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第13話 誰でもいい訳じゃない6(坂城恭治)
「連絡したか?」
「……うん」
その後、家に着くまでしつこく尚親くんに連絡しろとか、したかとか聞かれ過ぎて答えるのも面倒くさくなっていた。
まぁ、そんなことを言われたところで尚親くんの連絡先なんて知らないので、できるはずもないのだけれど。よく考えたら、連絡先も知らない相手とするような約束ではなかったな……。彼氏にはなってくれないし。
恭にいは……本当に、俺に本気なのかな。
「俺は車停めてから行くから、先に鍵開けとけ」
玄関前で俺を車から下ろすと、恭にいは隣の駐車場へと向かった。それを横目で見ながら俺は玄関の鍵を開けて中に入る。とたんに、ドキドキと鼓動が早くなっていくのが感じられた。今日、この後、恭にいに抱かれる。ずっと望んでいたはずなのに、今になって緊張してきてしまった。
「うおっ!なんだ、なんでこんなところで立ち止まってんだ」
車を停めてきた恭にいが、入ったところすぐで立ち止まってる俺にぶつかりそうになって、驚かれる。くるりと恭にいの方に向き直ると、驚いた表情のまま眉を少し動かし俺の動向を伺っていた。
緊張をごまかすように、表情を読み取られないように、恭にいに抱きついて厚い胸板に顔を埋めるように密着させる。
「おいおい、いやに可愛いな。どうした?」
そんな俺をぎゅっと抱き締めて、子供をあやすようにゆったりと体を揺すってくれる恭にい。そうだ。この、俺を甘々に甘やかしてくれるのが俺の知ってる恭にいだ。
最近塩対応ばかりだったので、余計に胸が熱くなる。
「えっち、するの?」
「するよ」
「本当に?」
「ほんと」
体を揺すられながら──自分でも恥ずかしくなるくらい──舌足らずなしゃべり方と上目遣いで恭にいに問う。それに対して、恭にいも小さな子供に喋りかけるように甘く優しく返してくれる。
こんな甘い雰囲気、初めてだ。本当に恋人になったようで、ふわふわした気持ちになる。
「うわっ」
甘い雰囲気にとろけていたら、急に足が宙に浮き、一瞬何が起きたかと思った。が、なんのことはない。恭にいに抱き上げられていた。しかもお姫様抱っこだ。放課後は──記憶にはないが──尚親くんがおぶってくれたらしい。今日は、よく運ばれる日だ。
意図せず尚親くんの存在を思い出し、さっきまでのとろけた気分が少し冷めてしまった。約束してから数時間で他の誰かとえっちするなんて、今度こそアナルずたずたにされるかも。
いや、その前に愛想をつかされるかな。あんな約束、やっぱりしなければよかった。
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