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呼ぶ声 ―8―
……かける言葉が見つからない。
いまだ目を覚まさない、リナーシア様を抱き締めながらマーニャさんは静かに涙を流し続けている。
王族を遠ざけ――――欺き、
民を遠ざけ――――――偽った、
教会が行っていたのは搾取。
街から見えない世界樹の裏側は、幹を抉られ。
足場の為に無数の杭を打たれ、枝は落とされ、王国側だけ取り繕ったハリボテのような姿だった。
たっているのが不思議なくらいに……。
その姿も遠く霞んで、目の前には大地の裂け目のように谷が広がってきた。
俺達はまだ進み続ける。
シャボン玉の行き先がリナーシア様の意思でないなら世界樹が導いてくれているのだろう。
今度は何を見せようとしているのか?
谷……谷……心に何かが引っかかる。何だっけ?
「ディスプワールの谷…光の届かない、魔物の巣窟となっている死の谷と呼ばれています。底に降りたものがいないので、詳しい事はわかりませんが…」
マーニャさんは虚ろな目をして谷底を見ている。
俺達は吸い込まれるように下降を始めた。
「……オクスダートの言葉が真実ならばリヒト王子が落とされたと言う谷はこの谷でしょう」
あぁ、何か引っ掛かると思ったらあのおっさんが言ってたのか。
王子も魔法が使えるなら俺たちみたいに飛んで逃げたのでは?
王子が使えるのは攻撃魔法だけらしい、そもそも空を飛ぶような魔法は今まで見た事が無かったそうだ。
マーニャさんの顔は真っ青で……。
きっと俺と同じ想像をしたのだろう。
世界樹が次に向かおうとしているのは谷の底、王子の場所。
そこには王子の遺体があるのではなかろうか……と。
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