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5話

 御剣セイトに監禁されてから一ヵ月が経とうとしていた。世間では、ヨシキの扱いがどうなっているのか、ヨシキ自身分かっていなかったし、把握することも難しい。それでも、御剣セイトに監禁された生活は、比較的に穏やかで平和な時間が流れていた。  太陽の日差しが窓から射し込んできて、ぽかぽかと部屋の中は温かくなる。ヨシキは柔らかいソファーの上で、眠気に誘われてしまい、うとうとし始めていた。まどろみながらも、御剣セイトについてヨシキは考えていた。  フォークの人間であるセイトに監禁された当初は、一目惚れをしているとしてもヨシキは、フォークの人間である事実に怖さがぬぐい切れず、身体を震わせていて怯えていた。死なない程度に暴力を振るわれたりするのだろうかと、予想をしていた。フォークの人間は犯罪予備軍と呼ばれている事から、ケーキの人間は目をつけられたら最期、ほとんど酷い末路を辿ると言われていた。ヨシキは酷い目に遭うのだろうと覚悟をしていた。痛い目に遭うのならば、全力で抵抗して、全力で逃げなければいけないと決意を固めたほどだった。けれど、セイトはヨシキに対して、嫌がる事や酷い事を一切しなかった。  いつも、ヨシキの事を優先して、考えて接してくれていた。セイトの言葉通りに、衣食住の安全面を保証されていたし、監禁されているとは言え、逃げようとさえしなければ、好きに自由な時間を過ごせた。ヨシキが退屈しない様にと、セイトは漫画や雑誌やゲーム機、DVD等をいろいろ買い与えてくれた。もともと、外で活発的に遊ぶ事よりも家の中でのんびりと過ごすのが好きなヨシキにとっては、随分と過ごしやすく快適な環境だった。たまにセイトの監視付きという条件で変装させられて、外にも出してくれたりもした。セイトは朝・昼・夜のヨシキの食事の時間に、いつも姿を現した。出前を取ってくれる事もあれば、セイトが自ら調理をして手作りの料理を振る舞ってくれたりもした。  最初は、味覚を失ってしまったセイトの作る料理は大丈夫なのだろうかと、料理があまり得意では無いヨシキは疑問に思った。けれど、オムレツを作ってくれた時に、一口食べると口の中で卵とまろやかな牛乳とクリームの味が広がっていて、とても美味しく感じたのだった。素直に「美味しい」と感想を告げると、セイトは「そうか」と短く素っ気ない感じに答えるが、青色の瞳は穏やかに喜色に満ちていたのを今でも忘れられない。それからセイトは、たまにヨシキの好物であるオムレツを作ってくれるようになった。プレーン風のオムレツから、チーズ入りのオムレツ、ひき肉入りのオムレツなど、飽きない様にと味を変えて料理をしてくれた。  食事の時間に、セイトと話す機会があるので、ヨシキは少しずつ会話をするようになった。セイトとヨシキは歳が近いからかとても話しやすかった。お互いに猫が好きなのだと分かると、猫の話で盛り上がり、セイトが飼っている黒猫の話をしてくれた。その度に、セイトに対して少しずついろいろと知る事が出来て、ヨシキは一人嬉しく思った。フォークの人間であるセイトは、他のフォークの人間と比べたら、とても理性的で繊細で心根は優しい人なのだと話していて、接していって分かった事だった。監禁されていることを忘れてしまうくらいには、セイトと過ごす生活が居心地よく感じてしまっていた。  それと同時に、ヨシキはいつしかセイトに対して、一目惚れから恋心を抱いてしまった。稀にだがフォークの人間とケーキの人間が惹かれ合うとネットでは書いてあったが、セイトがフォークの人間でなくても、きっと好きになっていただろうとヨシキは考えた。けれど、セイトが優しいのは自分がケーキの人間であるからなのだろうと考えると、ヨシキの心はずきりと痛みだす。ヨシキがケーキの人間でなければ、セイトがフォークの人間でなければと時々考える。けれど、ヨシキがケーキの人間で、セイトがフォークの人間だからこそ、こうして、歪んだ形で出会いを果たしたのだろうとも思う。  結局の所、駒村ヨシキがこの監禁生活から逃げ出さないのは、恋心を抱いた相手である御剣セイトと、少しでも一緒に過ごしていたいからだ。最初に恋心を抱いた時には、まだヨシキの中に芽生え始めた恋心を隠しながら過ごせた。けれど、最近はセイトにキスされるだけで、身体に快楽の炎が灯ってしまうようになってしまった。  深夜の時間帯。そっと熱っぽい息を吐いて、浴室へ向かい服を脱ぐ。温かいシャワーを浴びながら、ヨシキはそっと勃起してしまっている自分の自身を取り出して、慰めては自慰をしていた。セイトのキスは、食事をする為の行為であって、恋人に口付けをする為の行為ではない事は頭では分かっていても、身体は求めて止められそうになかった。ヨシキは、毎夜、持て余した熱の身体を引きずって、セイトの事を想いながら一人自慰に耽る。そんな自分が、何て浅ましいのだろうとヨシキは嘆いて、ほろりと涙を零す日々が続いた。 「セイトさん…」  好きです、そう想いを伝えてしまったら、きっと、この穏やかな監禁生活が全て終わってしまう気がした。それならばいっそのこと、伝えなければ監禁生活が続くのだと考える。  セイトに対しての恋心を奥底に隠してしまおうと、臆病なヨシキはそっとソファーの上で、まどろみながら眠りに着いたのだった。今日のセイトはどんな料理を作ってくれるのだろうかと、密かに楽しみに考えながら。

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