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呼ぶ声 ―10―
とりあえずリナーシア様をマーニャさんが背負って移動を始めた。
俺が背負うと言ったのだが、もし魔物とであった時マーニャさんは魔物と戦えない。
俺が先導して進む事になった。
マーニャさんは『ドルトフ様を一撃で倒したサクラ様ならどんな魔物がきても大丈夫!!』と言っていたが、全く自信無い。
魔物なんて見た事も無いし。
まぁ、もしもの時には俺がやられている間に逃げてくれればいい。
俺は最悪、夢から覚めれば良いだけだ。
武器も無い、魔法も無い、戦うすべも無いのにとんだ無理ゲーだよ。
溜め息をつきながら草木を分けて前に進む。
「ふふふ……」
「ふわぁっ!!何!?」
突然の笑い声に僕は飛び上がってしまった。
「いえ……くくっ……何でもありませんわ」
何でも無いなら何でいきなり笑う!?
心臓に悪いだろ!!
マーニャさんの方を振り返り文句を言おうとして戦慄した。
二人の後ろに赤く光る目を持った獣が立っていた。
二本足で立ち上がったその獣が腕を振り下ろすのがスローモーションのように見えて……。
「っっ!!!」
咄嗟に二人を押しどけた俺の右肩に強烈な一撃が降り下ろされた。
「サクラ様っ!!!」
―――――痛い痛い痛い痛い痛いっ!!
倒れこみたいが、気力で踏ん張る。
まだ駄目だ。
マーニャさんとリナーシア様を守らなきゃ……。
獣の顔が近づいてくるのが見え、肩口に、胸に、背中に激痛が走った。
「いやあぁっ!サクラ様っ!!」
「良いから……早く逃げて……」
メキメキと骨が音を立てる。
俺の右半身をかじる獣は止めをささんとするように顎に力を込めてくる。
無駄だと思いながら、残った左腕を獣の首に回し捕まえる。
早く逃げろよ……マーニャさんの悲鳴にだんだんムカついてきた。
あんた達までやられたら、俺がこんな痛い思いしてる意味ないじゃん。
「はや……ゴブッ!」
口から血の泡がぶくぶくこぼれだした。
わかってたけどさ……これってやっぱり夢じゃなかったんだぁ……。
夢なら良いなって思い込もうとしてたけど……。
あ~ぁ……俺、なんて軽々しく簡単に死にたいなんて口に出してたんだろうな……死ぬのこんなに痛てぇよ………。
マーニャさんちゃんと逃げたかなぁ……?
こんな奴ばかりがいるとこに……残してごめん……。
リナーシア様……お兄さん、生きてるといいね……。
……おじさん、もう一回会いたかったなぁ……。
「リヒト王子っ!!」
マーニャさんの声が響く。
肉を切る様な音が聞こえて、俺の右半身を締め付けていた力が消える……。
誰かが助けてくれた?
「しっかりしろ!!」
あぁ……誰かの声がする。
今俺を抱き止めてくれるのは王子?
もう、霞んで声の主は見えない。
リナーシア様のお兄さんならきっと格好いい王子様なんだろうなぁ……死ぬ前に1度くらい生王子様のご尊顔を拝見したかった……。
……寒い……………眠い…………………おやす…み。
「貴方の世界樹の葉、使用させていただきます」
………………………は?
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