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第10話 誰でもいい訳じゃない3(坂城恭治)

「やめて下さい!」  本当に気持ちが悪くて、手で阻止しようとすると、逆にその手を取られて壁に縫い付けられてしまう。今度は田中の膝が俺のまたに割り入って、デリケートな部分を刺激してくる。 「嫌がるふりもテクのひとつか?」 「嫌だって言ってんだろ!キモいんだよ!離せ変態!」  俺がそう叫ぶと、下卑た笑いを浮かべていた田中の顔がすっと真顔になり、次の瞬間には力強い平手が頬を張った。暴力による痛みに、呆然としていると、今度は手の甲で反対側の頬でぶたれる。 「ごめんなさい!ごめんなさい!」  もう何が何だかわからなくなり、取り敢えず謝りながら自由になった方の手で、田中からの暴力を防ぎながら謝るが、成すがままに殴られ続ける。 「何が変態だこのやろう!お前の方が誰にでも股を開く変態だろうが!そんな分際で俺を拒みやがって!馬鹿にしやがって!」  そうか。変態がNGワードだったわけか。容赦なく打ち出されるびんたを受けながら、早く終わってくれと願うばかり。  口の中に血の味が広がり、両頬が痛みと熱で晴れ上がっているだろうことがわかる。  今日は、厄日だろうか。 「田中先生!何をやっているんですか!!」  どれくらい殴られ続けたのか、突然叫び声ともとれる怒号が聞こえた。声の主が田中を俺から引き剥がしたのだろう、暴力が止むと膝の力が抜けて壁伝いにずるずるとしゃがみこんでしまう。  一連の恐怖や助かった安心感から涙が滝のように溢れてきた。 「大丈夫か、おい!」  救世主は二人いるようで、俺の方に寄ってきたのは恭にい。田中を後ろから羽交い締めにしているのは、俺の担任の滋野(しげの)だ。  俺は恭にいの呼び掛けにうなずくのが精一杯で、涙を止めることはおろか声をあげることもできなかった。 「坂城先生、僕は田中先生を職員室に連れていきますから、上田の方をよろしくお願いします」  滋野に抑えられた田中は呆然と今の状況を眺め、ずるずると引きずられて廊下の向こうへ消えていった。  厄介というのは、こういうことだったのだろうか。キレると周りが見えなくなるタイプらしい。それとも、生徒にさっきのようなセクハラをしまっくってたのだろうか。その両方か? 「一、一、おい。大丈夫か?」  泣きながら廊下の奥をぼうっと見ている俺を心配したのか、恭にいが久しぶりに下の名前を呼んでくれた。 「口の中……、痛い。あと、頬っぺたも」  やっとしゃべった俺を見て、安心したように息を一つ吐くと、俺をぎゅっと抱き締めてくれた。 「恭にい、ここ、学校だよ」  いつもの恭にいでは有り得ない行動に戸惑うが、抱き締めて貰えたことが嬉しくて、そのまま甘えるように背中に手を回した。 「ちょっとだけ。今だけな。」  そう言って、俺が泣き止むまで恭にいは抱き締め続けてくれた。  

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