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呼ぶ声 ―7―
この国は『ラスタリア教国』という、世界樹を信仰するラスタリア教の本部がある聖域のような国らしい。
世界樹の葉はあらゆる傷を。
世界樹の花はあらゆる病を。
世界樹の実は新しい命を生み出す薬となる。
世界樹の枝で作られた杖は魔力を大幅に増幅させるし、防具とすると絶大な守りを発揮するそうだ。
この国の王族は代々世界樹と会話をして加護を受け取る力を持っているため、リナーシア様も聖女として努めていた。
だが、数年前から世界樹の声が聞こえ無くなり、それでも毎日呼び掛け続けたが反応はなかった。
そんなある日、不思議な夢の中で俺と出会い、俺は手を貸すと約束をしたのだそうだ。
夢の中だからってなんて安請け合いをするんだ俺……自分に何が出来るつもりだったのか?
そして今、リナーシア様のピンチを救った救世主みたいにマーニャさんは言うけど……。
「このシャボン玉がリナーシア様の力なら、俺が助けなくても大丈夫だったんじゃ?」
「いえ、私も長年リナーシア様のお側に仕えて世界樹様のお声は聞けなくとも、お力を感じていました」
マーニャさんは寂しそうな視線を世界樹へと向けた。
「……ですが、ここ数年感じる事のなかった世界樹様のお力が、サクラ様が現れた瞬間から復活したのです。リナーシア様の魔法は世界樹様の加護に由来するものなので世界樹様にお応えになっていただけなければリナーシア様は無力なのです」
ちなみにさっき見た桜色の瞳が加護を受けている状態なのだそうだ。
世界樹の力を使うのはリナーシア様の体にはとても負担がかかるそうで糸が切れたように眠りにつくことも度々あるそうだ。
ただ目を覚ますのが5分後なのか明日なのかはマーニャさんにもわからないらしい。
「ところで、俺達は何処に向かっているんでしょうかね?」
リナーシア様が意識を失って、割れてしまうんじゃないかと思ったが、シャボン玉は消えることなく進み続けている。
進行方向の先には世界樹がある。
「世界樹様のお側は教会が管理していて、王族の方でも近づけなくて……ここまで来たのは私も初めてです」
マーニャさんはうっとりと世界樹にみとれている。
リナーシア様もそうだけどマーニャさんも本当に世界樹様を心酔してるんだな。
あの部屋から見たときも立派な木だと思ったけど、近づいてみるとその大きさに圧倒される。高層ビル並みにでかい。
力強い幹に緑の葉をお生い茂らせた様は世界樹の名に恥じない姿だった。
目的地はここかと思っていたのだが、シャボン玉は世界樹の横を通り抜け、あの部屋からは見えない裏側へと進んで行った。
教会の人達の頭上を通過するも誰も反応しない。
外から俺達の姿は見えないのだろうか?
………………。
俺とマーニャさんは世界樹の現状を目の当たりにしてしまった。
ここへ連れてきたのは、この姿を見せる為だったのか……?
「なんて事を……!!こんなっ……!!」
マーニャさんは言葉を失い、涙を拭う事も忘れて泣き続けている。
世界樹を信仰していない俺でもこの光景には悲しみと強い怒りを感じる。
リナーシア様が目にしないで済んだ事が唯一の救いだろうか。
世界樹はもう……手遅れだろう……。
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