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30-52 トオル
それ、デマやん。ほんまの話ちゃうんや。
あいつが、暁彦 様との熱愛報道 を画策 して、下手 こいた結果 やん。
湊川 怜司 は、おとんがアキちゃんそっくりやという点を計算に入れるのを忘 れた上、ネットの拡散力 も計算しきれてへんかった。
そっち方面 、手薄 やったなあ。練習しとくわ、って兄さん言うてた。
いずれは制御 できるようになるんかもしれへんな。
そやけど今は制御 するとこまでいってへん。めっちゃ暴走 させてる。
おとんと朧 の木屋町 チュー写真は、アキちゃんの顔認証情報 をくっ付けて、ネットで暴 れ回ってる。
見たいんや、皆 。あいつの顔が美しいからや。
美しいもんからは皆 、目が離 せへん。エロいもんからもや。
美しくてエロい、朧 は無敵 や。男も、女も、お爺 さんもお婆 さんも、男の子も女の子も、ユミちゃんですら見たがる。
散歩 しててコンビニとか寄 って、ユミちゃんに蜜柑 ジュースを強請 られ、無限 に買 うてやる日課 の時にも、レジ横 で売ってたスポーツ誌 を見て、お父さん! 言うてユミちゃんが朧(おぼろ)のチュー写真を喜んでいたって、おとんが言うてた。
そうかそうか、ユミちゃんにはおとんが分かるんやなあ、賢 いなあ、そやけどあれ、困 るって。水煙 が怒 ってて怖 いねんてさ。
ユミちゃん、そんなもん子供 が見るもんやない。あかん。朧 はお前にはまだ早いわ。大人になってからにしとき……。
そんなふうに、皆 、見たいもんやから、ネット上の話も全然 消えへん。無限 に拡散 し続け、消えるどころか、情報 もっとないの、みたいな話にもなる。
「勝呂 くんは?」
キラキラした目で、お姉 さんはさらに聞いた。
勝呂 くんかあ、そっちも出てくんのか、お姉 さん。
勝呂 くんは今日は家にいてます。CGの課題 やってます。
俺に遠慮 してくれて、卒制 見るのは明日 行きますて言うてたでワンワン。最近めっきり、大人しいええ子やわ。
でもそういう意味やないんですよね。犬とはやってへんのかいう意味ですよね?
「勝呂 は大学の後輩 です。何遍 も言うけど……」
アキちゃんさすがに不快 そうやった。そこは触 れられとうない傷 や。
「あいつは他に行くところがないんです。そやから家 に居 るんです。それだけのことなんやし、あいつにも将来 があるんや。好 き勝手 なこと言わんといてください」
じろりと睨 むような目で、アキちゃんは真剣 に頼 んだが、お姉 さんはその目が何かのツボに来る人やったらしく、胸元 にささげ持ったマイクをもじもじ揉 みながら、ハイ、と赤い顔で言うた。
うん。ええよな。アキちゃんのこういう時の顔な。
視線 まっすぐやし、ドキッとするよな。生 で見つめ合うと。
「大切 にしてらっしゃるんですね」
お姉 さんはうっとり言うた。
何を⁉︎ 犬を⁉︎ してる⁉︎
何回か殺 しとるけど、気持ちの上ではしてるかも⁉︎ 寸止 めやけどな!
「では湊川 さんは?」
お姉 さんはもう、仕事でやったインタビュー時間を超 えて質問 してきていた。
俺らに聞きたい話は、こっちが本題 やったんですか?
「湊川 怜司 はおとんのツレです‼︎」
頭に来たんか、アキちゃんは正直すぎた。お姉さんは、えっ、てなってた。
「お父様はお亡 くなりになったか、誰 かわからないって……」
そういえば、公式にはそういう情報 やった。
詳 しいな、姉ちゃん。お前ほんまにアキちゃんファンやな。
大阪 の狂犬病 騒 ぎの時に流れた噂 では、確 かに、そないな話になってたんや。週刊誌 とかでやで?
「父やありません。えーーーーと……」
えーと言うて、アキちゃんは俺を見た。
助けろ! なんか言うてくれ亨 、って、訴 えてくる目や。
「お兄ちゃんやで、アキちゃん。暁雨 さんは、お前の生き別れやった双子 の兄貴 。最近グアテマラから帰ってきたんやったやろ?」
俺は設定 を教えてやった。
西森 さんも、そうやでって頷 いている。おとんのグアテマラ説 ですでに洗脳 済 みの証 や。
「そう……その……兄です。兄の、ツレ……です」
アキちゃん、しどろもどろやで。
そうや暁雨 のツレや。配偶者 やない、今んとこただのツレ。
配偶者 やなんて言うたる義理 ないで。俺らに散々 迷惑 をかけた朧 に、こんなとこで確定的 な既成事実 を作ってやって、ウェディングブーケを回 してやることはないんや!
「あの写真はお兄様 だったんですか? そんな情報 ないけど……双子 なんて話、できすぎでしょう? そっくりですよ? 本当は本間 先生なんじゃないんですか?」
違 います。ほんまに違 います。
お姉 さんに疑 いの目で見られて、アキちゃんめっちゃ動揺 していた。
「俺はあんなことしてません! 亨 一筋 なんやし! あんなところで湊川 とキスなんかしません。絶対 に!!」
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