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三都幻妖夜話(3)神戸編 30-57 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
30-57 トオル
作者:
椎堂かおる
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30-57 トオル
今度
(
こんど
)
は
油絵
(
あぶらえ
)
で
描
(
か
)
くわって、アキちゃん言うてた。 まあ、
藤堂
(
とうどう
)
さんちの
地下室
(
ちかしつ
)
に、日本画よりは、
洋画
(
ようが
)
のほうが
似合
(
にお
)
うてるかなあ。 どんな絵なんか、楽しみやわ。 でも
急
(
いそ
)
がんと、
納品
(
のうひん
)
の日もあるで。
鉄
(
てつ
)
は
熱
(
あつ
)
いうちに
打
(
う
)
てや。 アキちゃんそれでまた、アトリエにお
篭
(
こも
)
りや。 それが、
記念
(
きねん
)
すべき俺らのアトリエでの、アキちゃんの最初の絵になった。
西森
(
にしもり
)
さんが
急
(
せ
)
かしたリフォーム工事が、なんでか
異常
(
いじょう
)
に早う進み、それは
怜司
(
れいじ
)
兄さんが
神戸
(
こうべ
)
からごっそり引き上げて来た、黒いダスキンみたいな
物
(
もの
)
の
怪
(
け
)
のせいやった。 めっちゃよう働く。
壁紙
(
かべがみ
)
も
貼
(
は
)
るし、電気の
配線
(
はいせん
)
かてするしやな、いらん
壁
(
かべ
)
は食うてしまう。仕上げに
掃除
(
そうじ
)
までピッカピカにしてくれるんやで。 俺もう
掃除
(
そうじ
)
せんでええんやーん‼︎ 何とあの、ヴィラ
北野
(
きたの
)
で
閉
(
と
)
じ
込
(
こ
)
められていた、
怜司
(
れいじ
)
兄さんのウラヌス
位相
(
いそう
)
で
別
(
わか
)
れたっきりやった、俺の
可哀想
(
かわいそう
)
なポチも、その
下等霊
(
かとうれい
)
の
集団
(
しゅうだん
)
の中でちゃんと生きとってくれたんや。 よかったなポチ!
風呂
(
ふろ
)
掃除
(
そうじ
)
して! めっちゃ助かるう! ありがとう! そのようにして俺らチーム
秋津
(
あきつ
)
は、なし
崩
(
くず
)
しに
引
(
ひ
)
っ
越
(
こ
)
したんや。 アキちゃん絵
描
(
か
)
いてて
泊
(
と
)
まり
込
(
こ
)
みやしさ、俺も
寂
(
さび
)
しいからアトリエ行くやん。
神棚
(
かみだな
)
あるし、
部屋
(
へや
)
もあんのやから、
水煙
(
すいえん
)
も
連
(
つ
)
れてくやろ。 そしたら犬だけ
出町
(
でまち
)
に置いとくのも、あいつ
哀
(
あわ
)
れっぽいやないか?
朧
(
おぼろ
)
は
来
(
こ
)
んといて。
来
(
こ
)
い言うても
来
(
け
)
えへんやろうけど。 おとんと
白川
(
しらかわ
)
でべったりやし。 でも、おとんが絵
描
(
か
)
いてて
遊
(
あそ
)
んでくれへん時は、顔だしてくれたかて、かまへんで。 けど兄さん、
邪魔
(
じゃま
)
したないし、なるべく
来
(
け
)
えへんのやって。 心配せんでも、おとんが
白川
(
しらかわ
)
にふらっと
通
(
かよ
)
うてくるしな。
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
、
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
。 そんなこんなで
引
(
ひ
)
っ
越
(
こ
)
し
完了
(
かんりょう
)
や。
卒業式
(
そつぎょうしき
)
より
一足
(
ひとあし
)
早う、アキちゃんのアトリエ生活が始まったんやで。
祇園
(
ぎおん
)
のアトリエ使うかどうか、考えさせてて言うてたけど、あれは何やった?
