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第8話 誰でもいい訳じゃない1(坂城恭治)

 俺の提案は一蹴され、恭にいは黙々と帰る準備をしている。俺はというと、だいぶ身体も楽になってきたにも関わらずまだベッドで寝かせてもらっている。 「ねぇ、恭にいが車で家まで送ってくれるの?」  自分で帰るのが億劫でごろごろしながらおねだりしてみるが、こちらを向いた恭にいの表情でわかってしまった。答えはノーだ。  恭にいがこの学校に赴任するまで、俺たちは一緒に暮らしていた。正確にいうと、父さんが単身赴任しているため、母の実家にお世話になっているのだ。俺は年が離れた兄ができたようで、嬉しくて、家にいる時間はほとんど恭にいにくっついていた。そんな叔父がいなくなったショックは計り知れなく、俺はこの学校を目指したのだ。  しかし、実際入学してみたら──当たり前なのだが──昔のように甘えることなどできず、近くにいるのに甘えられない状況の方がよほど耐えがたかった。 「いや、無理だよね……ごめん。特別扱いはできないもんね」  聞いた俺が馬鹿だった。勝手に期待して、勝手に落ち込むって、本当馬鹿みたいだ。 「ああ、悪いな。それより、もう身体も動くだろ?教室に荷物取ってこい。保護者を呼んでおくから」  自分の姉でも、生徒の保護者なわけね。  のろのろとベッドから降りると、そのまま無言で保健室を出た。先生な恭にいにはまだ慣れない。 「なんで教室棟と保健室こんなに遠いの。保健室使わせるつもりないじゃん!」  周りはすでに暗くなっているため、廊下の電気を片っ端から付けながら教室を目指す。  それにしても遠い。恭にい目当てに保健室通ってる生徒を尊敬するレベルだ。 「おい!こんな時間になにをしている!」  突然背後からどなり声が聞こえ、硬直する。きっと、面白いくらい肩がびくついたはずだ……。そんな恥ずかしさと、恐怖から硬直したまま後ろを向けないでいると、声の主は強引に俺の肩を掴んで振り返らせた。 「お前……一年の上田一(うえだはじめ)か?」  やっと俺の名前がでました。某CMの1UPを目指す青年と同姓同名だ。CMが始まる前から俺は上田一なのに、なぜ俺が「1UPの人」と呼ばれなくてはならないのか……。  そして、あっちの上田一のせいで、俺の噂は瞬く間に広まりった。「1UPの人、ビッチなんだって」と。いや、この言われようでは、俺がCMの方に迷惑をかけていることになるのだろうか……。  とにかく、俺の知名度が良くも悪くも上がってしまったことには変わりない。全校中、いや、先生たちの間にまで噂が広まるほどに……。 「こんな時間まで、学校で何をしていた?あの噂は……本当だったということか?」

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