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三都幻妖夜話(3)神戸編 30-54 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
30-54 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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30-54 トオル
通話
(
つうわ
)
がつながると、その
向
(
む
)
こうから、とほほみたいな顔の
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
が出た。
画像通話
(
がぞうつうわ
)
やった。なんでテレビ電話や。 そんなん、てめえの美しい顔を、おとんに見せるためやわ。 兄さんはマメな
妖怪
(
ようかい
)
なんやから。おとんが自分を
忘
(
わす
)
れんように、ちょいちょい
美貌
(
びぼう
)
は見せるで。
暁雨
(
ぎょうう
)
さんかて、どうせ
面食
(
めんく
)
いなんやしな。
朧
(
おぼろ
)
の顔が好きなんや。 「
堪忍
(
かんにん
)
やで、
雀
(
すずめ
)
ちゃん。絵がいっぱいあったもんやさかい。
全部
(
ぜんぶ
)
見てたら、今になったんや。すぐ行くわ」 おとんは
素直
(
すなお
)
なええ子のように
謝
(
あやま
)
っていた。 しかし
平気
(
へいき
)
で
朧
(
おぼろ
)
を一時間以上も
路駐
(
ろちゅう
)
で待ちぼうけさせてたんか。さすがは
秋津
(
あきつ
)
の
坊々
(
ぼんぼん
)
や。 ほんま
頼
(
たの
)
むでと、待ちくたびれた
様子
(
ようす
)
の
朧
(
おぼろ
)
は、
運転席
(
うんてんせき
)
に
突
(
つ
)
っ
伏
(
ぷ
)
していた。 それでも、おとんに
嫌
(
いや
)
な顔はせえへん。 兄さん、ベタ
惚
(
ぼ
)
れなんやしな。
乱
(
みだ
)
れた
髪
(
かみ
)
のしどけない
姿
(
すがた
)
で、
暁彦
(
あきひこ
)
様ええわあ、好きやわあて、
困
(
こま
)
った顔して、にっこりとしてた。 向こうにも、こっちの
映像
(
えいぞう
)
が見えてんのやからな。アキちゃんの、おとんの顔が。 「
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
‼︎」
報道
(
ほうどう
)
のお
姉
(
ねえ
)
さんが、一オクターブぐらいブチ
抜
(
ぬ
)
いた声で、急に
叫
(
さけ
)
び、おとんの電話を
奪
(
うば
)
った。 そのとたんに
朧
(
おぼろ
)
の顔が、急に
険
(
けわ
)
しいなった。 「
誰
(
だれ
)
やお前。何でお前が俺の男の電話に出るんや」
朧
(
おぼろ
)
、めっちゃ
怒
(
おこ
)
ってる。声も
明
(
あき
)
らかに
怒声
(
どせい
)
や。
暁彦
(
あきひこ
)
様と話す時の声とちがうやん、兄さん。声作ってたんか。ほんまに
二面性
(
にめんせい
)
あるんやからなあ。 「はじめまして! ファンです‼︎ いつも見てます! 今日は
取材
(
しゅざい
)
で来ました。さっき、
湊川
(
みなとがわ
)
さんのお
相手
(
あいて
)
が、こっちの人じゃなく、こっちだと聞いて」 電話にアキちゃんとおとんを
映
(
うつ
)
して、お
姉
(
ねえ
)
さんは
説明
(
せつめい
)
してた。 そうや、そっちが
怜司
(
れいじ
)
兄さんのツレの
暁雨
(
ぎょうう
)
さんで、こっちは俺のツレの
暁月
(
ぎょうげつ
)
先生です。ふたりともデビューしたてだよ。よろしくね! 「
聞
(
き
)
き
捨
(
ず
)
てならんな。そこで待っとけ」 電話の向こうの
怜司
(
れいじ
)
兄さんは、
険
(
けわ
)
しい顔のままで言い、
通話
(
つうわ
)
を切った。 そこから、
一瞬
(
いっしゅん
)
やったような気がするわ。歩いて来たわけやなさそう。 兄さんまた、テレポートしたんやな。 それでも
美術展
(
びじゅつてん
)
の会場は、
展示
(
てんじ
)
用の
壁
(
かべ
)
だらけで
死角
(
しかく
)
も多いし、
警備
(
けいび
)
用の
定点
(
ていてん
)
カメラをちょろまかせる兄さんが、
見咎
(