結局
(
けっきょく
)
、アキちゃんの
返事
(
へんじ
)
を俺は聞いてへん。気付いたらもう住んどるわ。 かまへん。
案
(
あん
)
ずるより
産
(
う
)
むが
易
(
やす
)
しどす。アキちゃんのおかんもそう言うてたやん。 やってみて、
嫌
(
いや
)
やったら
出町
(
でまち
)
へ
戻
(
もど
)
ればええんや。
引
(
ひ
)
っ
越
(
こ
)
したからって、別に
出町
(
でまち
)
のマンションが消し飛んだ
訳
(
わけ
)
やない。 やってみよ、アキちゃん。走りながら考えよう。そのほうが、俺ららしいやろ。 そういうのが、絵を
描
(
か
)
くツレの
背中
(
せなか
)
を見守る俺の、今の
心境
(
しんきょう
)
やわ。 とりあえず
順調
(
じゅんちょう
)
やった。 犬は
真面目
(
まじめ
)
に大学に
通
(
かよ
)
い、
毎朝
(
まいあさ
)
、
京阪
(
けいはん
)
と
叡電
(
えいでん
)
乗って、また帰ってきて
課題
(
かだい
)
やってる。
水煙
(
すいえん
)
は、
神棚
(
かみだな
)
あるわ、こんなもん
要
(
い
)
らんかったのにとか言いながら、やっぱり
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
くなあ、て言うてる。そうやろ、そうやろ。
皆
(
みんな
)
で
飯
(
めし
)
作って食うて、時々、テレビで
映画
(
えいが
)
観
(
み
)
て、SFオタクのアキちゃんと犬の会話に入っていけん何かを感じたり、ダウンタウン見てげらげら笑う。 夜がふければ
皆
(
みんな
)
、自分の
寝室
(
しんしつ
)
に
篭
(
こも
)
り、
干渉
(
かんしょう
)
はせえへん。特に
満月
(
まんげつ
)
の
晩
(
ばん
)
にはそうや。 アキちゃんは俺を
抱
(
だ
)
く。
毎晩
(
まいばん
)
抱
(
だ
)
きしめる。俺だけを。
毎夜
(
まいよ
)
、深く
交
(
まじ
)
わりながら、
亨
(
とおる
)
、お前が好きや、今の俺にはお前が全てやと、アキちゃんはそれがすごく、
嬉
(
うれ
)
しいことのように言う。 絵を
描
(
か
)
いてて、昼間はあんまり
抱
(
だ
)
き
合
(
お
)
うたりせえへんから、夜は
寂
(
さび
)
しいなって、なおいっそう
熱
(
あつ
)
い。
熱
(
あつ
)
く
求
(
もと
)
め
合
(
お
)
うて、どろどろに
溶
(
と
)
けていく。 どっちが自分の体か、自分の声か、分からへんようになるまで。くたくたになるまで
抱
(
だ
)
き
合
(
お
)
うて、
満
(
み
)
たされて
眠
(
ねむ
)
る。 朝までずっと、二人きりで。手を
握
(
にぎ
)
り、
身
(
み
)
を
寄
(
よ
)
せ
合
(
お
)
うて。
深
(
ふか
)
い
深
(
ふか
)
い、
深
(
ふか
)
い
幸
(
しあわ
)
せの中で。 そうした
幾夜
(
いくよ
)
かが
過
(
す
)
ぎ、月が
満
(
み
)
ち
欠
(
か
)
けをして、アキちゃんの
卒業
(
そつぎょう
)
の時がやってきた。 大学の
卒業式
(
そつぎょうしき
)
のあと、アキちゃんは
苑
(
その
)
先生に、
卒業後
(
そつぎょうご
)
は
祇園
(
ぎおん
)
のアトリエで
絵描
(
えか
)
きになりますと
報告
(
ほうこく
)
して、
深々
(
ふかぶか
)
と頭を下げた。 考えるて言うてたことに、
決心
(
けっしん
)
がついたんやな。 先生に教えていただいた
技
(
わざ
)
で、一生好きな絵を
描
(
か
)
いていけます。 ほんまにありがとうございました。 今後ともご
指導
(
しどう
)
ご
鞭撻
(
べんたつ
)
、よろしゅうお
頼
(
たの
)
み
申
(
もう
)
します。
苑
(
その
)
先生にそう言うアキちゃんはもう、
生意気
(
なまいき
)
な
画学生
(
ががくせい
)
やのうて、ひとりの社会人やった。 全く社会人らしい
社会性
(
しゃかいせい
)
はのうて、絵しか
描
(
か
)
かへんのやけどな。 そやけど、
苑
(
その
)
先生には、
感激
(
かんげき
)
してもらえたようや。 教え子の成長と、
別
(
わか
)
れの
気配
(
けはい
)
に、先生も熱く
涙
(
なみだ
)
ぐんではったわ。 さようなら、また会う日までやで、先生。 ちなみに
苑
(
その
)
先生は、あのアキちゃんの絵を
描
(
か
)
いて
以来
(
いらい
)
、野菜一本の
芸風
(
げいふう
)
はやめて、
人物画
(
じんぶつが
)
を
描
(
か
)
くようにならはった。 それも何や、お前
変態
(
へんたい
)
やろみたいな絵やわ。
苑
(
その
)
先生、
背中
(
せなか
)
フェチやな。それから
筋肉
(
きんにく
)
好き? そんな自分の
異常性
(
いじょうせい
)
を
前向
(
まえむ
)
きに
捉
(
とら
)
えた絵を、それ言わんといてくれえ、言いながら
描
(
か
)
いて、
西森
(
にしもり
)
さんの
画廊
(
がろう
)
にちょこちょこ出入りしてはるわ。 まあまあ、ご
活躍
(
かつやく
)
なようで、政治一家の家族にも、ちょっとは
認
(
みと
)
めてもらえたんやとか、どうやろうとか。 まあまあ、
精々
(
せいぜい
)
、ようお
気張
(
きば
)
りやす先生。 俺らも
精一杯
(
せいいっぱい
)
の
努力
(
どりょく
)
で
頑張
(
がんば
)
ります。
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椎堂かおる
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