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呼ぶ声 ―9―

お互い何もしゃべらないまま下降して行く。 谷は深い。 もしかしたら生きているんじゃないか?なんて希望は下降して行くにつれ、どんどん失われていく。 ようやく底に到達したらしく、シャボン玉が消えた。 俺たちは久しぶりに足を地につける。 見渡しても王子の遺体は無さそうだ。 ホッと胸を撫で下ろした。 流石にそれは……見たくない。 うっそうと繁った樹々が太陽をさえぎり、日が出ていたはずなのに暗い。 俺の足裏から伝わる地面の感触は硬く。 自然豊かな上の世界とは別世界だ。 まさに死の谷。 部屋着のままだった俺は素足だ。 リナーシア様とマーニャさんは室内でも靴を履く文化なのだろう。 しっかり靴を履いている。 こんな場所を目的もなく裸足で歩き続ける自信ない……。 「サクラ様のお履物は?」 俺が足元を見ていた事でマーニャさんが気づいてくれた。 首を横に振る。 「少々お待ち下さい」 そう言うとリナーリア様を俺に預け、マーニャさんは膝まである、ワンピースの裾をたくしあげた。 突然のことで真っ赤になって固まる俺をよそに、太ももに着けたホルダーからナイフを取りだす。 ナイフががぼんやりと光りだしてと思ったら、マーニャさんは倒れている丸太を野菜でも切るかのように、加工していった。 えっ?えっ?と思っている間に木の靴が出来た。 「何これ!マーニャさん凄い!!」 履いてみるとぴったりで歩きやすい。 あまりの感動に子供の様にはしゃいでしまった。 「私、生活魔法にかけては右に出るものはいないと自負しておりますの。料理、掃除、裁縫なんでもこなせます!何でもおっしゃってください!!」 顔を近づけて鼻息荒く熱弁するマーニャさん。さっきまで泣きそうだったのに……元気になって何よりです。 「って、マーニャさん!?鼻血出てますよ!?大丈夫ですか!?」 「失礼しました。サクラ様があまりに可愛く、私をお褒めくださるもので……」 可愛いって30のおっさんですけど……。 「あれっ?でも、今の魔法使えばさっきの親父や騎士さんにも負けないんじゃ?」 「あくまで生活魔法の範囲内に限定されておりまして……命あるものを傷つける事が出来なかったり、材質そのものの質を変えたり色々制約がありまして……私、戦闘は出来ないのです……」 しゅんとして項垂れてしまった。 感情の表現の豊かな人だな。 「……………」 しかしどうしよう。 日の出ている時間でこの暗さだ。 夜になると真っ暗になるだろう。 日が暮れる前に安全な場所に移動したい。 マーニャさん話だと魔物も出るって言ってたし……。 夢なら夢らしく、ご都合主義で洞くつがバーンとか……周りを見渡しても木、木、木……。 木の上は安全かな? リナーシア様は目を覚ます気配がないから、木の上まで運ぶのは難しそう。 人が入れる程大きなウロを持つ木も無い。 マーニャさんに加工して貰おうかとも思ったが、まだ生きている木だから魔法が発動しないそうだ。

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