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30-59 トオル
そうやけど、あの婚姻 は、アキちゃんと俺の死によって無効 になってもうた。儚 いもんやった。
でもそれで、良かったんかもしれへん。そのおかげで、俺らは再 び誓 うことができる。皆 の前で。
次こそは、永遠 に何者 にも分 かつことのできへん、固い誓 いによって結 ばれて、それを三都 全域 の巫覡 が言祝 ぎ見守るという、それはそれは霊験 あらたかな、鬼道 的に最強 の結婚式 やで。
この誓 いは強固 で、龍 が踏 んでも壊 れへん。
俺らはもう永遠 に、離 れることはない。
「お前の儀式 がええかげんやったせいで、結婚 が無効 になってもうたんやてなあ」
また祝 いのドレススーツに身を包 んでいる藤堂 さんが、嫁 の神楽 遥 をいじっていた。
こっちももう司祭 の服やのうて、藤堂 さんに見立 ててもろた、淡 い色合いのフォーマルスーツを着てる。神父はもう卒業 やねんて。
「儀式 は完璧 でしたよ。死ぬからあかんのです。死後 の婚姻 までは神は保証 していません。片方 が死んだら、遺 されたほうは、生きていかなあかんのですよ。死者 との婚姻 に永遠 に縛 られるのは野蛮 です」
もう裏切 ったはずのヤハウェの教義 を、神楽 遥 は弁護 してやっていた。
こいつもまだまだ神の兵隊 や。穢 れてはいても、心のどこかはヤハウェのもののまま。
それでこそ、おっちゃんも犯 りがいがある。性癖 のマッチした、ええ夫婦 やわ。
あの餅 みたいな大司教 は諦 め悪くまだが神楽 を口説 いてるらしい。ヴァチカンに戻 れって。
今日の結婚式 にも来ていた。
神戸 の件 を解決 したことで、アキちゃんは教会 にとっても要人 となり、なんと結婚式 に大司教 が遣 わされちゃうんや。
それは凄 いことやで。ビール好きな餅 っぽいおっちゃんやけどな。実はものすごく神聖 な人なんや。
蔦子 さんや竜太郎 、信太 と寛太 も来たし、啓太 も来た。
一体 、信太 と啓太 のどっちが、蔦子 さんをエスコートする立場 をゲットしたんやろうなあ?
実 は、どっちでもないねん。
蔦子 さんはな、見知らぬ男を連れていた。
年の頃 は三十代ぐらいか。どっかで見たような顔や。また新しい若 いツバメか⁉︎
と思ったら、それが海道龍吾 さんやった。
蔦子 さんの旦那 や。竜太郎 のおとんやわ、顔もよう似 てる。
龍吾 さんはな、風水師 なんやで。
ずっとアフリカにおって、途上国 開発支援 事業 の一環 として、現地 の都市開 に関 わり、地元 のパワフルな霊 にボコボコにされたりして、大変やったけど、このほど土着 の神ともあんじょう話もついて、都市建設 の青写真 も整 い、しばらく帰国 できることになったんやそうや。
また次の任地 に飛 ばされるまで、家族が揃 うたんやな、竜太郎 。
お父さんが帰ってきた海道 家には、さっそく竜太郎 の彼氏 の安西 武雄 くんが乗 り込 んで来て、お父さん、竜太郎 くんを僕 にください。必ず幸せにしますと宣言 していったそうで、その話を親が俺らにボヤく間、竜太郎 は真っ赤になってくねくね身をよじらせていた。
この分 では分家 も滅亡 する。秋津 家の危機 や。
こうなったら滅亡 せんよう、皆 でなるべく永遠 に仲 よう生きるしかない。
殺 し合 うてる余裕 はもう、秋津 家にはないんや。人材難 でな。
後 はユミちゃんだけが頼 りやで。
そう言われてもなあって、ユミちゃんはおとんに抱 っこされ、小さい指を吸 いながら、ミステリアスな微笑 を湛 えているばかりやわ。
大丈夫 や。いざとなったら亨 ちゃんが卵 産 むから。
それかアキちゃんが十八人ぐらいに分裂 して増 える。
おとんかて、まだまだ頑張 るかもしれへんで。案外 、子供 好きみたいやし、ユミちゃん大きいなってもうたら、また子供 欲 しいわあて、無茶 な鬼道 生殖 で家族を増 やしてるかもしれへん。
それに竜太郎 が、武雄 くんと結婚 したら、子供 はぎょうさん欲 しいんやって。
十人ぐらい欲 しい。
ほんで家族で野球チーム作って、子供 のうち何人かは阪神 タイガースの選手 になってもええなあ、て言うんや。
お前らまだ中二やろ。中二やし、そんなこと言うんか?
男同士やろ。なにアホなこと言うてんのや。と、俺ら古い人は思うたんやけど、竜太郎 は、そんなことないで、と平気 で言う。
武雄 くんも、無理 なことないて言うてたで。科学の可能性 は無限大 や。
僕 、頭ええから、遺伝子 掛 け合 わせて人工 受精卵 作って、人工子宮 で子供 産 む研究 するわ。
それええなって武雄 くんも褒 めてくれたし。それなら誰 でも親になれるで、亨 ちゃんもやったるわ、って、にこにこ言うんで、前途 ある秀才 たちが可能 やっていうなら可能 なんやろみたいな緩 い空気になってた。
それはまあ、遠い遠いSFのような未来の話かもしれへん。
そうやけど、信じて待てば、高度 に発達 した科学とは、魔法 のようなものらしい。
まして竜太郎 は秋津 の子や。妖術 を使うんや。
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