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第5話

「始まるなぁぁ~っ!!」 「和ちゃ~ん、朝から大声出して、なぁ~にぃ?」 階下からの母親の声に大丈夫だと答えて、眼鏡をみる。 かけたくないな……しかしかけない事には、生活に支障をきたす為、うぇ~となりながら装着した。 「何、朝から疲れた顔だな」 教室に入るなり、机にへたりこんだ俺の頭を武田がわしゃわしゃかき回してくる。 やめろ。 セットが崩れるだろう。 くしでといただけだがな。 それを払いどけるのも面倒で好きにさせる。 「う~ん……夢見が悪い~」 「へぇ~どんな夢?」 「女に呪いをかけられる夢」 「呪いって、ぶふっ!中二病くさっ!」 武田め…貴様が呪いを受けろ。 「………山本は?」 いつもセットでいることの多い二人だから武田一人なのが気になった。 「山本はあっち」 指を指された方を見ると、必死に月雪に話しかける山本の姿があった。 え?何?あいつキラキラグループの仲間入りなの?超浮いてんじゃん。 マジか~すげぇ度胸だな。 よし、山本よ。心が折れたときはいつでも帰っておいで。俺は暖かく迎え入れるぞ。 「…生緩い目で何考えてんのか知らんが、新聞部で校内の有名人にインタビューする欄があってさ、俺ら月雪と同じクラスってことで任されちゃったんだよな」 なら何故お前はここにいる。 山本を見てみろ、月雪のイケメンビームと女の子達からの非難の目に晒されて涙目じゃないか! じと~と下から武田を睨み付ける。 「俺、あいつ苦手なんだよな~よく俺らの事、睨んでくるしさ」 そんな奴の下へ山本一人で向かわせたのか。 武田、ドS認定。 しかし、月雪は俺らの事をよく睨んでたのか、気づかなかった。 俺の持つ月雪の印象から、人当たりよく気さくという言葉を消去しておこう。 今日はもう、あんな夢を見ないと良いなぁと思いながら放課後を迎えた。 シャーペン見ても何ともなかったし、今日はもう大丈夫そうだな。 荷物を鞄に詰め込みながら、無事に授業をやり過ごした事に機嫌が良くなる。 ……それがいけなかった。 「俺がこんなに苦しんでるのに……」 山本にキレられた。 お前が苦しんでいる原因は武田のせいであろう。武田に絡め。 しかし昨日の放課後、月雪から俺に話しかけるのをしっかり見ていた山本に、仲が良いなら俺から月雪にインタビューしてきてくれと頼まれてしまった。 壁に耳あり、障子に山本だ。 俺は購買で売られる、伝説の人気商品『苺生クリームサンド』のために、我が身を売った。 だが……呼び止めた月雪を前にして固まってしまった。 昨日あんな態度をとっておいて、インタビューに答えてって……難易度高すぎ。 しかも武田に月雪が俺らを睨んでいるって、聞いたばかりだ。 目の前の月雪は 「佐藤が話しかけてくるなんてめずらしいね」ニコニコ俺の言葉を待ってくれている。 昨日の事、怒ってないのか? 俺は『苺生クリームサンド』を頭に浮かべ、勇気を振り絞った。 「あの…武田と山本に新聞のインタビュー頼まれて…良かったら…話を聞かせて欲し……」 人の目を見て話さない俺が、ちらりと月雪の反応を伺った時……。 めっちゃこわっ!! さっきまでニコニコしてたのに、お怒りの表情で見据えてくる。 イケメンのキレ顔めちゃこわです!! 背景にゴゴゴゴゴッて擬音が浮かんでいるぞ…。 「あ…ごめん。あれこれ聞かれて新聞に書かれるなんて…嫌だよな……へ、変なことで呼び止めてごめん……」 さよなら月雪。 さよなら苺生クリームサンド。 「待って、待って。良いよ」 は?良いよ……断ってくれて。 俺はもう帰りたい! 「そのかわり、交換条件。聞いてくれる?」 いやいやいや……何よ?交換条件って?その笑顔本当に恐いです!! 軽い恐慌状態の俺の腕を引いて歩き出す。 何処に行く気だよ! 「月雪…どこ行くんだ?」 「ん~?ゆっくり話ができるとこ」 月雪殿!! イケメンに腕を引かれ歩く姿は悪目立ちしますぞ!! 武田や山本とならともかく、月雪!お前は人目を引くのだ! 「ついてくから…手、離して」 解放された俺は月雪から3m離れてついていく。 「ここは?」 初めて入る教室だな。 キョロキョロ周りを見回してみる。 「学習準備室、まぁ物置だな」 へぇ~こんな部屋があるのか~でっかい三角定規やら何時の時代の物だ?というでかさのパソコンとか、盗んでもまぁ価値の無さそうなモノが並んでいる。 これなら生徒が自由に出入りできたところでって感じだな。 月雪は勝手知ったるという様に、手頃な高さの箱に腰をおろして俺に手招きした。 「佐藤もそこに座って。ここ、扉に窓もついてないし中から鍵を掛けられるし、話をするには便利なんだよ」 へぇ~良く知ってるなぁ。 俺は自分に用のある教室の場所しか興味ないので、校内の事にあまり詳しくない。 示された場所に座って山本から預かったメモを鞄から取り出す。 「まずは何が聞きたい?」 「誕生日、身長体重、得意な科目、苦手な科目、好きな人のタイプ、今好きな人…」 …ってそんな事まで聞くのかよ。こんなん答えたら騒ぎになるんじゃ… 「もうちょっと興味をもって聞いてくれると嬉しいんだけどね……誕生日は7月4日、身長178cm、体重60kg、得意な科目は数学、苦手な科目は…特にないかな…」 くそぅ…聞けば聞く程、モテる要素満載じゃねぇか…この精神的ダメージはチョコデニッシュもつけてもらおう。 「好きなタイプは…自分の事より人の事を考えられる子かな?好きな子はいるけど……ヒミツ」 口の前に人差し指を立てて、内緒ポーズ。 あざといポーズも良くお似合いだ。 ちょっとドキドキしてしまった…。 自己嫌悪。 「ありがとう…」 聞けと言われたことは聞いた。 もう用はないとばかりに立ち上がると手を掴まれた。 「交換条件……でしょ?次は俺の番」 がっ!?なんなんですか!?その笑顔!!反則でしょ!?眩しすぎて直視できねぇよ!!紙袋被ってろ!! 「佐藤……お前の秘密教えて?」 顔を寄せられ耳元で囁かれる。 な、な、なっ!? 背筋がぞくぞくと震え、腰が砕けそう。 イケボッ!リアルイケボだ!! イケテるグループのイケボのイケメン!! いくつイケをお持ちですかっ!? 俺なんて、イケてない、友達少ない、彼女いない。 ない、ない、ないの三段活用だぞ!? お前とは住んでる次元が違うんだ! 俺にもう構わないでくれ!! 「ねぇ……佐藤…」 俺は月雪から逃げるように顔を背けた。 視界の端にパソコンが見えて………白い光の洪水。 えっ!? 待って、待って!! このタイミングでまさかっ!!

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