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第9話 誰でもいい訳じゃない2(坂城恭治)

「田中先生……」  俺の肩を掴んだまま、爪先から頭の先まで値踏みするように見てくるのは、生徒指導の田中だ。体育教師で、3年の学年主任。ガチムチ系で、柔道部の顧問もしている。俺たちのクラスの体育担当は田中じゃないが、生徒指導としてその存在は全生徒が認識している。  なんでも、目をつけられると厄介なのだとか。興味が無さすぎてどう厄介なのかまで聞いていなかった自分を恨む……。 「廊下の電気が付いているからおかしいと思って来てみれば。とっくに下校時刻は過ぎてるだろうが。ええ?こんな時間まで、どこでなにしてたんだ」  さっきの怒鳴り声よりはましだが、声からの威圧感が半端ないって。しかも、じりじりと壁に寄ってくるし。こんなガチムチに追い詰められたら、俺なんかぺちゃんこになっちゃうよ!  それに、保健室で寝ていたことを説明するにも、なにかそれらしい理由が必要だし。貧血?腹痛?頭痛?なんでもいい。適当に言えばいいことはわかっているのだが、なかなか声が出ない。認めよう。ビビり過ぎて声が出ない!  今まで平々凡々な生活を送っていた俺は、生徒指導どころか担任からも怒鳴られた経験などない。しかも、誰もいない夜の学校の廊下とか怖すぎでしょ! 「なんだぁ?答えられないことでもしてたのか?」  とうとう俺の背中は廊下の壁にぴったりとくっついてしまった。これ!これも、体罰に入るのじゃなかろうか!今の時代だもの!  そんな状況であうあうと声にならない呻きをあげるしかできない俺の様子に、ふんっと鼻を鳴らすとずいっと顔を近づけてくる。 「不純同姓行為でもしてたんじゃないのかぁ、上田。なぁ。」  その貧相そうな身体で、ヤりまくってるそうじゃねえか。耳に鼻息がかかるくらいの距離でそう呟かれ、全身に鳥肌がたつ。  いや、何この雰囲気。まぁ、噂が拡散しまくっていて、教師の耳にも届いているのだろうが。生徒指導室呼ばれてとか、教室残されて、とかならまだしも、今、このタイミングでこの近さで?しかも、俺はもうこれ以上後ろには下がれない状態であるのに、田中はほど密着と言っても過言ではないほど迫って来ている。まずい気しかしない。 「生徒指導として、確かめねぇといけねぇなぁ。噂が本当なら、学校の風紀が大いに乱れる」  おいおい嘘だろ。もっともらしいことをいいながら、こいつ俺の股間揉んでるんだけど!  脳内大パニックで、また硬直状態。本当のビッチだったら、先生だって手玉にとっちゃうもんじゃないの?やっぱり俺、ビッチなんかじゃないって! 「や、やてめくださいっ」  やっとこ抵抗らしい言葉を発することができたが、相変わらず身体はがちがちに固まって、田中の成すがままになっている。尚親くんにだって、強引にこういうことをされたりするけど、全然違う。田中にされるのは、嫌悪感しかない。

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