みとが
)
められることはないんやわ。
朧
(
おぼろ
)
は
壁
(
かべ
)
の向こうから現れた。 つかつか
歩
(
あゆ
)
み
寄
(
よ
)
ってきて、
報道
(
ほうどう
)
のお
姉
(
ねえ
)
さんの前に立つと、お
姉
(
ねえ
)
さんの体をぎゅーっといきなり
抱
(
だ
)
きしめた。 「ありがとう! わかってくれたんお前だけやわ!」
顔認証
(
かおにんしょう
)
の話やな⁉︎
木屋町
(
きやまち
)
チューの写真の男がアキちゃんやないという
件
(
けん
)
で、兄さんはずっと
苦労
(
くろう
)
していた。 他人の目で見て、それがどんなアホな
悩
(
なや
)
みでも、
一応
(
いちおう
)
、兄さんは
悩
(
なや
)
んでいたんやな。 俺、アホらしいて、
涙
(
なみだ
)
出てきそうやったで。 「もういっぺん
撮
(
と
)
る? キスしよか。それネットにあげて広めてくれ。これ、
暁雨
(
ぎょうう
)
さんやで。
絵描
(
えか
)
きやねん。こっちは
違
(
ちが
)
うんや。
全然
(
ぜんぜん
)
似
(
に
)
てへんやろ? 俺の
暁雨
(
ぎょうう
)
さんのほうが絵も
上手
(
うま
)
いしな?」 兄さん、
猫
(
ねこ
)
なで
声
(
ごえ
)
で、お
姉
(
ねえ
)
さんの耳に
囁
(
ささや
)
いてる。 それはどうも
朧
(
おぼろ
)
の
妖術
(
ようじゅつ
)
や。
囁
(
ささや
)
く兄さんの
唇
(
くちびる
)
から、もやもやとした
陽炎
(
かげろう
)
のようなものが
湧
(
わ
)
いて、お
姉
(
ねえ
)
さんの耳に入っていったわ。 分かった、あれが
噂
(
うわさ
)
やな。ああやって人間を
操
(
あやつ
)
れんのや!
聞
(
き
)
き
捨
(
ず
)
てならんは、こっちの
台詞
(
せりふ
)
やで……。 おとんよりアキちゃんの絵が
下手
(
へた
)
やて言うんか、おのれは……。 今すぐ
変転
(
へんてん
)
して、ウロコ:対決たいけつ)しよか? お前は
龍
(
りゅう
)
かもしれへんけどな、こっちも
大蛇
(
おろち
)
や。
負
(
ま
)
けへんで! おとんを
引
(
ひ
)
っ
張
(
ぱ
)
り
寄
(
よ
)
せて、マイク持ってるお
姉
(
ねえ
)
さんと気さくに話している
朧
(
おぼろ
)
は、俺の
殺気
(
さっき
)
にはまだ気づいてはいない。
殺
(
や
)
るなら今やな。 「ニュース用の
取材
(
しゅざい
)
なので、写真は用意してきてないんです。
私
(
わたし
)
の
携帯
(
けいたい
)
のカメラでもよければ
是非
(
ぜひ
)
」 目の中に
星
(
ほし
)
がある顔で、お
姉
(
ねえ
)
さんは自分の電話をすでに
構
(
かま
)
えてた。 さあどうぞ、という空気に、よし今やな! という
意気込
(
いきご
)
みで、
朧
(
おぼろ
)
はおとんにキスしようとしたが、二度もしてやられるおとんではない。 「やめろ! あかんて。
水煙
(
すいえん
)
に
怒
(
おこ
)
られるやないか」
苦笑
(
にがわら
)
いのまま、キスから
身
(
み
)
をかわす
暁彦
(
あきひこ
)
様に、
朧
(
おぼろ
)
はショックを受けたようで、青ざめて言うた。 「また
水煙
(
すいえん
)
か?
水煙
(
すいえん
)
? お前そればっかりやな! あの
太刀
(
たち
)
と俺と、どっちがええんや。今日こそはっきり言うてもらうで」 言うてまうの⁉︎
水煙
(
すいえん
)
やわって言うたら、ここがお前の死に場所になるんやで、
朧
(
おぼろ
)
。 おとん、そうやて言うかもしれへんで。前も
水煙
(
すいえん
)
を
選
(
えら
)
んだんやろ。それでお前は
捨
(
す
)
てられたんや。 俺の
教訓
(
きょうくん
)
を教えとく。
水煙
(
すいえん
)
とは
争
(
あらそ
)
うな。
勝
(
か
)
ち
目
(
め
)
はない。
水煙
(
すいえん
)
はな、こいつらの親みたいなもんなんや。 いくら好きでも、親とツレとは
別次元
(
べつじげん
)
。
争
(
あらそ
)
うほうが、どうかしてるんやで。
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椎堂かおる
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