良かったんやな。どこに出しても
恥
(
は
)
ずかしくない息子として、あの人はアキちゃんを育てた。 「
本間
(
ほんま
)
さんでは?」 「
改名
(
かいめい
)
しました。家を
継
(
つ
)
ぐ
都合
(
つごう
)
がありまして」 「それでは、ご
卒業後
(
そつぎょうご
)
は、お
家
(
うち
)
のご
職業
(
しょくぎょう
)
を
継
(
つ
)
がれるのですか? 絵のほうは……」 アキちゃんにマイク向けてる女は、
背後
(
はいご
)
に
並
(
なら
)
ぶ二十八
枚
(
まい
)
の絵を見て、
分
(
わ
)
からへんという顔を
一瞬
(
いっしゅん
)
した。 なんでこいつ、こんな絵を
描
(
か
)
けるのに、絵をやめて家を
継
(
つ
)
ぐんや、という顔やった。 「
卒業
(
そつぎょう
)
したら……」 アキちゃんは、
一瞬
(
いっしゅん
)
口ごもって、
西森
(
にしもり
)
さんを見た。
画商
(
がしょう
)
西森
(
にしもり
)
は、うんうんと、力強く
頷
(
うなず
)
き、アキちゃんにちゃんと言えと
促
(
うなが
)
していた。 ちゃんと言え、お前は俺のもんになるんや。さっき
約束
(
やくそく
)
したやないか。 今さら
逃
(
に
)
がさへんで。
鉄砲
(
てっぽう
)
持って来るで、俺は。 そういう
眼力
(
がんりき
)
が
西森
(
にしもり
)
の目にはあり、アキちゃんが
逃
(
に
)
げられるわけあらへん。 「
画家
(
がか
)
になるつもりです」 ほぼ言わされた
感
(
かん
)
はあったが、アキちゃんは言い切った。
西森
(
にしもり
)
、
満面
(
まんめん
)
の
笑
(
え
)
み。 「そうですか。どのような絵を
描
(
か
)
いていくおつもりですか」 えっ、どのような? そんなん考えてへんで。アキちゃん、
欲望
(
よくぼう
)
の
赴
(
おもむ
)
くままに
描
(
か
)
いてるだけやで。ノープランなんやから。 俺は
焦
(
あせ
)
った。アキちゃんがそんなこと考えてるとは思いもよらんで。 「
漠然
(
ばくぜん
)
としてますが……見た人が
幸
(
しあわ
)
せになるような絵を
描
(
か
)
きたいです。世の中の、
上
(
うわ
)
っ
面
(
つら
)
やのうて、自分の目で見て思った、ほんまもんの
景色
(
けしき
)
を
描
(
か
)
いて、それを
皆
(
みんな
)
にも分かってもらえるような絵を、
描
(
か
)
いていけるように、
努力
(
どりょく
)
したいです」 へーそうなんや。へー。意味わからんけど俺、なんかええやんって感じするし、ええんやない? って、思うてたらな、マイクのお姉さん、俺らの
背後
(
はいご
)
にある、めちゃめちゃやってる絵を見てた。
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椎堂かおる
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