3 / 10
第3話
「うわあああぁっ!!」
悲鳴をあげて立ち上がった佐藤にクラスメイトが全員振り返った。
「ど…どうした?佐藤…」
呆気に取られた先生の声。
いつもの教室、いつものクラスメイト……今のは何だったんだ?
「何でもないです……すみません」
寝てるんじゃないぞと注意され、着席する。
クスクスとクラス中から笑われ、先程の頭に流れた映像を思いだし、顔が真っ赤に染まる。熱い……。
皆が授業へと意識を戻したなか、まだ佐藤に視線を送るものがいる。
月雪 雅 …まだ文句があるのかと睨み付けると、視線をそらされた。
子守唄のような古典の授業を聞きながら、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
しかし何だったんだ…夢?寝た記憶無いんだけど…どんだけたまってんだよ、俺。
しかも男同士ってなんだよ!?普通、そこは可愛い女子マネだろ!?
自分の妄想に突っ込みを入れつつシャーペンを手に取る。
コレがアレで………
思いだしてまた一人赤面する。
変態だ……俺は変態だ。
終業のチャイムが流れ、机に突っ伏した。
最悪……マジ最悪。
騒がず、目立たず、ひっそりと。がモットーだったのに、とんだ失態だ。
先程の失敗の件で話しかけられるのが嫌で顔を伏せていたが、近づいてくる気配を感じた。
「佐藤があんな大声出すなんてめずらしいな」
「何の夢見てたんだよ?」
武田と山本。
高校に入って出来た、俺に負けず劣らず平凡な友人二人。
「ん~ちょっとなぁ~……」
流石に詳しくどころかさわりすらも教えられない。
そう答えると、彼らは無理に話を聞き出そうとはしない。居心地のよい友達だ。
彼らと昨日みたテレビやゲームの話で盛り上がっていると、女子たちの黄色い声が響く。
向こうのグループは毎日が楽しそうで良いですね。
川の向こう岸を見るような遠い目で、一際賑やかなグループをぼんやり眺める。
中心にいるのは月雪。
超イケメン。
頭も運動神経も良くて、なのに気さくで人当たりが良いと言う、凄く怪しい要注意人物。
俺は完璧な奴ほど信用しないと決めている。
何故か?妬みだ。
女子たちとキャッキャッウフフなイケメン様がこちらを見た。
こちらに一歩踏み出そうとして、可愛い女子たちに可愛く引き留められている。
俺に魔法が使えたら重力系の魔法で上から背を縮めて差し上げるのに。
始業のチャイムがなって、武田と山本が席に戻っていった。
午後の授業も終わり部活動へ向かう生徒を尻目に家路についた。
武田も山本も新聞部に入っているので放課後は一人でさっさと家に帰る。
校門まできた所で誰かに後ろから腕を掴まれた。
後ろを振り返るとネクタイ。ネクタイの妖怪か…いや違った。
視線を上げると、少し不機嫌そうな月雪の顔。
「いきなり何?」
「ずっと呼んでたんだけど」
どうやら呼ばれていたらしい。わざわざ追いかけてきてまで何の用だ?
あまりこっちを見られると困るんだけど…イケメンのキラキラビームは目に痛い。
「……で?何?」
「いや、今日授業中、様子がおかしかっただろ?何かあったのか?」
ただのクラスメイトにまで気を使ってご苦労なことである。
「なんもないし、あったとしても話した事の無いやつに相談する気ない。じゃあな、お気遣いありがと」
俺はめっちゃ態度悪っ!!な塩対応で踵を返した。
「待てって、佐藤!」
「まだなんか用?ほら。女の子達が呼んでるぞ、行ってやれよ」
遠くで女の子達の集団が『雅く~ん』と手を振っている。
俺など相手にしてないで、女の子達に囲まれている方が楽しかろうよ。
まだ何か言いたげにしている月雪を置いて、俺はその場を立ち去った。
流石に心配してくれた人に対する態度ではなかったが、如何せん俺は今それどころではない。
変態になってしまった自分について一人悩む時間が必要なのだ。
家に帰って、宿題やって、飯食って、風呂に入って、日常のルーティーンはこなした。
自室に戻り徐に鍵を掛けるとある筋……武田のお兄さんから手に入れた、秘蔵っ子のエッチな本を取り出した。
鑑賞。
うん、普通に勃った。
よし!やっぱり女の子好き。
間違いない。
溜まってたからあんな妄想を見てしまったんだとついでに抜いておく。
あまり性欲の強くない方なので油断していたよ。
やはり青少年たるもの、定期的な処理が必要なんだな。
これで大丈夫だと、安心して眠りについた。
――――――――――――――――――――――
「呪ってやる!!」
「お前が何度生まれ変わろうと、変わらない呪いを!!私を欺き、謀った、自分の罪を悔いるが良いっ!!」
――――――――――――――――――――――
…またあの夢を見てしまった。
この夢、自体がもう呪いじゃねぇか。
スマホのアラームが鳴り始め、充電器に繋がったスマホを取ろうとして、スマホの上に眼鏡が乗っかってる…。
そう認識した瞬間、またあの光に襲われた。
ともだちにシェアしよう!